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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
44章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、動き出す蜃の炎を見うる。
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聖女ちゃんと動けない状況

「昨日、カグラに会ったわよ」



「……? なぜ俺に言う」



「聞きたいかと思って」



「余計なお世話だ」



 リョカが籠った次の日、あたしたちはキサラギの家で朝食をとっているのだけれど、昨夜カグラに会ったことをテッカに伝えると、なぜか機嫌が悪くなった。

 せっかく教えてあげたのに、この男は礼の1つもしないのだろうか。



「……恩着せがましい」



「何も言っていないわ」



 いーっとした顔のテッカにあたしが訝しんでいると、ガイルが愉快そうに笑っていた。見世物ではないのだけれど。



「昨日は少し話しただけなんだが、やっぱりカナデを捜しているとさ。ただおおっぴろには動けないみたいでな、あっちも難航しているそうだ」



「そうか。こちらに協力してくれそうか?」



「う~ん……」



「どうかしたか?」



 ガイルが首を傾げて唸っている。

 まあ気持ちはわからなくもない。昨夜会話の中で何度か一緒に行動することをそれとなく打診してみたけれど、どうにもカグラはそれをやんわりと拒んでいるようだった。

 あたしたちが嫌だとかそんな雰囲気ではなかった。むしろ好意的な空気感だった。



 けれど彼女はしきりにカナデを早く見つけ出してほしいということと、早い内にこの国から出ることを勧めてきただけであった。



「……ありゃあ自分を犠牲にしている奴の顔よ」



「どういうこと?」



「きっとあのシラヌイにとっちゃカナデやお前たちを守るためなら自分の犠牲も厭わない。そういう人間の顔をしていたわ」



 どこか吐き捨てるようなアヤメに、あたしはこの子の頭を撫でてやる。

 戦いを放棄したように思える選択がこの子は気に入らないのだろう。



 するとテッカが思案顔を浮かべるように顔を伏せた。

 この男もこの男で、思うところがあるのだろう。



「そういえば、随分と手の甲を気にしていたわね。なんか紋章? みたいなのが描かれていたけれど」



「そういやぁあったな。ありゃあなんだ? 確かシラヌイにギフトはないんだろう?」



「わかんない。あの紋章からは何も感じなかったわ、本当に何も……いや、それはそれでおかしいわね」



「リョカに聞いてみようかしら」



「何でもかんでもリョカに聞いて答えが出るわけでもないんだがな」



「じゃあもっと役に立ちなさいよ神獣」



 ぷくと膨れるアヤメを膝に乗せてあやし、これからどうしようかとあたしは朝食のオムレツに手を伸ばした。

 リョカが食事は出せないなんて言っていたけれど、こうやってしっかりと朝食とあと厨房に人数分あった弁当箱を見てしまうと、あの子も真面目なのよね。

 忙しいのなら作らなくてもよかったのに。そんなことを考えながらあたしはオムレツを口に運び、中に入ったトロっとした肉と野菜を堪能した。



「というかリョカは何をしているんだ?」



「ああ、あんた昨日埋まっていたんだったわね。なんか夜を紛れ込ませているとか言ってたわ」



「夜を? つまり夜神様の力か……あのよくわからない力か」



「アリシアのギフトは何だかんだ癖があるからな。強力は強力だが、夜を扱う性質上、どうしても日中は集中しなくちゃならないのよ」



「あいつのあれは正直二度と相手にしたくねえな。気配も攻撃も独特すぎて対応するのに精いっぱいになる」



「運命神様のギフトもそうだが、リョカの使うギフトは奇抜すぎる」



 前衛3人で頷いていると、アヤメが思い出したかのように手を叩いた。



「ヴィヴィラで思い出したけれど、ジンギは今カナデと一緒にいるのよね? あいつがサッサとカナデを連れてきてくれれば楽なんだけれど、カナデが頑固なんだろうな」



「て~か、そこで動きが止まっちまっているせいで俺たち動きようがないんだよな。助けてって言ってくれりゃあすっ飛んでいくんだが、どういうわけかそれがねえ。カナデは一体何を迷ってる?」



 あたしは朝食を飲み込むと、少し考えてみる。あの子が困っていそうなこと……1つあるわね。



「……忘れられていることへの恐怖、かしらね」



「あり得るな。その黄衣の魔王の者がどんな取引を持ち掛けたかはわからないが、お前たちが王都に行っている間、カナデも戻ってきていたのだろう。そしてその時に」



「全員から忘れられた。か。まったく情けない話だぜ、知らないうちに魔王の攻撃を受けていたとは勇者の名折れだ」



「だがそれもジンギで解消しているはずでしょ。ということはその取引が厄介だったか」



「まあ、ジンギもついているからある程度は心配していないのだけれど、それでも相手が相手よ、ジンギ1人じゃどうにもできないかもしれない」



「あいつも相当強くなったんだろ」



「それでも相手は魔王でしょ? リョカが言っていたけれど、シラヌイの魔王はロイやミルドよりも厄介かもって」



「あいつがそう言うほどか。カナデ見つけたら撤退するか?」



「あたしにそれを委ねるのなら、ぶん殴りに行く一択になるけれどいいの?」



「俺もそっち派。俺が救った国で別の魔王が動いているっつうのも気分いいものじゃねえしな」



「あたしは何が何でも殴るわよ。カナデをあんな風にした元凶だし、何よりも在り方が気に入らない」



「……お前たち、少しは冷静にだな――」



「あたしが思うに、シラヌイの魔王をどうにかしないとカグラは解放されないわよ」



「……」



 テッカがあたしを睨みつけてくるのだけれど、実際そうなのだろう。

 リョカはカナデとカグラの2人を助けるという考えみたいだけれど、少なくともそれは元凶を取り除かなければならない。そんな予感がする。



「で? 結局俺たちはどう動けばいいんだよ」



「……ギルド」



「ん?」



「1人いるでしょ。繋がりそうなやつ」



「ギン、か」



「リョカにギルドの方――というか、レンゲたちが困っていたら手を貸すように言われてたし、そっち方面を洗ってみない?」



「ふむ、じゃあ俺たちでギルドに行って依頼を受ける。って感じか?」



「レンゲたちと受ければいいでしょ」



「……俺がいて大丈夫か?」



「今さらでしょ。兄弟仲良くしなさいよ」



 何を気合を入れる必要があるのか、テッカが深呼吸をし始め、あたしとアヤメ、ガイルで顔を見合わせて呆れたように息を吐いた。



「じゃあ決まりね。お弁当持ってギルドに行くわよ」



「あいよ」

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