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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
42章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、風断ち掬い立つ新芽。
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魔王ちゃんとキサラギの母

「あら~」



「どったのルナちゃん?」



 バッシュくんとサジくんをロイさんに任せた僕とルナちゃん、アルマリアの3人でキサラギの屋敷でのんびりしていると、突然僕の膝に座る月神様が両頬に手を当て、照れたように声を上げた。

 僕とアルマリアが顔を見合わせ、ルナちゃんに目をやると、女神さまが体をくねらせ照れていた。

 その動作がとても可愛らしく、気が付けば僕もアルマリアも彼女の頭を撫でていた。



「風切る影が子持ちの美人とイチャイチャしてます」



「何やってんだあの男」



「女っ気なんて一切なかったのに、カナデさんのお母さん、そんなに美人なんですかぁ?」



「はい、ちょっと見てみますか?」



 ルナちゃんに触れている僕の頭に、風切りのテッカさんとどこか面影のある女性が、往来でイチャイチャしている映像が流れ込んできた。プライバシーガン無視だな。



「あ~ね、なるほどなるほど」



「うわっ、本当に美人さんですねぇ。テッカさん、こういう人が好みだったんですね~」



 カナデよりおっとりとした顔つきで、赤茶の髪は肩まであり、泣きボクロは色っぽく、伏し目がちに見上げられたら大抵の男はコロッときちゃうような幼さも同居した、可愛いタイプの美人だ。

 しかもあの話し方と、カナデと同じく他人への距離感がバグっている。いわゆる、オタサーの姫タイプの美女だ。

 しかもそれで子持ちだろ、僕の周りの子持ち属性盛りすぎだろ。



「カナデにはないタイプの色気だ」



「カナデさんが大きくなってもああはならないですよねぇ」



 僕がうなずいていると、ルナちゃんは終始照れており、もしかしてこういうのが好きなのかなと、月神様の趣味を覗けて満足するのだけれど、出歯亀根性は正した方が良いのかもしれない。



