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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
43章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、しばしの休息。
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陰を被る魔王ちゃん、デートの終わりは災厄の拳で

 リックバックの街並みを眺めながら私とツキコ、バッシュくんで歩いているんだけれど、よく考えたら私たちは最初にシラヌイと接敵したからこうやってゆっくり観光していなかったな。

 街並みはテッカの感じから和風な街並みだと思っていたけれど、ファンタジー中華みたいな街並みで、ところどころに洋風が見受けられる。歩む人々も浴衣などもあるけれどどちらかと言えば中華っぽい。



 でも食事は和風なんだよなぁ。

 料理に香辛料はあまり使われておらず、素材の味を引き出す系だ。



 住んでいる人の感じは下町系、活気があるが喧しいというわけではなく、それぞれが自分の時間を真っ当に使っている感じだった。



 そもそもベルギルマは産業よりも農業や畜産が国の利益を上げており、金糖果然り、ほかの国では見られない果物や野菜、そして質のいい肉などを輸出する国だ。

 近頃は質のいい冒険者も増えてきたから、他国から護衛付きで人々がやってくることで、観光地としても其れなりに栄え始めている。



 まあ観光に至ってはここ10年ほどで形になったのだけれど、それは多分、キサラギが動いたからだろう。

 時期的に言うと、ミカドの撤退、それと脅威となるシラヌイとヤマトの討伐、それを排除したことで観光にも力を入れたのだろう。



「ん~? どうしたヨリ」



「んにゃ、ちょっとベルギルマの発展について考えてた」



「そういう政治のことはわかんね。なんだお前、国でも乗っ取る気か?」



「いらないいらない。こうやってゆっくり回ることもなかったからね。改めて想いを馳せていたのさ。そういえばバッシュくん、この国は王政ではないよね? 今は誰が政治をしているの?」



「うん? あ~っと、確か領主の自治に任せているとかなんとか、そんで定期的にリックバックに領主が集まって何とかするとか……そのあたりはテッカさんに聞いてくれよ。多分キサラギが音頭とってんだろ」



 なるほど、自治体の発足か。

 もっと深く知るにはやっぱりテッカに聞いた方が早いけれど、別に政治したいわけでもないからどこに商売が組み込めるかだけ聞いておこう。



「まっ、いい国だと思うぜ? ほかの国を知らないから何とも言えないけどさ」



「そうだね、過ごしやすい国ではあるかな。でもバッシュくんはいろいろな国に行ってもいいかもよ。きっとためになる」



「そうだなぁ。コークもレンゲもサジも、もう手がかからなくなるだろうし、それを考えてもいいかもな。どこがおすすめだ?」



「グエングリッターかな~。あそこならバッシュくんの力も役に立つと思うよ」



 まだまだ若いんだし、色々視て見識を広げるのは彼のためになることだろう。

 と、バッシュくんがうなずいたのを見て、ふと視線を移すとそこでは子どもたちが熱心に声を上げており、私はそっとそちらに目をやる。



「ん? ああ、最近流行ってんだよ」



「そうなの?」



 子どもたちはどこか歪な、手作りだろう小さなブロックを放り投げ、ブロックの面に書かれた数字に一喜一憂していた。

 これは――サイコロかな。それを転がして、マスを移動させて……人生ゲームかな?



 子どもたちは様々なコマが書かれたマスを、サイコロの出た目だけ進んでおり、そのマスに書かれた内容を読み上げていた。



「う~ん?」



 と、人生ゲームらしきものにも驚いたけれど、そんな子どもたちの遊びを、別の子どもが白熱したように実況しているのが目に入った。



「あれは?」



「だから流行ってんだよ。遊びにああやって実況を入れて騒ぐのが、今のガキどもの楽しみらしい」



「え! そっち。あのボードゲームは?」



「いや知らん、なにあれ」



 なんでこの国出身のバッシュくんが知らないんだと、子どもたちにチョロと聞いてみると、頭から耳の生えたお姉ちゃんに教えてもらったとのことだった。



 神獣様ぇ。

 ツキコも誰の仕業かわかったのか、深くため息をついていた。



「しかし実況が流行ってるって、ぶいちゅーばーにでもなるん? 動画投稿サイトがないと難しいんじゃない?」



「いやそれが何かは知らんよ。ただまあ騒がしいだけだし、活気も出て俺は見てて結構好きだな」



「ほぇ~、まあその気持ちはわからんでもない。私もゲーム実況は結構見てたんだよ」



「アンリさんですか?」



「うんにゃ、アンリたんはあんまり実況しないよ。歌とか踊り、料理とかはしてたかな。でも実況の方でも推しはいたんだよね。ヴァーチャルな方だったけれど、何でもかんでも勝負ごとにするからみんなから、しょうぶたんって呼ばれててね。そしてぼろ負けするの。その負けず嫌いなところと無謀な勝負に挑む姿はもう、なんというか可愛さが溢れていたね」



