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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。
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聖女ちゃんと見えている景色

「やっと山を下りられるわ。お風呂入りたい」



「だなぁ……ギンさん心配しているだろうなぁ」



 ボロボロのコークとレンゲを引き連れて、あたしとアヤメ、ガイルと2人を連れて山を下っており、ついに見えてきた草原に2人が安堵の息を吐いた。



「ギン、ねえ……」



「アヤメちゃん、ギンさんのこと知ってるのか?」



「……知らない(・・・・)ことが問題なのよ。まあそっちについては任せているし、俺が口だすことじゃないけどね」



 首を傾げるコークに、アヤメが肩をすくませた。

 Bランク冒険者、ギンと名乗ったあの男についてはあたしも知っている。この間やってきたからとにかく圧をぶつけてみたのだけれど……。



「そういえばミーシャさん、なんかギンさんにしました? すっごい疲れた顔をして帰ってきたことがあったんですけれど」



「……こっちのギルドで中々の実力者だって聞いていたから、出会った瞬間殺気ぶつけただけよ」



「普通の人はそれで落ちるんだよなぁ」



「……食物連鎖って言ったっけ? あたしも使えるようになった神獣様の加護」



 魔王種と戦っている最中、レンゲを見ていたアヤメがおもむろに加護を与えた。

 理由を聞いたところ、立派なキサラギ(・・・・・・・)だからだそうだ。まあそれ以外にも思うところがあるみたいだけれど、この子が決めたのならあたしが文句を言う筋合いはない。



「上手く使いなさい」



「上手くって、これあたしより弱いやつにしか効かないんでしょ?」



「あんたが一番強くなればいいでしょ」



「……本当にその、突然話が通じなくなるの何とかしてくれない?」



 レンゲが盛大にため息をつくのを横目に、アヤメが苦笑いで彼女の腰辺りをポンポンとはたいた。



「あ~……そのあれだ、もし利用方法に困ったのなら、ほれ、ヨリに聞いてみたらいいんじゃない? あの子はほら、変わった戦い方をするし、発想の質が良いからね。役に立つはずよ」



「ヨリに、ね。わかった、聞いておくわ」



 レンゲがうなずき、思案顔を浮かべたかと思うと、ふいにあたしの顔を見つめだした。

 何か言いたいことがあるのなら言えばいいのに、この子はテッカと同じですぐに自分で決めつける節がある。



「なに?」



「……ねえミーシャ、あなたの幼馴染って、その」



 レンゲがチラとコークに目をやるのだけれど、肝心のコークはは首を傾げており、ため息をついたレンゲが意を決したようにして口を開いた。



「この武器をくれたあなたの幼馴染、魔王、なんだっけ?」



「……そうよ」



 どこか気まずそうに聞いてきたレンゲだったけれど、この話に最も反応したのはコークだった。

 あたしが首を傾げると、アヤメが袖を引っ張ってきた。



「ヤマト=ウルシマ」



「ああ、ガイルが倒した魔王だっけ?」



「おう、テッカと2人でな。コーク、お前もしかして」



「……ええ、俺と幼馴染のバッシュはその時に家族を」



 ランファと同じような境遇……とは違うわね。ヤマトという魔王は無差別に殺して回った。コークが魔王の話を冷静に受け止めているのもそのあたりが理由かもしれない。



 するとコークが控えめにあたしに視線を向けてきた。



「ミーシャさん、その、魔王っていうのは――」



「あたしは、リョカと一緒にいたいから一緒にいるだけよ」



「……それが、魔王でも?」



「リョカが魔王になっただけよ。あんた、もしそのバッシュっていうのとレンゲが魔王になったとしたら自分で離れていくの?」



「それはズルいのでは」



「ズルくないわよ。同じことでしょ」



 コークが納得できないような、それでいて理解はしたと言わんばかりの複雑な表情を行ったり来たりと繰り返していたけれど、呼吸を整えたと思うと口を開いた。



「もし、もしその幼馴染さんが悪いことをしたら――」



「殴るわ」



「え?」



「あたしはそのために力をつけたの。リョカがもし世界に、人に、女神に仇を成すのならあたしがぶん殴る。それでもきかないならさらにぶん殴る、まだまだきかないのならもっとぶん殴る。どうやってもきかないなら――」



