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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
43章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、しばしの休息。
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夜を被る魔王ちゃん、夜の目となる

「さてと――」



 ミーシャとバッシュくんと別れた私はキサラギの屋敷にある稽古場で正座をしながら息を吐いた。

 そろそろ本格的に動き出さないと、いつまでも時間がかかってしょうがない。だからこの場から動けなくなるけれど、もうすぐで夜だし確実に情報を得られるように少し本気を出そうと思う。



 私が座ったのを見て、ツキコが首を傾げた。



「ヨリのままなのですね」



「……うん、この間は近くにいたからって言ったけれど、実際使ってみてアリシアちゃんのギフトは本当に使いやすい。よく考えて練られている。月神様、あなたの妹様は、あなたに似て人間のことを想ってくれている女神さまです」



「――」



 ツキコ……ルナちゃんが一度顔を伏せ、それを振り払うようにすぐに微笑みを浮かべた。

 ミーシャにはああやって言われたけれど、やっぱりきっかけがない。ルナちゃんは私たちを信頼してくれているとは思う。けれどだからこそ、彼女は優しくて責任感が強いから、自分の尻拭いは自分でしたがる。



「……はい、優秀な、とても素敵な女神(いもうと)なのですよ」



「ええ、とても」



「でも、もうあの子はわたくしを許してはくれない」



「……そんなことは」



「いいえ、あの日、あの時に、あの子を信じるどころか、話すら聞かなかった時点で、わたくしはもう、あの子の姉を名乗ることは出来なくなったのですよ」



「……」



 まだ根は深い。アリシアちゃんが何かした時のルナちゃんは、それはもう、以前の私のような酷さがあったのだろう。



「レンゲさんはすごいです。ずっとサジさんを大事にしていたし、テッカさんも一度離れた妹と弟と向き合い始めました。けれど、わたくしは――」



 私はそっとルナちゃんを抱き寄せた。

 後悔がある。そしてそれをまだ振り切れていない。私では、彼女の心を晴らすことは出来ないのだろうか。



 そうして私も顔を伏せようと、目を伏せるとその気配が突然背後に現れ、私とルナちゃんの頭を撫でた。



「――っ」



「難しい話をしていますね」



「っとリッカさん」



 私が振り返ると、そこにはリッカさんが微笑んでおり、彼女は失礼します。と、私たちの隣に腰を下ろした。



「まったく気配がなかったのですが」



「まだまだ若い人には遅れは取りませんよ。もっとも、このくらい平時のあなたならば、簡単に見破れたと思いますよ。月神様を、よほど大事になされているのですね。隙が出来てしまうほど深く考えていた。魔王というのは極端な人が多いのが困りものです」



「……ええ、それはもう」



「あぅ」



 ルナちゃんが照れたように私の腹部に顔を埋めてきたからそのまま軽く抱きしめる。

 そして私は改めてリッカさんに目をやる。



「何かするようでしたが、隣で見ていてもよろしいでしょうか?」



「ええ、それは構いませんよ。でもテッカたちはもういいのですか?」



 屋敷に帰ってきた私たちを迎えたのは、死んだような顔をして屋敷の庭に埋まり、顔だけを地上に出したキサラギの新旧当主たちだった。その彼らの傍らで、リッカさんがうふふと微笑んでおり、私たちは顔を引きつらせながら軽く挨拶をしただけだったのだけれど、テッカはちゃんと無事なのだろうか。



「はい、暫くは私の感覚を元に戻しがてら、2人には稽古に付き合ってもらおうと思います」



「あ~……一応、テッカはカナデを捜すために動いてもらいたいのでほどほどに」



 リッカさんがクスクスと笑いながらうなずいた。

 本当に容赦ないなこの人。



 私は息を吐き、ここに来た目的を達成させるために、私の体から夜を流す(・・・・)

 そろそろ世界は帳に覆われ、漆黒に染められる。私は世界に在る暗闇の根源にまで意識を伸ばし、夜を目として世界を臨む。



「『夜に見初める真の目ヴェルシングラードリー』」



 私から流れた夜は蝶になり、蝙蝠になり、はたまた子犬になり、それは夜に紛れるように次々と世界に放たれていく。

 私はその夜の目(・・・)にそれぞれにさらにスキルを重ねる。



「『夜に解ける無頼の信仰バルテッシュアラウンド』」



 意思を持って世界を駆け飛ぶ私の夜(・・・)と感覚を共有して、私は集中するために、意識を深く深く潜航する。

 ギルドにいたおかげで、表にいるシラヌイに関してはそれなりに知ることが出来た。

 でもそこにカナデの姿はない。もっともっと深くシラヌイを知る必要がある。



 だからこそ、私は夜に溶け込んだ。



「……夜王の娘、ですね。シャーラよりも優秀な目」



「アヤメが驚いていたようですけれど、シャーラさんはその」



「いえいえ、なんでもありませんわ。ところで月神様は何を?」



 この状態で気になる話をしないでほしい。

 ミーシャのママ、いつも呆けているけれど、何かあるのだろうか。そもそも女神さまの目を逃れているということはお母さまが指示を出しているな。あの人多分女神さまから逃れる術を持っているだろうし。



「えっと、わたくしは――」



 そう言ってルナちゃんが座り込む私の背中に手を添えた。

 帰ってくる途中、彼女には集中した私の治癒を頼んだ。



「この状態、とても無理をしているみたいで、魂への治癒をかけてほしいとお願いされまして」



「なるほど。それなら私は念のため、ここで外側の脅威に備えましょう。誰も来ないとは思いますけれど、一応」



「リッカさん、ありがとうございます。わたくしも多少は助力できますので、よろしくお願いします」



 これは心強い。まあさすがに何もないとは思うけれど、それでも大分気が楽になる。

 そうして、私は眠るようにして周囲に向けている意識を完全に断ち、夜に意識をやるのだった。

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