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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。
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聖女ちゃんとひな鳥たちの再会

「あら――」



 草原を進んでいると、見知った顔と一度会った子たちがいた。けれど――。



「りょ――ヨリがいないわね」



「……」



 レンゲが何か言いたげだが、こればかりは慣れというものがある。聞き流してほしいものだ。

 そして彼らに近づいていくと、どういうわけか涙ぐんだコークが駆け出して行った。



「バッシュぅ! サジぃ!」



「おっと! コーク、随分と……随分、その、うん」



「わっ……コークさんすごい。だいぶ鍛えてもらったんですね」



 2人に抱き着きに行ったコークだけれど、あれもあれでセルネと同系統なのよね。まあコークは自立した獣って感じだけれど。



 そしてあたしは2人のそばで控えているロイとアルマリアに目をやる。



「りょ――小さいのは?」



「ヨリさんでしたら、マクルールさんという方に引きずられていきましたよ」



「バッシュさんたちとそちらのお2人について聞きたいことがあると、すごい剣幕で連れていかれましたねぇ」



「そう」



 バッシュたちにくっついているコーク、それとレンゲもだけれど、ロイを見て動きを止めた。

 コークは顔を伏せたまま、青白い顔で額から脂汗を流しているし、レンゲはいつでも攻撃に移れるように体勢を整えていた。



「お見事です。この距離でそれだけ感知できるのなら十分でしょう」



「……ミーシャ、この神官なに? あなたと比べてもそん色のないヤバい気配がするんだけれど」



「おいバッシュ、サジ、お前たち本当に大丈夫なのか?」



「いやコーク、これで随分抑えてくれてんだよ。ロイさんはガチで強い」



「でも優しいよぅ」



 微笑みを浮かべるロイに、コークもレンゲも息を吐いて体から力を抜いた。

 こっちの出来を試したわけか。相変わらずこのお父さんはおせっかいというかなんというか――。

 あたしも負けじとチリと戦闘圧を込め、ほぼ無拍子でバッシュに拳を放つ。



「――っ! 『1,2,3で跪け(グラビアッシュ)』」



「――」



 バッシュから伸びたように感じた不可視の圧があたしの拳にまとわりつくと同時に、拳が重くなる。力を抜くと大地にたたきつけられるような重さだ。

 拳がガクガクと震え、あたしの力と地に引っ張られる力が均衡している。



「……嘘だろ、グランドバスラーを跪かせるくらいの重力だぞ」



 拳から血が噴き出すけれど、それでもかまわずあたしの目はバッシュをとらえていた。



「ひぇっ」



 相変わらずリョカの教え方はスキルに頼ったものだ。

 でもこれは、あたしには効かないわね。このまま拳を痛めつけてもいいけれど、いい加減ルナ――ツキコの心配げな顔が心に刺さる。



「『あらゆるを満たす暴食(ガルガンチュア)』」



 見えない力場を固めて割り、動くようになった拳をバッシュの額にコツと当てた。



「あ、え? なんで?」



「あたし、見えない力を固めて壊せるのよ」



「俺の攻撃一切通らねぇ!」



「……まっ、あんたはね。でも――」



 あたしはそっともう1人、確かレンゲの弟のサジって言ったからしら? 短く細い木の杖のようなものを持つ彼に目を、いや――あたしの周りにいつの間にか現れた数々の羽の生えた小さな人型、妖精に目を落とした。



「『妖精の大行進(ミルミラコンダクター)』」



「この数の妖精を落とすのなら大地を砕くほうが早いわね」



 棒を振ったサジの動きに合わせるように、100を超える妖精たちが統率の取れた動きをしていた。ソフィアと同じ様なスキルなのだろう。中々に厄介だ。

 しかしこの子、レンゲの言っていた通り、キサラギとしての力は一切感じないわね。でも、逆にスキルの扱いに関してはレンゲ以上、よく理解して使用している。



 あたしがバッシュから離れると、妖精たちも戻っていき、サジの周りに漂い始めた。

 そしてツキコが近づいてきてあたしの拳を治したから、そのままロイとアルマリアに目をやる。



「それであんたたちもかかわっているんでしょ? よく育っているわ」



「え~、ミーシャさんがそれ言いますぅ? 出来ればそちらの2人もゼプテンにほしいくらいですよぅ」



 肩を竦めるアルマリアを横目に、驚いた顔をしているレンゲに目をやる。



「お姉ちゃんおかえり」



「……え、ええただいま、サジ、その、たくさん強くなれたのね」



「うん、ヨリさんにいろいろ教えてもらったんだぁ。でもお姉ちゃんほどでもないよぅ。俺はただ、妖精さんたちと仲良くなっただけだし」



「いや十分だろ。バッシュもお前もスキルの使い方が格段に上手くなってる。どんな特訓したんだ?」



「え? あ~その、お、お前たちと同じだよ――」



「ヨリさんにスキルの使い方をお菓子食べながら聞いて実験して、その後に依頼を受けて実戦、その後に反省会をして、ロイさんとアルマリアさんに組手をしてもらって、終わったらみんなでお風呂とか行って――」



