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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。
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魔王ちゃんと怪我の功名

「う~……あんなに叱ることないのに。しかも山の件は僕じゃなくてミーシャなのに――山の生態系がおかしいって僕に言われてもしょうがないでしょう!」



 マクルールさんに引きずられて、ギルドにてここ1週間のことの報告、コークくんたちの状況などを事細かに聞かれた。

 そもそも僕はバッシュくんとサジくんしか担当していないから、コークくんとレンゲちゃんについては少ししか知らない。

 だから最終的に面倒になった僕は、マクルールさんとギンさんに聖女に聞いてと伝えておいた。



 これで僕に詰め寄ってくることはなくなるだろう。



「う~ん、それよりみんなは今どこかな? 山を下りてきたころだろうから、コークくんとバッシュくんたちは合流したと思うんだけれど」



 ギルドでお弁当を用意して待っていても一向に来ないし、もしかしたらガイル辺りが気を利かせてご飯でもごちそうしているかと考えてリョカに戻って街に出てきたけれど、気配はなく本腰入れて探すかと途方に暮れている。



「ん――?」



 しかしふと、どこかから戦いの気配がする。

 少し遠いけれど、あちらは確かキサラギの屋敷――。



「……いやいや。さすがにね、下りてきたばかりですぐなんて――」



 僕の脚は早足になっていた。

 あそこにはケダモノがいる。ミーシャ=グリムガント、誰かの都合なんてお構いなしに、思い立ったが吉日というより、思いついたぜ吉日みたいな、あたしの行動すべてが吉日とでも言わんばかりに突発的な行動をする聖女だ。

 ストッパー……ロイさん、は最近ちょっと当てにならない。ミーシャの突拍子もない行動を楽しんでいる節がある。

 ガイルとアルマリア……論外。

 アヤメちゃん、無理だろうなぁ。

 ルナちゃんは……多分見守るだろうな。



 うんダメだ、どれだけ考えてもこの戦闘の気配は身内から放たれている。

 僕は飛び出して人に紛れると同時に眩惑の魔王オーラを使用し、姿を変えてキサラギの屋敷まで駆けだした。



 そしてキサラギの屋敷にたどり着くと、案の定煙が上がっており、中からはドッカンバッカン大騒ぎしているような音が鳴っている。

 その屋敷の外で、敷物を敷いて酒盛りをしている面々に目をやり、私はため息をついた。



「……おい、誰も止めなかったのか?」



「おいおい、発案ミーシャだぜ? 誰が止めるんだよ」



「ボコボコにされたテッカさんが見たいなぁ」



「すまん、止まらなかった」



「あはは……ミーシャさんはその、ちゃんとタイミングは計ってくれていますから」



 私は盛大に肩を落とすと、ガイルとアルマリアがつまみにしている、市場で買っただろう塩と油でテカテカしている肉串に目をやり、再度頭を抱える。



「……塩分摂りすぎ、最近はちゃんと栄養も考えて作っているんだから、もっと体に気を使ってよね」



「ママだぁ」



「おうかーちゃん、その栄養を考えて作ってくれた弁当、今つまみにしていいか?」



 頭を抱えたまま、軽くガイルをにらみつけ、お弁当を差し出してどうぞと手渡す。

 そうして私もみんなに並んで敷物に腰を下ろすと、ロイさんが茶を淹れくれ、私に渡してくれた。



「……止めてくださいよ」



「申し訳ありません。ですが――」



 ロイさんがそっと屋敷に目をやった。

 相変わらず優しい顔をしており、きっと考えというか、サジくんたちのためになることを確信しているのだろうな。

 こういう大人の余裕、私は培ってこなかったなぁ。



「この機会が、最良なのだと判断しました」



「根拠を聞いてもいいですか?」



「ええ――もうずっと、テッカも、レンゲさんも、サジくんもこういう機会を避けてきたのでしょうね」



「だと思います。2人がわがままを言えば、きっと国の外にいようともキサラギがテッカを連れ出したはずです。そしてテッカも、2人に何かあれば飛んで行ったと思います」



「そう、やろうと思えばできた。その事実がある以上、先延ばしにするのはお勧めしません。しかも今回先頭を進んでいるのはケダモノの聖女、ミーシャ=グリムガント様です。当人たちの思惑なんて関係なしに、道でなかろうとも彼女が歩む場所が道になる、そんな聖女様があの子たちを導いている。これが過去最大の転機なのですよ」



「……強引すぎる聖女とも言えますけれどね」



「良いではないですか。少なくともその強引さは誤らない(・・・・)



