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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
43章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、しばしの休息。
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夜を被る魔王ちゃんと改めて始まる冒険者

「……」



「これは、見違えたな。こんな短期間で、お前たち、一体どんな修行をつけてもらったんだ?」



 昨日の激闘から一夜明け、私たちは揃ってギルドに顔を出していた。

 昨夜はギンさんもマクルールさんも帰った後で食事にしたために、2人にしてみれば1週間とちょっとぶりの再会である。



「だから言ったじゃないですかぁ、ちゃんと面倒見ているって」



「ちゃんと?」



「俺とレンゲは少なくともその、ちゃんとに該当してないような気が」



「文句なら聖女に言いな」



「無理、殺される」



 ミーシャとの修行を思い出しているのか、コークくんが体を震わせた。



「え~っと、Cランクパーティーじゃ足りない?」



「Cランクじゃ到底敵わないような相手と戦って生き残っていますからね。まあ、そこは規定通りでいいと思いますよ」



「上を知っちまっているから調子に乗ることはないんだけどさ、余裕で倒せる討伐に行く気がしない」



「うん、なんかちょっと燃え尽きちゃった感があるよね」



「教える人交代する? 次は私がコークくんとレンゲちゃんで、2人は聖女――」



「絶対にヤダ! 俺のスキルあの聖女に軒並み効かないんだよ」



 するとコークくんがバッシュくんの肩を生暖かい目で叩いた。



「殻、破ろうぜ」



「いやだっつってんだろ! ていうか、戦闘技術がなくてもお前くらいならバッシュさんでも落とせるぜ」



「あッ?」



「おッ?」



 2人がにらみ合いながらも戦闘圧を展開させる様子に、ギンさんが感心したような声を上げた。

 この人の実力も未知数なんだよなぁ。



「私の見立てではコークに分があるのだが、バッシュの言い分からそういうわけではなさそうだな」



「というかバッシュのスキルはズルいわ。動く相手全てに刺さるじゃない」



「そんなに強力なギフトだったか? あれのギフトの威力は大したことないという記憶なのだが」



「お兄ちゃ――テッカ=キサラギからも天敵って言われたほどよ」



 妹属性のレンゲちゃん可愛いなぁ。

 周囲の視線が一斉にバッシュくんに向けられれると、彼は見事なまでのどや顔を浮かべて見せた。

 天狗になっているなぁ。ちょっと痛い目を見てもらおうと、私はそっと指先に夜を(・・)集めて、それをバッシュくんの髪に向かって投げた。

 その夜は夜の先にある不明瞭(・・・)明確(・・)にしたもので、夜の先にある吸引力の変わらない物体がバッシュくんの髪を吸い上げた。



「あいだだだだだ――ヨリぃ!」



「……まっ、師匠には手も足も出ないようだけれど」



「なるほど――なら、しばらくはパーティーを分けたらどうだ? 今のランク帯を全員で受けても持て余すだろう」



 私たちが顔を見合わすのだけれど、ツキコは私から離れる気がないのか、きゅっと手を握ってきてくれたから、組み分けはみんなに丸投げすることを決め、私は彼女の頭をなでなでなで――。



「あそこは離せないわよ」



「俺たちの7割の戦力があの2人に集まっているんだが?」



「そいじゃあバッシュさんはあっちかな。楽できそうだし」



「おいコラ」



「いや実際のところ、ヨリとツキコがいるとサジの助力が生かせないんだよ。そんで高速戦闘が基本のお前たち2人にとって俺の重力は邪魔でしかないだろうが」



「……まあ、妥当な分け方ね」



 レンゲちゃんがチラと私たちに視線をくれているけれど、なにかな? もしかして私に可愛いを披露してくれるのかな? それならぜひ一緒に――。



「レンゲが女同士で組みたいってよ」



「ダメ、お前はコークと一緒にいろ」



「むぅ……」



「ヨリと話したいことがあるのなら自分で時間を作れ。ただでさえ先延ばしにするのが癖づいてんだから、自分で相手の時間と自分の時間、それと機会とその機会がいつ訪れてもいいような心構えを作る癖をつけておけ。レンゲ、お前は自分が思っているより対人能力ゴミカスなのを自覚したほうが良いぞ」



「ぐっ」



「そ、そんなはっきり言わなくても」



「バッシュさんはもう甘やかさないぞ。前までのお前なら多少陰があっても人には色々あるって飲み込んでいたけれどな、お前はもう俺たちを巻き込んだんだ。陰があってしょうがないで済ますわけがないだろうが」



 これはバッシュくんに賛成かな。しかし本当に彼はパーティーのお兄ちゃんをしているなぁ。ジンギくんと仲良くなれそうだ。



「バッシュさんもっと言ってあげて。お姉ちゃんったら自分がどう見られているかなんて二の次だから、すぐ押し通そうとするんだよぅ」



「サジも言ってやれ。今度は弟の自分が嫁入り修行を手伝うって」



「嫁――っ!」



 レンゲちゃんが真っ赤な顔をコークくんに向け、頬を膨らませており、私は急いでツキコのカメラで彼女を連写した。



「僕のカメラがレンゲさんでいっぱいになっちゃいますよ」



「あとでツキコもたくさん撮ってあげるから!」



「ヨリも少しは口出していいんだぞ」



「私はまだ、みんなにモコモコ寝間着着せて散歩に行くことをあきらめてないからな!」



 私がそうしてトリップしていると、レンゲちゃんがため息を吐いたのが見えた。

 きっとバッシュくんの話に納得して、彼の案を受け入れる覚悟ができたのだろう。本当にキサラギは頭でっかちだ、もっとゆるく決めちゃえばいいのに、それをいったん受け止めて真剣に思案する。

 それも大事なことだけれどケースバイケースだろう。



「うし、それじゃあバッシュの案で依頼を受けるか」



「そうしてくれ。サジ、このすっとこどっこいの2人は任せたぞ」



「うんっ、俺ももっとみんなの役に立てるようになるよぅ。だからまずは身近な人から」



 サジくんの肩をバッシュくんが叩き、話がまとまったところで、ギンさんが手を叩き、マクルールさんがいくつかの依頼書を持ってきた。



「決まったみたいだな。それじゃあ頼んだよ若い冒険者」



 そうして、私たちは依頼へと繰り出すのだった。

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