 懐かしいなぁ。クソゲーばかり実況させられて、オンラインであちこちに喧嘩を売ってボコボコにされて、涙声で、まだ負けてねぇし。って言う姿がありありと思い出せる。



「お前は一体何の話をしているんだよ」



「思い出かな」



「色々な方がいるんですね~。でも負けるとわかっていて挑むのはちょっと、なんというか、その」



「いやいや、負けても可愛ければ許されるのさ。むしろしょうぶたんは負けてからの方が投げ銭を投げてもらっていたからね。むしろ後期はそれに味を占めたのか、負けて投げ銭が投げられるとフィーバータイムだ! って、復活するようになったからね」



「それはなんというか、わざと負けていたのでは?」



「いやぁ? あれは普通に下手だったよ。でも上手いと思っているのがまた可愛くてね、それがわかっているからみんな好きになったわけだし、そもそもそのフィーバータイムも1つのゲームにつき1回しか使わなかったし、視聴者……弟子って呼ばれていた私たちに攻略を聞いたり、コツを聞いたりして、次やる時にはギリギリながらちゃんと勝つ子だったから」



「随分と調子のいい方がいらっしゃったのですね」



「うん――なんか話してたらまた観たくなっちゃったなぁ」



 あとで記憶の再生をルナちゃんに頼むとして、終始首を傾げているバッシュくんに苦笑いを向ける。



「ごめんごめん、ちょっと浸ってたよ」



「……俺はお前のそういうところも理解しなきゃなんねぇのか」



「出来るもんならやってみな」



「おっ、喧嘩なら買うぜ? でももうちっとわかりやすくしてくれると助かるな」



「はいはい」



……なんて言ってはいるけれど、きっと最後まで私はこの子たちに本当(・・)は伝えないんだろうなぁ。

 見た目も隠し、本当も隠し、一体どの面下げて僕は彼らに接することが出来るのだろうか。



「……ねえバッシュくん」



「ん?」



「私はうそつきなんだ」



「だろうなぁ」



「バッシュくんにもコークくんにもレンゲちゃんにもサジくんにも噓をついている。知りたいってよく思ったよね?」



「嘘ついていようがお前は俺たちを助けてくれた。関係ないだろ」



「……実は私、この姿は仮の姿なのです。本当は誰もが目を背けるほど醜くて、人々から恐れられる存在なのです。バッシュくんはどうする――」



 するとバッシュくんが突然、私にグイと近づいてきて、額が触れるほどの距離で私の、僕の瞳を見据えてきた。



「お前が醜いというのなら、この両瞳を抉り落とせば受け入れてくれるのか?」



「――」



 僕の瞳にはバッシュくんの少し青みが勝った瞳しか映っておらず、それだけで頭がいっぱいになってしまう。

 どういうわけだか口の中がからからになり、押し返せばいいのに体は動かない。



 近くにいるツキコが何かやったようだけれど、それも把握できないほどに僕の頭は熱に侵されていた。



 しかしふと、嗅ぎなれた匂いを覚え、つい声を上げてしまう。



「あ――っ」



「あ?」



 途端、周囲の人間がバタバタと泡を吹いて倒れ、この顔を上げた先にきっと鬼の形相をした悪鬼羅刹がいることだろう。



 さすがのバッシュくんもこの気配に気が付いたのか、額から脂汗を流している。



「なあヨリ」



「な、なに?」



「俺はこのまま後ろを振り向かないほうが良いのだろうか?」



「えっとそのね、バッシュくんの言う通り、その、彼女(・・)とは知り合いなんだけれど、その、結構――大分大事にされておりまして」



「なるほど。目下最も注意すべき障害はあいつかぁ」



「えっと、その、ごめんね?」



「まあいいさ。最強最悪の拳1つでお前の可愛い顔が見られたんなら安いもんさね」



「――もぅっ」



 バッシュくんが諦めに肩をすくませたのを最後に、轟音と共に彼の姿が影を残して消えた。

 そして代わりに、圧倒的殺気をまき散らす我らが聖女様、ミーシャ=グリムガントがその場に立っていたのだった。

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