「ロイさん、結構ミーシャに甘いですよね」



「お2人にはとことん甘くあろうと決めていますので」



 ウインクをして子どもっぽい顔を向けてくるロイさん。本当定期的にモテる男になるなこの子持ち魔王。



 私はツキコを手招きすると、彼女が膝に座ってくれたからそのままいつものように中の様子が見られる鏡を頼んだ。



「はい、ちょっと待ってくださいね」



 そうしてツキコが準備をしていると、ジュースをちびちび飲んでいたアヤメちゃんがそのツキコに絡み始めた。



「なあル……もうルナでいいや。それよりさっきの、さっきのもう一回見せて」



「さっきのって、写真ですか?」



「そのスキル――あっ待て、その前にラムダ呼んで」



「え~……そんないきなり呼んではラムダも迷惑でしょう。他人のことはちゃんと考えてください」



「え、お前がそれ言うの? テルネをまったく罪悪感なしに呼んでたじゃん」



「む~、わかりましたよ。『我こそ月に乞う(ヘカテリアスコール)』」



「む――」



 ツキコのスキルによってラムダ様が現れたのだけれど、畑仕事をしていたのか、ほっかむりをして田舎のおばあちゃんが着ているような服装の豊神様が驚いたような顔をしていた。



「あ~、これがルナ……ツキコのスキルかぁ。本当にいきなり呼び出せるんだね」



「ごめんなさいラムダ、アヤメがどうしてもと言うので」



「ラムダ様、畑の管理を任せてしまって申し訳ありません」



「ううん、あたしも楽しんでやっているから大丈夫だよ。ああそれと、エレノーラは勇者御一行とあとヒナリアと一緒に依頼に出かけたから、今日は遅くなるみたいだよ」



「わかりました、ありがとうございます」



 家族の報告を終えたロイさんとラムダ様を横目に、目をキラキラさせているアヤメちゃんが豊神様に手を差し出した。



「ラムダ、ラムダ、腕、腕とカメラにツルを生やして」



「はい? まあいいけど」



「リョカ、カメラ!」



「……」



 やりたいことがわかってしまう辺り、私はこの神獣様と趣向が似ているのだろう。あとリョカって言うな。



 アヤメちゃんにカメラを渡すと、彼女の腕とカメラからツルが生えてきて、それに満足した神獣様が星神様のようにキラッキラな瞳をルナちゃんに向けて頷いた。



「とりあえずジンギ辺り撮っておこうぜ!」



「はいはい。でも写るかわかりませんよ、ヴィヴィラがデートの邪魔をされたくないのか、ずっと視界を遮っているんですから」



「あの子は本当にもう、一図というか依存的というか……まあ楽しんでいるようならよかったよ」



 そしてツキコがカメラにスキルを使うタイミングで、アヤメちゃんが拳を振り上げた。とりあえず彼女の拳を現闇で覆っておいた。



「『月に靡いて夜に囁く(タッチメントマーニ)』」



「ハーミットパープ――」



 アヤメちゃんがカメラを叩きつけると、壊れたカメラから写真が出てきて、そのままよく知った何事かを神獣様が叫んだと同時に、ラムダ様が神獣様の頬を思い切りぶん殴った。



「ああぁぁ! ラムダがぶったぁ!」



「……ねえ、もしかしなくてもそんなことのためだけにあたしは呼ばれたのかい?」



 目をそらすアヤメちゃんに、ラムダ様がゆっくりと近づいていき、最終的に豊神様が神獣様に馬乗りになって顔面を叩き始めた。



「ごめっ! ごめんなさい! 出来心だったんです!」



「……これが女神の姿なのですよ」



「ああうん」



 顔を手で覆うツキコを抱き上げてあやしていると、ふとカメラから出てきた写真が気になって手に取ってみる。



「うん?」



「……リョカさん、女神を呆れないで――どうかしましたか?」



「あいや、ジンギくん、カナデと一緒にいるけど」



「え?」



 写真に写っているのはジンギくんとカナデ、それとヴィヴィラ様だった。

 しかもどういうわけか共同生活というか、ジンギくんが料理を作っている光景であり、カナデがうれしそうにしていた。



「どういうことなのかはわからないけれど――」



 私は心底安心して肩を竦めた。

 どういう経緯かはわからないけれど、カナデが無事で、しかも元気そうで本当に良かった。



 どや顔を極めるアヤメちゃんをラムダ様が殴りつけているのを横目に、私は写真に目を落としていた。

 するとツキコがきゅっとくっついてきてくれて、私は抱き返した。



 カナデに関してはもう少し情報を集めつつ、ジンギくんとも連絡を取って決めるとして、やっとこの国の目的が果たせそうなする気配に、私は握りこぶしを作った。



 そうしてツキコがのぞき見スクリーンの設置を終えて、私たちは揃って中の様子を見ることを決めたのだった。

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