「わかった、わかりました!」



「たとえ魔王だろうがね、あたしが隣にいて、あたしが魔王よりも強ければ、誰もリョカを嫌わなくなるもの」



「……」



 驚いた顔をしたコークに、レンゲが笑いかける。



「無駄よコーク、この聖女は、ミーシャは、そもそもあたしたちとは強さの質が違う。これだけ想われて、これだけ想い返して……常識外れだわ」



「うん、そうかも。こりゃあ強いわけだよ。聖女なのに、目指す相手が魔王だもんなぁ」



 2人からの称賛に、あたしが胸を張っているとガイルがあたしの頭に腕を乗せてきた。



「お前らなぁ、これはこれで厄介なんだぞ。魔王がそばにいるのに、勇者の俺がなにも出来ねぇ。先に聖女が出てきやがるからな」



「あら、その勇者はここ最近、あたしと同じで魔王から三食施されているみたいだけれど?」



「しゃあねぇだろあいつの飯が一番うまいんだからよ」



 コークの表情がやっと柔らかいものになり、それを待っていたのかガイルの手が彼に伸びた。



「俺もな、いろいろな魔王に会ってきた。でもな、魔王だからって理由で倒したことはあんまりねえよ」



「そうなんですか?」



「ああ、ヤマトのことだって魔王だからっつうより、純粋にあのバカ野郎が嫌いだったからだ。二度目は間に合わなかったけどな」



「へ~……二度目って何ですか?」



「一度復活したのよ。あたしは会っていないけれど、テッカと――」



「あなたたちどんな境遇に生きているのよ。というか二度目はあいつが倒したのね」



「いや、テッカだけじゃねぇよ。俺たちの生徒、カナデと一緒にあいつはヤマトをぶち倒した」



「生徒?」



「ああ、俺とテッカのな」



「――」



 レンゲが顔を伏せて拳を握ったことも気になったけれど、ガイルがそのままコークを撫でているのを見る。



「魔王だから恐れるっつうのは当然間違っちゃいない。そうやって危険に自ら飛び込まないのは賢い生き方だ。魔王だからって倒しに行くっつうのも間違っているとは誰も言わねえよ。でもな、もし恐れるにしろ、倒すにしろ、誰かから後ろ指をさされるにしろ、誰かから称賛を浴びるにしろ、てめぇが大地を駆けた脚とてめぇが振り上げた拳くらいにはしっかり責任を持てよ」



「はい、でも魔王はまだ勘弁かなぁ。これだけ強くなっても絶対届かないし」



「……そうね、本当全然見えないのよね」



 顔を振って落ち込んだ空気を払拭したレンゲが苦笑いを浮かべた。

 この子もしかして――。



「ねえ、あなたたちがベルギルマに来たのって、そのカナデって子のことで?」



「ええ、捜しに来たのよ。あんたたち、赤茶の髪を後ろで縛ったアホっぽい顔の子見たことない?」



「人捜しのためにわざわざ国を出てここまで? すごい行動力だな――その幼馴染の魔王さんも?」



「むしろリョカが先頭に立っているわよ。だってカナデ可愛いもの」



「可愛い?」



「……なるほど、それは逃げきれないわね」



「――そういうことよ。あんたもいっそ、可愛く見せてみたら?」



「誰によ」



「そっちのアホ面浮かべているのと、同じように素直じゃない兄」



「……」



 レンゲが膨れた顔であたしを睨んでくるから、それをいなして足を進める。

 そうしている内に、見知った気配が近いことに気が付き、あたしは先頭を歩いていくのだった。

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