風穿つ獣ちゃん、蒼炎と鋼鉄と邂逅する
「ああもう! ただの討伐依頼でなんで追いかけられなくちゃならないのよ」
「レンゲ、というかこいつら変じゃないか?」
「うんなもの見ればわかる。くそっバッシュ連れてくればよかったわね」
「妖精さんが妙な反応してるよぅ。さっさと逃げたほうが良いかも」
あたしたちはバッシュとヨリ、ツキコと別れて依頼を受けていたのだけれど、その依頼を達成して、ヨリに持たせてもらったお弁当を食べようという時に突然襲われて、今は逃げている状況だ。
普通の相手であればこうして逃げる必要はないのだけれど、こちらから声をかけても返答はないし、人にしてはうめき声ばかりあげている。
不死者の類かとも考えたけれど、どう考えても生きており、しかもそれなりに強い。
でも――。
「これ、殺しちゃっていいのかしら?」
「わからん。夜盗の類ならギルドに報告すればいいけど、そんな話聞いたこともないしな」
コークが意識を背後に向けたのだけれど、その瞬間彼があたしとサジを押し出した。
「なに――」
追いかけてきた奴の1人が突然姿を消し、あたしたちの真後ろに現れた。
「これ、アルマリアさんと同じ――『空を超える者』お姉ちゃん空間転移!」
「厄介な。コーク、サジ、やるわよ」
「ああ、任せろ」
「でも……」
サジが不安そうな声を上げた。
あたしたちが脚を止めると、すでに囲まれていることがわかり、数にしても数十人はいる。
一体これだけの数、どこに隠れていたのよ。
「強いのも混じっているな」
「うん、それにこの数、ちょっとまずいわね」
「……」
サジがそっと妖精を召喚して、あたしたちの助力が出来るような態勢をとった。
あたしとコークが武器を握り、チリと戦闘圧を忍ばせると、奴らが途端に飛び掛かってきた。
「コーク!」
「『廻れ回れ風の目となれ』」
飛び掛かってきた奴らに大気の塊が直撃し、数人をぶっ飛ばしたのだけれど、様子がおかしい。
吹っ飛んで行った奴らは自身の傷に見向きもせずに、立ち上がり、まるで魔物のごとく突っ込んできた。しかも――。
「なにこれ」
「体が変異してるぞ」
あたしとコークが付けた傷から肉が溢れ、それが肥大化していく。そしてその肉を携えてもやは人とは思えないような化け物が何度もあたしたちに飛び掛かってきた。
「ヨリもつれてくるんだったわね」
「後悔しても仕方ない。今はとにかく、この場を切り抜けないと――」
「コーク危ない!」
「っ!」
コークに敵の凶刃が伸びる。
あたしは歯を食いしばり、最高速で彼を守ろうとするのだけれど足りない。もう一歩を――。
「『厳爆鎧王』ヴィ! カナデを手伝ってやれ!」
「もう、人使いが荒いんだから――ほら、君の精霊の残滓の精霊だ」
「プリマ以外の力を使うの初めてだよぅ――『無垢な精霊演舞――ぬい・傑千結闘』」
コークを守るように現れた男の体が鋼鉄化して敵の攻撃を防ぐと、連れの女が血を混ぜた真っ赤な炎を纏ってそれを敵に叩きつけて爆発した。
この2人、強い。
というかもう1人いる。小柄な女の子で体が透けている。いったいなんだというのか。
「お前ら無事か?」
「え、ええ、ありがとうございます。えっとその――」
「話は後だ。しかしこいつら……傀来か?」
「……うん、多分あいつらが連れてきたんだと思う」
「なるほど。じゃあ全部倒さなきゃな――ヴィ!」
「ん――」
透けていた子の姿が板に変わり、男の腰に巻かれた……何かに装着された。
「変身――『厳神割衝』」
突如男の姿が見たこともない鎧に覆われ、圧倒的な戦闘圧を以て敵と対峙していた。
「横やり悪いな。お前たちが弱いわけじゃないんだが、ちと相手が悪い。というわけで、こいつらもらっていくぞ――『厳剛拳王』」
「は――?」
男が振るった拳が紋章を通ると、その拳が100を超える数となって飛び出してきて敵を殴っていく。こんなスキル見たこともない。
そしてそれなりの数を殴った男が嗤い顔で呟いた。
「『決着のお約束』」
男が殴った敵たちが次々と爆発していった。
「うはぁ、聞いてはいたけどジンギ随分強くなったね。あたしも負けてられないですわぁ! 『臣下宣言・因果をも収める強欲――夢幻爆砕』」
最早速さとは別次元の速度で消えた女が1人の敵を暗器で切りつけ、その傷から蒼い炎が上がるのだけれど、まるで連鎖するように同じように蒼い炎が辺り一帯にいる敵にまで発生して、次々と燃やしていった。
「な、なんだこの人たち」
「……並の冒険者じゃない。うちのギルドって実は大分弱いんじゃない?」
「おいやめろ、自信なくす」
そうして、あっという間に敵は倒されていき、あたしたちは呆然として突然現れた彼らを眺めることしかできなかったのだった。