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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
43章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、しばしの休息。
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風穿つ獣ちゃん、蒼炎の涙を見る

「いや~悪いな、獲物を横取りした上に、食事まで貰っちまってよ」



「いえ、ジンギ、さん? たちのおかげで俺たちも無事だったので」



「ジンギでいいよ。多分同い年だろ。俺まだ15だし」



「えっ」



 男の方がジンギ=セブンスター、女の方がカナデと名乗った。カナデという名をどこかで聞いたんだけれど、一体どこだったか。

 そんなことを考えながら、あたしは2人に目をやる。



 15才、サジとコークと同い年。ジンギはサジ並みの恰幅の良さと見慣れないスキル、ギフトは多分『未熟者の金属片(ナイトマイトメタル)』それにしたってよくわからないことが多すぎる。

 カナデの方は多分精霊遣い、こちらも明らかにギフトのスキルとは違うスキル持ち、ベルギルマ以外の国ではこれが常識なのだろうか。



 するとそのカナデのほうがあたしたちが礼としてあげた弁当を、まるでそれしか目に入っていないかのような真っ直ぐな瞳で見つめながらよだれを垂らしていた。



「お肉お肉お肉お肉――」



「……ああすまん、先に飯にしていいか? ここ最近葉っぱしか食ってなくてな。俺はともかくカナデが限界でな」



「なぜそんなことに」



「俺が聞きたい。しかしこの弁当、随分うまそうだな? もしかして結構高かったりするか? それなら、せめて料金を払わせてくれな」



「ううん、それは俺たちのパーティーの子が作ってくれたものなので、気にしなくて大丈夫だよぅ」



「パーティー……なあそれって――」



「ジンギぃ、もう食べていい? 死ぬ」



「っと悪い。それと死にはしねぇから落ち着いて食え」



 カナデが手を合わせていただきますと弁当に手を付け始めたのだけれど、この食べ方、ヨリもミーシャもしていたような気がするけれど、他国では一般的なのだろうか。

 いや、というかそもそも――。



「ジンギ、すっごい強いな。俺たちも最近になってやっと少し力をつけてきたんだけれど、まだまだ世界は広いな。カナデさんなんて――うぇ?」



 カナデの方を見たコークが驚いたような声を上げたから、あたしもそっちに目をやるのだけれど、そのカナデが弁当の中身を口に運んだ途端、瞳から大粒の涙をこぼし始めた。



「あ、あれ――?」



「そ、そんなにお腹空いてたんですか?」



「コーク、ちょっと黙っていなさい」



 涙をこぼしながらも弁当を食べる手は止めず、口いっぱいに食べ物を頬張るカナデに、ジンギが思案顔を浮かべ、弁当を口に運んだ。



「……なあお前ら、その弁当を作ってくれたって言うのはリョ――いや、今はあのちっこいのか? アリシアとヴィに手伝ってもらってたあれだよな」



「なに?」



「ああいや、もしかしてお前たちの仲間って、こう、このくらいの身長の、なんかこう、底知れない女の子か?」



「ヨリを知っているの?」



「あ~……そう、そのヨリだ」



 多分この2人は魔王(・・)の方とかかわりがあるのだろう。それで思い出せた、カナデという名前、あたしは聞いたことがある。



「ミーシャが、カナデって子を捜しているって言ってたわね」



「やっぱりか。というかあいつら今何やってるんだ? ヴィ、わかるか?」



「う~んと……うん、なるほど。そっちのお嬢さんと大きな子がテッカ――キサラギで、ひと悶着あったみたいだよ。それにあの2人が関わった」



「……その子なに?」



「俺の相棒、名前はヴィ」



「ルナ姉……ツキコ姉も張り切っちゃってまあ」



 ツキコと、ミーシャと一緒にいたアヤメって子がだいぶ不思議な感じなのだけれど、この子もそれ系統なのかしら?



「マジか。それならすぐにミーシャさんに報告したほうが良いんじゃないか?」



「そうだね、兄さんも探しているみたいだし、それなら――」



「あ~その、お前らさ、ここで俺たちに出会ったっていうことを、隠しておいてくれないか?」



「なんでよ?」



「ちょっと事情がな」



 ジンギが頭をかいてため息をつくのだけれど、隣のカナデが相変わらず泣きながら口を開いた。



「本当に、忘れられてなかった。あたし、みんなから忘れられたと思って、それで、ここまで来て、それで――」



「……」



「忘れられたって」



「いや、実際忘れられてんだよ。カナデはついこの間まで、俺と、りょ――ヨリ以外から名前も存在も忘れられてた」



「は? なんでそんなことに」



「黄衣の魔王、そいつらに誑かされてな。お前ら、出会うことはないかもしれないが、もし黄衣の魔王の手のものだと思われる奴に出会っても絶対に近づくな。あの魔王は、他人から存在を消すことが出来る、誰の記憶にも残らなくなるんだよ」



「黄衣の魔王って、ル・ラムダの魔王のこと? あんたたち、一体何と戦っているのよ」



「黄衣の魔王は俺の両親の仇だが、カナデは別口だ。何と戦っていると言われても、俺たちはただ、ダチを救いに来ただけだよ」



 ジンギがカナデの頭に手を置き、深くため息をついた。

 この男、口は乱暴だけれど、心の機微に敏感な――うちで言うバッシュみたいな、きっと誰かにとっての心の支えになってくれるような人だ。



「まっ、そういうわけでな、まだこっちで片づけてないことがあるから、ヨリたちとは合流出来ないんだよ」



「やることって――」



「もう1人――もう一匹、助けなくちゃならないダチがいるからな」



「っ! ジンギ、気づいてたの?」



「当たり前だ。お前があの性悪とどんな取引したのか知らないけどな、お前がここに残る理由なんてそのくらいしかねえだろ。俺が助けてやるから、さっさと行動に移せこの馬鹿たれ」



「……うん」



 ジンギが食べ終わった弁当箱を片付けて立ち上がった。



「お前ら、今から帰るのか? 街に帰るころには夜だな――しゃあない。今日は泊っていけ。カナデも良いな」



「ん――」



 袖で目を拭ったカナデが満面の笑顔で頷いた。

 なるほど、あの子たちが可愛いと話していたのがよくわかる可憐さだ。



「葉っぱしかないが、飯も出してやるよ」



「そこいらの魔物を捕まえましょう」



「……お前、タクトみたいな――いや、我儘も言ってられないか」



 そうして、あたしたちは今日1日、ジンギとカナデの世話になることを決めたのだった。

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