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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。

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聖女ちゃんと育つひな鳥

「……」



「……」



 辺りには木々が鬱蒼と並んでおり視界は最悪。葉の揺れる音、枝がはじける音、獣の唸る声、あらゆる音に惑わされ、目も耳もろくに使えない。



 そんな森の中で、コークとレンゲが目を閉じて周囲に意識をやっている。



 最初はぎゃあぎゃあ騒いでいたけれど、今では落ち着いているし、リョカに持たされた朝食、昼食、夕食を賭けたちょっとした遊びにも文句1つ言わなくなった。



 そして超速度で周囲を駆け回っている魔物やその他機会をうかがう魔物がおり、2人を終わらせ(・・・・)ようと圧を放っていた。



 しかしそんな状況でもコークもレンゲも冷静なもので、高速で動き回る魔物の一体が飛び掛かると、2人はすぐにその魔物に意識を向けた。



 レンゲが姿を消し、残ったコークに向かうのは魔王種・ベッチルファントと呼ばれる『影喰み』と『未熟者の金属片(ナイトマイトメタル)』のスキルを使ってくる魔物だ。

 鋼鉄化させた絶気で体を覆い高速で突っ込んでくる魔物で、火力、固さがそれなりにあり、生半可な攻撃じゃ一切傷がつかない。



 そんな魔物の猛攻がコークへと伸びたが、彼は焦ることなくその風を、大気を黒くなった脚に込めた(・・・・・・・・・・)



「『廻れ回れ風の目となれ(フュリップトップギア)』」



 コークの足の大気が破裂し、彼を空へ空へと打ち出した。

 彼を襲おうとしていたベッチルファントは急停止し、コークを探してあちこちを見渡すのだけれど、すでに射程の外にあり、あたしよりも高い場所でコークはさらにスキルを使用。



「『風流る幾千の残響(フュークファンベルト)』」



 コークが空中で大勢を変え、足を空に向けてさらに高く上がるのだけれど、彼が使った風の帯――そのスキルによって風が柔らかい帯へと変わり、突っ込んだコークを包みながらも、リョカが話していたゴムのような性質の風が、彼を押さえつけていた。



 そして風が伸びきったところで、コークを弾き返そうと放たれた。

 超速度で振ってきたコークの腕が黒くなり、さらに声を上げた。



「唸れ烈風! 猛き風を声高々に叫べ『廻れ舞われ嵐となれフュリップエクスバースト』」



 彼そのものを大気の弾丸としたかのようにコークの全身を風が回っており、最早一本の槍のようにそのままベッチルファントへと突っ込んでいった。



 爆音とともに大地に穴をあけ、その中心でコークが肩を竦めていた。

 うん、いい威力になった。



 そんなコークに、周りで様子を窺っていた魔物たちが一斉に飛び掛かったのだけれど、彼は魔物に見向きもせずに小さく微笑んだ。



「あとよろしく、レンゲ――」



「裏如月」



 大きな戦闘圧の爆発で、いくつかの魔物が泡を吹いて倒れた(・・・・・・・・)

 神獣の加護――リョカが食物連鎖とかって話していた、自分より弱いものを戦闘圧によって再起不能にさせる加護、それがレンゲの手に渡っていた。



 いくつかの魔物が落ち、まだ意識のある魔物にレンゲが技をかける。

 あの子のスキルはすでに5個、体のあちこちに何度も瞬間強化をかけ、その一撃に全能力を上乗せする。



「『割砕連坊(かっさいれんぼう)』」



 1体を拳でたたきつけ、瞬時に次の目標をたたきつけ、それを目にもとまらぬ速さで繰り出していく。

 テッカの高速戦闘とは異なり、一瞬だけであるけれど、その速度は風切りよりも速い。



 辺りの魔物をすべて倒し終え、やっとコークもレンゲも息を吐き、疲れたような顔を見合わせていた。

 いきなりああして油断されても困るのだけれど。と、あたしはチリと戦闘圧を忍ばせる。



「――っ!」



「――ッ!」



 2人揃ってあたしに意識と体を向けてきたし、今日のところは良しとしよう。

 あたしはアヤメを抱えたまま地上に降り、少し警戒気味の2人に近づいてその頭を撫でてやる。



「ん、そのくらい出来ればこの辺りじゃもう負けはないでしょう。よく頑張ったわね」



「……」



「……」



 2人が呆けたような顔を浮かべるから、あたしが首を傾げる。



「み」



「み?」



「ミーシャさんって人のこと褒めることが出来たん――いったぁぁ!」



「あんたあたしのことなんだと思っているのよ」



「……ケダモノだと思ってます」



 コークを引っぱたくと、涙目で見上げてきた。痛がるのなら言わなければいいのに、と、あたしはレンゲにも目をやる。

 すると彼女は膨れており、あたしはため息をつく。



「で、どう?」



「どうって」



「これで言いたいことは言える?」



「……」



 拳をにぎにぎしているレンゲがハフと息を吐いた。

 そしてあたしに体を向けると、そのまま頭を下げてきた。



「ありがとうございます。ずっと、遠いと思っていた。でも届かせることは出来ると知れた」



「そう」



 そうして頭を下げたレンゲだったけれど、顔を赤くさせてどうにも落ち着かない様子になった。



「レンゲ、そこはちゃんと素直になろうな」



「……うっさい」



「ん?」



「その、本当にありがとう。どういうつもりかはわからないけれど、それでもあたしをここまで強くしてくれたこと、本当に感謝しているわ」



「――」



 あたしは肩をすくませ、アヤメに目をやる。

 すると神獣がどうやって入っていたのか、ポーチから短剣と槍を取り出した。

 もちろんリョカから持たされたものだけれど、渡すのならこのタイミングだろう。



「あたしの幼馴染からよ」



「いや会ったこともないけど」



「いいから受け取っておきなさい」



 2人が武器を手に取った。

 リョカにしては珍しく、真っ黒な武器ではない。つまり現闇で作った武器ではないかとも思ったけれど、一応使われているらしく、当然星神(フィム)の加護もつけられている。



「これ、とんでもなく上等なものじゃない?」



「ああ、武器屋なんかじゃお目にかかれないだろ」



「どう扱っても壊れないはずだけれど大事になさい。それとその武器に関して幼馴染から1つ。武器は体の延長になり得る。だそうよ」



「――? どういうことだ?」



「……うん、なんとなくだけれど、わかる」



 2本の短剣を握るレンゲがうなずいた。

 そして彼女はあたしをじっと見る。



「ねえ、あなたの幼馴染って――」



「ん?」



「……ううん、なんでもない」



 レンゲがため息をつき、短剣の柄を微笑みながら一撫で。

 あたしが首を傾げていると、アヤメとガイルがお弁当を持ってやってきた。



「ほれお前ら、とにかく飯にするぞ」



「魔王種100体狩りお疲れ、俺がお茶を淹れてあげるからさっさとこっちに来なさい」



 あたしたちは顔を見合わせて、アヤメたちのもとに脚を進ませるのだった。

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