鋼鉄のライダーくん、極貧生活に活路を見出す
「おらカナデてめぇ! 俺に飯作らせてんだから残さずに全部食え!」
「やだぁ! あたし、甘いものは好きだけど、食事はしょっぱいものが良い!」
「うるせぇ食え」
「それにジンギが作るごはん、野菜野菜野菜野菜――あたしは芋虫になるつもりはない!」
「ならてめえで作れ!」
「かまどになるつもりもないんだよぅ!」
「火加減調節しろ! 毎度毎度炭作りやがって」
カナデとの共同生活が始まって7日とちょっと。俺たちはリックバックから遠く離れ、所々に村が点在する区域の山の中、そこにある小さな家屋にいる。
リョカたちのいる街にも戻れないし、カナデが動こうとしないからここを離れるわけにもいかない。
だから飯の調達が困難で、一番近い村から野菜を売ってもらっているのだけれど、肉類がほとんど手に入らない。
野生動物を狩ろうとも思ったが、俺もカナデも肉の処理が出来ずに断念。だからこうして毎日葉っぱばかり食べているのだが、そろそろ限界だろう。
俺とカナデが死んだような目で葉っぱをもしゃもしゃしていると、相変わらずフワフワとしているヴィがため息をついた。
「まったく何をしているんだい君たちは」
「ヴィ子は空気吸ってればいいからそんなことが言えるんだよぅ」
「ヴィ子って言うな。あと体があればちゃんと食事もとれる」
「そんなびっくり人間自慢はいいから、この状況を打倒したいですわぁ!」
カナデがセルネが拗ねた時並みに頬を膨らませてこっちを見ていた。俺にどうしろっていうんだ。
するとヴィがそっと葉っぱを手に取り、それを今飯を食っている部屋から臨む庭先に下りて土の中に埋め始めた。
葉っぱを埋めても野菜にはならないと思うのだが、ヴィには中等部に入る前の教育が必要だったか。
そんなヴィがその葉っぱに何かしたかと思うと、彼女がその葉を引き抜いた。するとその葉はどこからどう見ても魚になっており、まるで畑から魚が獲れたかのような、そんな奇跡のような光景に、俺が驚いていると、目の色を変えたカナデがヴィの持つ魚に飛び掛かった。
「お魚ぁ!」
「ああ、でも――」
ヴィから魚を奪い取ったカナデが、その魚に何の躊躇もせずにかぶりついた。
少しは疑うとか洗うとかしてほしい。
だが、口の中にその魚を含んだカナデが動きを止め、そのまま口に含んだそれをダバーっと吐き出した。
「味も栄養も同じなんだけれどねぇ」
「詐欺だぁ!」
カナデは地面に膝をついたまま丸くなり、顔を両手で覆ってシクシクと泣き始めた。本当に愉快な奴だなぁ。
そうしてカナデが丸まっている姿を横目に、本気でどうにかしないとまずいな。と、考えていると、ふとどこかから知らない気配を覚え、俺が顔をその気配の方向に向けると、今の今まで丸まっていたカナデも顔を上げ、一瞬鋭い目を向けた。
相変わらず、こういう場面では頼りになるな。
「3,人か?」
「迷い込んだのかな」
「ふむ……」
この辺りを人が通るのは珍しい。感じからして近くの村の人ではない。なら依頼できた冒険者か? それとも――カナデに目をやると、彼女は首を横に振った。
「ちょっと会いに行くか」
「んぁ? どうして」
「飯持ってるかもしれねえだろ。害意のない奴なら頼み込んで売ってもらう。悪い奴なら奪い取る。どうだ?」
「……」
思案顔を浮かべたカナデだったけれど、すぐにパッと咲いたような幼い笑顔を浮かべて俺が差し出した手を握った。
「乗った!」
「おし、そんじゃあいくか」
「……まさか追いはぎの片棒を担がされるとは。テルネ姉に怒られたらジンギのせいにしよ」
俺とカナデの目には、すでにその紛れ込んできた客人の気配が、肉の匂いにしかなっていなかったのだった。