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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
5章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、休日に街をぶらりする。

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魔王ちゃん、後輩冒険者に良い格好をする

「お~、ラブコメかぁ? ラブコメなのか~?」



「……どういう意味かはわかりませんが、違います」



 顔を赤らめているクレインくんに、僕はムフフと笑いながら近づき、彼の背中を数回はたく。



 ソフィアと一緒に依頼を受けられたのは僥倖だったな。と、初めて会った時と比べ、随分と頼もしくなった背中の彼女に目をやった後、これからそんな頼もしい背中にならなければならない3人を見る。



「ソフィアは格好良いよね。男女差別をするつもりはないけれど、ここであたふたしていた子たちはどうなのかなぁ?」



「うぐ……リョカ様、それは言わない約束ですぜぃ」



「そうでござるよ。拙者たちも自覚しているでござる」



「面目ないです」



「ううん、ちゃんと準備出来ているようだし、及第点はもうあげられるよ。あとは僕や周りの冒険者たちの印象点かな。ここで君たちのやれることをしっかりと見せることができたら、周りからの評価も変わってくるよ」



 オタク3連星がハッとした顔をして、辺りを見渡した。

 学園では3人とも周りを見ることができる子たちだったけれど、初めての依頼で、初めての討伐、心があちこちに急いてしまっていたのだろう。



 彼らは大きく深呼吸をすると、改めて戦いの気配を纏った。



「普通のサッチャーより強いのは、それだけメルフィル魚に執着してるってことだな。つまり、ああいう手合いは死に際の魔物ほど手ごわい。舐めてかかるなよ」



「当然でござる。そもそも拙者たち程度のまだ冒険者にすらなっていないひよっこが、力の温存なんて考えるのがおこがましかったでござるよ」



「だね。そういうのはこれから鍛えていこう。よし、やるよオルタ、タクト」



「おうよ! オルタ、援護は任せるぜぃ」



「任せるでござる。飛び立つは幾千の煌めき『飛び立て宝石蝶(ジュエルアーネット)』」



 先ほどは海にも近づこうともしていなかった3人だったけれど、気合を入れ直した彼らは飛び出すように海に向かって駆けて行った。



 そしてタクトくんとクレインくんの2人が前線に出ると、後方でオルタくんがスキルを使用した。



 オルタくんが選択したギフトは『無価値な煌めき(ズィベンイーズ)』と呼ばれる支援特化型で、加工もしていない宝石はこの世界ではただの石でしかないにもかかわらず、それでも加工前の原石に魅入られた者が選ぶギフト。

 このギフトは精霊使いに似ているかもしれないけれど、このギフトに契約の必要はなく、宝石に込められている意味や軌跡、宝石が持っている力を引き出すことで戦う。



 環境さえ整えてしまえばとても厄介なギフトだ。

 けれどやはり宝石。たくさんを持ち歩けるわけでもなく、事前の準備が重要になってしまう。



 今日彼が持ち込んだ宝石は輝花石(きっかせき)と呼ばれる宝石で、まるで花が咲いたような形成をするために名付けられた宝石らしい。

 さらにこの宝石には興味深い逸話があるらしく、以前オルタくんが宝石のように瞳を輝かせて語ってくれたことがあった。



 その逸話は、魔物の被害で困っていたある村で起きたことらしく、魔物をどこかにやるために頭を悩ませていた時、行商に押し付けられるように売られた大量の輝花石を村の外に設置したところ、魔物がその美しさに興味を持ち、宝石に纏わりつくようになり、魔物たちの巣にそれらを置いたところ、村には近寄らなくなったとのことである。



 そんな輝花石から引き出される力は興味。

 つい見てしまう、つい気になってしまう。まさに逸話通りの力で、オルタくんのジュエルアーネットで引き出された力は周囲に花びらを撒く虫のような形をしたエネルギー体で、大量に放出された虫と花びらに、戦っていた冒険者も、執着心を剥き出しにしていた魔物も一瞬手を止めてしまった。



「タクト!」



「おうよ!」



 そしてすかさずタクトくんが動き出す。



「『輝気魔獣拳(ビーストレイブ)』――ジャイアントオーグナー!」



 海に手を突っ込んだタクトくんがスキルを使用する。

 彼のギフトは『魔と歩む者(チェイサーノート)』身に付けた魔物の一部から力を借りることの出来るギフト。

 第1スキルでは両手に借りることしか出来ず、身につける魔物は限られると彼が話していたけれど、その中でも使用頻度が高いと言っていたジャイアントオーグナー、僕とミーシャからすればただの木偶でしかないデカいだけの魔物であるけれど、それを攻撃に組み込めるのは強力である。



 そんなスキルを使用したタクトくんが海に突っ込んだ手を思い切り空へと振り上げた。その瞬間、大きな手が海から出てきて、手の上にいた大量のサッチャーが宙へと放り投げられた。



