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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。
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夜を被る魔王ちゃん、風断ちのお嬢ちゃんと風となる少年を甘やかす

「ったく、あの暴走聖女め。お弁当ほしいのならもっと早く言ってくれればいいのに」



 屋敷で夕食を食べ終えた後、ミーシャとアヤメちゃん、ガイル、レンゲちゃんとコークくんへのお弁当――キサラギの屋敷にお重があったから、五段の重箱×2に食事を詰めて僕……私とツキコはみんながいる山の中を進んでいる。



 私がこうして愚痴を呟くと、ツキコがおかしそうに笑い、私は彼女に目をやる。



「発言がお母さんですよお姉ちゃん」



「手のかかる子たちが多いからね。ツキコは……男の子の生態をもう少し知っておくべきかな」



「みゅ? 僕、何か悪いことしましたか?」



「ううん、私は楽しかったから何も問題ないよ」



 そう言ってツキコを抱き上げてクルクル回りながら足を進めていくと、ミーシャたちの気配が近くなってきたことに気が付き、夜に気配を溶かしながら、巻き込まれないようにそっと近づいていく。



 すると上空から幼馴染のアホみたいな戦闘圧と獣の形をした信仰が夜に光り、何かが吹っ飛んできたからそれを夜で受け止める。



「よっと――」



「うぇ? ってヨリ」



「こんばんはレンゲちゃん、お夜食持ってきたよ」



「――」



 レンゲちゃんを地面に下ろし、重箱を見せたのだけれど、彼女が顔を伏せて体を震わせており、何事かと顔を覗こうとすると突然レンゲちゃんが飛びついてきた。



「ヨリぃ~」



「おうおう、どしたどした?」



 出会ってそれほど長いわけではないけれど、それでも初めて見せる表情に私は驚くと、彼女はさらに背中にまで腕を回してきて、そのまま抱き着いてきたからその背をさすり頭を撫でてあげる。



「う~……」



「あ~……うん、よく頑張ったね」



「うん」



「辛いことをよく耐えた」



「……うん」



 私の腕の中で頷くレンゲちゃんなのだけれど、多分私を見て安心しちゃったのだろう。

 人の心がわからないなんて言われる私だけれど、このレンゲちゃんとサジくんに関しては、なんとなくわかってしまう。

 私も、僕も――私も、それを(・・・)もらったことがない。

 私とこの子たちが違うとするのなら、私はそれを受け入れた。

 でも、この子たちはずっと探していたんだ、だからこそ足掻ける。だからこそ歩み寄ろうとしている。



「本当、レンゲちゃんとサジくんは偉いよ」



「うん」



 そうして抱きしめていると、レンゲちゃんがそっと私から体を離すのだけれど、夜でもわかるほどに顔を赤らめており、顔をそらすものだから彼女の頬に手を添えてこちらを向かせる。



「はい、可愛い顔み~っけ」



「うう~……」



「僕も、僕にも見せてください」



 ツキコにも顔を覗かれて、レンゲちゃんはさらに居心地を悪そうにした。

 すると空にいる聖女様が声を上げた。



「こらレンゲ! 何を休んでいるの!」



「あらら、聖女様は随分と厳しいね」



「すっごい強引、ヨリ、あなたのおさな……あなたからも言ってやって」



「んぅ? 私の言うことなんて聞いてはくれないよ」



 深いため息をつくレンゲちゃんに、私が苦笑いを見せると、どこからともかく全身燃えているコークくんが吹っ飛んできた。



「あっちぃい!」



 コークくんがその場で地面に寝転がり、体の火を消すためにゴロゴロと転がっており、体から火が消えて立ち上がると同時に私と目が合った。



「おっヨリだ! いつもご飯ありがとう! マジで助かってる」



「それは何より」



 コークくんとそんな言葉を交わすと、奥からアヤメちゃんとガイルが歩いてきた。



「おいコーク――ってりょ……ヨリじゃねぇか」



「ほんとだ、る――ツキコもいるわね」



 あの獣たち、私たちのことレンゲちゃんとコークくんに悟られていないだろうな。



「お夜食持ってきましたよ」



「おっ、腹減ってたから助かるぜ」



「ミーシャが全然休憩とらせてくれないから助かったわよ」



 アヤメちゃんがそう言うと、やっとミーシャも降りてきて肩を竦めていた。



「――聖女様、追い込むのはいいですけれど、腹が減っては戦も出来ぬ。です。食事は欠かさずにとってくださいね」



「……」



 ミーシャが苦虫をかみ砕いたような顔で見てきたから、私は咳ばらいを1つし敷物を敷いて重箱をあけて取り皿とお箸、そしてお茶を配る。



「こんなところでこんな食事にありつけるとは」



「本当、いつもありがとうねヨリ」



 レンゲちゃんとコークくんからの礼を聞きながら、取り皿にそれぞれおむすびとおかずを取り分けていく。

 するとコークくんが私から視線を外し、目を遠く……街の方角に向けた。



「そういえばヨリ、バッシュたちは大丈夫か?」



「ん? ああ大丈夫だよ」



 そう言って私はじっと2人を視る。

 ミーシャに鍛えられたからか傷が多く残っており、ため息もつきたくなるが、やはり私の幼馴染に預けただけはある。纏う戦闘圧がこの間とは比べ物にならないほどになっている。



「スキルの扱いだけなら2人より優れているかな」



「それは楽しみね。あたしたちはもう5個スキルを解放したけれど、2人もそんな感じ?」



「う~ん、5……プラスかな」



「どういうこと?」



「そういうこと」



 そうして、みんなが食事に手を付けるのを確認して、私はツキコと立ち上がる。



「さて、それじゃあそろそろ帰ろうかな」



「う~、ちょっといてほしい気もするが」



 レンゲちゃんとコークくんがチラとミーシャに目をやると、聖女様はじっと2人を見つめており、これ以上はサボらせないという圧が感じられた。



 そして私は2人の手を取る。



「レンゲちゃんとコークくん、明日山を下りてきたとき、一度私に会いに来てね」



「ん? いつでも会えるでしょ?」



「そうじゃなくてね……もう、こんなに傷だらけにしてだいぶ心配しています」



 私が2人の腕の傷を撫でると、レンゲちゃんとコークくんが顔を見合わせて、照れたようにうなずいた。



「ん、それじゃあお願いするわ」



「うん、それじゃあ最後の追い込み、頑張ってね」



 力強く返事をしたレンゲちゃんとコークくんに手を振り、私とツキコは帰路に着くのだった。

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