「サジ止めろ! 俺たちがこいつらに比べてぬるいことしていたのがバレる!」



「……」



「……」



 コークとレンゲがバッシュとサジを指差しながら、あたしに光りの失せた瞳を向けてきた。



「一応言っておくけれど、あんたたちが同じことをしても大した成果は得られなかったわよ。つまりあたしの下にいたのが最適解」



「畜生! 俺たち途中まで食うものなくて魔物とか食ってたんだぞ!」



「……コーク、思い出させないで」



「わぁ」



「だから黙ってろって言っただろうが! ツキコの絵を見て明らかに過酷そうだって話しただろうが」



「魔物って食べられるんだねぇ」



「え? お前たちはお家に帰れてたの? 俺たち魔物が住む領域の中心で、明日が来るかもわからない夜を過ごしていたのに? お菓子? お菓子ってヨリが作った菓子? 俺たちが魔物の臓物すすっている時に?」



「ちゃ、ちゃうんやで? 俺たちはその、あ、頭を使っていたから!」



「……サジ、そっちのロイさんっていう人、どのくらい厳しかった?」



「え? ロイさんは厳しくなんてしないよ? いつもたくさん褒めてくれた。俺こんな見た目だから、お姉ちゃん以外に褒められないじゃない、でもロイさんは頑張ったらたくさん褒めてくれるし、俺のことすっごい年下、もしくは子どもとして見てくれたよ」



「弟がお世話になりました、ありがとうございました!」



「いいえ、サジくんはとても素直でいい子です。お姉さんのあなたの教育がよかったのでしょうね」



「めっちゃいい人だ! 強い人って暴力が標準装備じゃないの!」



「……コーク、あとでちょっと来なさい」



「ひっ」



 コークとレンゲがバッシュとサジをはたきはじめ、それを微笑みながら見ていたツキコが、2人にそっと近づき、その手を取った。



「『光あれ月よあれ(ユニックルナーリア)』」



「うぉ」



「これは――」



 コークとレンゲの傷がみるみる癒され……いや違う。これは書き換えられている(・・・・・・・・・)。腕が入れ替わっているといったほうが正しいかもしれない。

 するとアヤメが引きつった顔でルナ――ツキコの頭に手を置いた。



「回復じゃねぇな。時間逆行による患部の完全修復だ、お前これ、領分はヴィヴィラ――いやそうか、あっちは時間の概念が特に強いんだったな」



「そうなんですか?」



「自分で把握してくれよ。患部の経験値はそのまま(・・・・・・・・)に、何物にも侵されていない過去から傷ついていないっていう事象だけ持ってきて貼り付けるスキルだな」



「ほえ~」



「……やべぇことしてるっていう自覚を持ってくれな」



 頷くツキコに、アヤメが心底深いため息を吐いた。女神も女神で、相変わらず面倒な制約があるのね。



「本当、ツキコの回復には驚かされてばかりだわ。傷がまったくなくなったわね」



「助かるんだが、俺としては証として残していたかったかもな」



「良いじゃねぇか。傷はまたつけていけばいいさ」



「うんっ、これからもみんなで頑張るんだから、すぐだよすぐ」



「だな。しっかしヨリもそうだが、ツキコも大概だよなぁ」



「だな。で、そのヨリのお嬢ちゃんだが、なんとロイさんにも勝ったことがあるらしいぜ」



「……本当、あいつ何者だ」



「その詮索はなしよ。Aランクなんて目がないほど強い。それだけでしょ」



「まあ、それもそうか」



 そんな話をする面々をツキコが見ており、彼女はおもむろにカメラを取り出した。



「『月に靡いて夜に囁く(タッチメントマーニ)』」



 そしてカメラから出てきた写真を、みんなに見せた。

 アヤメの目が輝いているのは放っておくとして、そこにはリョカ――ヨリが見たことのない女の人にものすごい剣幕で叱られている写真で、ヨリは正座をして半泣きでそれを聞いていた。



「あ~うん」



「……基本的に気やすいのよね」



「これ俺たちのことで叱られているな」



「あ、あとでマクルールさんにも話をしなくちゃだね」



 そうして空気がだいぶ緩んだところで、あたしは手を叩いて視線を集める。



「再会を喜ぶのはいいけれど、あんたたちちゃんと準備しなさい」



「準備?」



「今からキサラギの家を強襲しに行くわよ」



「は?」



「え?」



「……」



「あ~、今日かぁ」



 驚く面々をよそに、あたしは戦いの気配を強めていくのだった。

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