「クレイン!」



「よし来た。『発破(はっぱ)天凱(てんがい)』」



 拳を構えたクレインくんが飛び上がっているサッチャーを睨む。

 彼のギフトは『健康優良児(けんこうゆうりょうじ)』字面や名前でこのギフトを選択する者が少ない不人気のギフトらしいけれど、とんでもない。このギフトは普通に強力だ。



 取り込んだ栄養の組み合わせにより、自身を強化するというスキルを使うギフト。つまりその日食べた物で、力が変わってくる変わった性能をしている。



 この世界にはっきりとした栄養の成分などわかっておらず、何が何に効いているのか、僕も予想でしかないのだけれど、ある程度知っている栄養の知識を彼に授けたところ、驚くほどスキルの精度が上がった。



 そして今回彼が強化したのは――。



「行きます!」



 彼が砂浜を蹴り上げると、その身を陽炎のように揺らめかせ、その刹那に浮いているサッチャーたちまでクレインくんが飛び上がった。



 これも予想でしかないのだけれど、今回の強化は脚力強化とスピード強化ではないだろうか。



 飛び上がったクレインくんが次々と無防備なサッチャーを両手で持ったナイフで切り付けていく。その速度は中々なもので、近くにいた何人かの冒険者は目で追えてすらいなかった。



「うんうん、やっぱ見事な連携だ。今回はデコイのオルタくん、誘導のタクトくん、止めのクレインくんか。3人一緒ならもっと伸びてくだろうね。でも、相手が魔物ってことを忘れているかなぁ」



 近くにいた先輩冒険者が感心したようにオタク3連星を見ていたけれど、すぐに異変に気が付いたのか、手を止めて彼らを見守ることを決めたようだった。

 僕もその先輩と同じように、現闇のボールをリフティングしながら、事の成り行きを見守る。



「よし! この調子で――」



「クレイン! ちょっと魔物の様子がおかしいでござるよ!」



「え?」



「ヤッバ、そりゃあこれだけ目立てば怒るよな」



 タクトくんが焦ったようにクレインくんを呼び寄せた。

 そう、サッチャーたちがオタク3連星に標的を定めたのである。あちこちにいた魔物たちが一斉に彼らに向かっていった。



「ヤバいヤバい、俺たちじゃあの物量はどうにも出来んぞ!」



「わ、わかってるでござるよ! でもどうしたら」



「……」



 焦っている。こんな状況に対面したら当然の反応でもあるけれど、それでも、冒険者は危機に陥った時選択をしなければならない。



「クソ、こんなことならもっと守りに特化した魔物を持ってくればよかったぜぃ」



「いやいや、それは拙者もでござる。お互いに功を焦ったでござるな」



「だがやるしかないだろう。おいクレイン、お前はまだ戦えるか」



 やる気満々のオルタくんとタクトくん、けれどクレインくんは一度どこかに目を……ソフィアに目を向けたかと思うと、すぐに僕に視線を向けた。



「いや、これ以上は駄目だ。いくら他の冒険者がいると言っても、あれだけの数が俺たちに敵意を向けているんだ。逃げるのもまだ俺たちじゃ叶わない」



 限界の限界を超えて奇跡を信じるのか。冒険者としての見栄を貫き通すのか。それとも――僕はクレインくんに向けられた視線に頷き返し、目を閉じて現闇のボールを少しだけ高く蹴り上げる。



「リョカ様! 助けて、ください」



 どこか悔しいような、まだまだやれるという気持ちを飲み込んだような、力なく笑う癖に、まだまだ終わっていないと瞳が主張しているような。

 そんな感情を全部全部、心に押し込み、それでも彼は選択した。



 僕は、オタクたちの監督として、クラスメートとして手を貸すつもりはなかった。

 けれど、救いを求めた相手が同じく冒険者であるのなら、差し出された手を拒む理由もないだろう。

 僕は後輩冒険者に好かれる先輩冒険者になりたい。彼らが力を貸してほしいというのであれば、喜んで力になりたい。



 落ちてきたボールを向かってきているサッチャーの一団に向けて蹴り放つ。



「いい選択だ。力を過信しても良いけれど、僕としては3人が無事でいてくれるのなら、見栄なんて捨てちゃいな」



 頷く3人を横目で確認して、ボールがサッチャーの中心に届いた時、僕はボールに向かって指を弾く。



「ぶちまけろ――」



 魔王オーラに触れた現闇のボールが途端に弾けて、中からさらに小さな球を大量に射出した。

 クレイモア地雷のようなものを使ってみたかったから生成してみたけれど、これちゃんと防御方法を考えていなかったら無差別殺人を起こしてしまうな。と、魔物以外に飛んでいこうとする球体に魔王オーラを展開して闇に戻す。



 そして小さな球体は次々とサッチャーたちを撃ち抜き、海には魔物の残骸が浮き上がってきた。



「はい、リョカさんに頼んだのは良い判断だったよ。文句なしに合格だよ」



 僕は引き攣った顔の面々に、ありったけの笑顔を向けるのだった。

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