 しかしレンゲちゃんとサジくんについてあんなふうに思っていたとはね。本当に誤解されやすいというか、もっと会話すればいいのに。



「あっそうだ、せっかくですからリッカさんに報告してあげよ~」



「うん? リッカさんって確かテッカのお母さまだよね? 僕まだ一度もお会いしていないんだけど、屋敷にいるの?」



「リョカさんに会わせたくないんじゃないですかぁ?」



「なんで!」



「……確かキサラギもリョカさんのお母様と知り合いでしたよね~? はげるくらいに撫でられることを警戒しているんじゃないですかぁ?」



「ああうん、うちの母がごめんね」



 そういえばお母さまがマナさんを拉致ったとき、アルマリアはずっと撫でられていたんだっけ? きっと成す術もなくやられたんだろうなぁ。



 するとアルマリアが立ち上がり、どうやらそのリッカさんに会いに行こうとしており、僕もルナちゃんも彼女についていく。



「前来たときは確か――」



 するとアルマリアがおもむろに屋敷の壁をペタペタ触り始めた。

 なんぞと彼女がしていることを見守っているのだが、ある個所を触れたとたん、紋章が浮かび上がり、さらにそれをタッチして操作し始めている。



「なんだこのSF映画びっくりのからくり屋敷は――ていうか」



 僕は操作しているアルマリアの横で、このトンデモからくりに思考を馳せる。そこでこれを誰が(・・)作ったのかを察する。



「なんで無王の作品がここにあるんだ?」



「え? 無王って確か……魔王・アンデルセン=クリストファーですかぁ?」



 驚くアルマリアが紋章の操作を終えると、突然扉が現れ、その先から知らない人の気配がした。

 これ、空間も弄っている。あのおっさん、本当にマルティエータ―としても優秀だな。



「この先にリッカさんがいますよ」



「……無王についてはキサラギの当主に聞くとして。いやぁ実はテッカのお母さんと会うの楽しみにしていたんだよねぇ」



「素敵な人ですよ~。確かにリョカさん好きそうかも」



 アルマリアについて扉をくぐると、そこには明らかに空気がきれいになった空間で、さっきまでいた屋敷と同じように襖と畳、和風な景気が広がっていた。

 しかしここ、もしかして別の場所か? あの扉自体に空間転移を発生させる機能があって、ここまで飛ばされている。場所的には――結構遠いな、完全に隔離されている。



 アルマリアが何の躊躇もなく部屋の襖に手をかけるのを見ていると、その部屋から声が聞こえてきた。

 とても通る澄んだ声でありながらどこか儚げ、僕はじっとその伏間を見てしまう。



「テッカ? あなた?」



「リッカさんこんにちはぁ」



「あら、あら――アルマリアちゃん」



 懐っこい顔でアルマリアに声をかけた女性――リッカ=キサラギさん、長い闘病生活の影響か、頬は痩せ細っており、アルマリアを見て体を起こした際に見えた腕も痩せこけていた。それなりのお歳だと聞いているけれど、病気で伏せていても綺麗な人であることを隠せていなかった。

 これは……病気? でもそれなら聖女の奇跡で治る――僕が思案していると、リッカさんが驚いたような顔を僕に向けてきていた。



「まあ、まあっ、あなた、もしかしてリーンの――リョカちゃんねっ」



「え、あ、はい――」



 瞳を輝かせながら起き上がろうとする彼女に駆け寄り、落ち着くように言う。



「ごめんなさい、最近は顔も見せてくれない友人の面影を見てしまって」



「……母とは親しかったのですか?」



「ええ、体を悪くする前は、それはもう何をするのも一緒で」



 体を悪くする前ってことは、僕が生まれる前かな。いやまさか夜王時代か? それだとこの人もそれなりの修羅場を一緒にくぐってきていたってことになるんだけれど。



 僕が彼女について考えていると、リーンさんの目がルナちゃんに向けられた。



「それではあなたが――」



「初めましてリッカさん、ルナと申します」



「まあまあっ、すぐにお茶の用意を――」



「いえいえ、わたくしたちがやりますから、リッカさんはそのままにしていてください」



 僕とルナちゃんとアルマリアで、急いでお茶の用意をし、体を起こすリッカさんを労わりながら、小さなお茶会を始める。



「ごめんなさいね、こんな体でなければちゃんとした挨拶もしたいのですけれど」



「いえいえ、押しかけてきたのはこちらですから楽にしていてください」



「そうですよ~リッカさん、私たちはただ、テッカさんがいちゃついていたから報告に来ただけです~」



「まあっ、テッカが? ずっと戦ってばかりで、やっと定職に就いたと思ったら突然戻ってきて、孫の顔1人も見せてくれないあのテッカが?」



「……ちょっと怒ってます?」



「親としては、あのまま1人で生きていくのかと思うと心配で」



 クスクスと笑うリッカさんに僕が苦笑いを浮かべていると、ルナちゃんが彼女に触れ、およそ先ほど僕たちに見せてくれた映像を流していた。

 止めたげてよ。親に、特に母親にみられるのがどれほど恥ずかしいのか、この月神様は理解していない。



「まあ、まあっあの子にもついに――ですがこの方、見覚えが」



「シラヌイですよ。テッカの生徒で、僕たちの友だちのカナデっていう子のお母さんみたいで」



「子持ち! そう、そうですかぁ……いやでもテッカは子どもみたいに手がかかりますから、確かに子どもを育てた経験のある人のほうが安心するかもですね」



 シラヌイに関してはいいんだ。

 リッカさんが空気を柔らかくさせながら息を吐き、僕が入れたお茶を口に運んだ。



「でもテッカが――あっ、でも生徒の母親とそういう関係になるのは世間的によろしいのかしら?」



「まあいいんじゃないですか? 父親いないっぽいですし」



「リョカさん、子どもは母親と父親がいないとできないんですよぅ」



「知ってるわい。そういうことじゃなくて――」



 カナデの父親、実はあまり考えないようにしていた。

 そもそもシラヌイの家庭事情が複雑すぎだし、たとえ誰かと子を成したとして次の日にはいなくなっているかもしれず、そうでなくともある結論が僕の頭の隅にはあり、正直胸糞悪かったから、このままカグラさんにはテッカと良い仲になってほしいまである。



 なんて考えていると、リッカさんがコンコンと咳をし始めたから、僕は彼女の背中をさする。



「ごめんなさいね、どうにもはしゃぎすぎちゃったみたい」



「ご病気、何かわかっているのですか?」



「……いいえ、どの神官様、聖女様に頼っても私の病気がよくなることはありませんでした」



 僕がルナちゃんに目を向けると、彼女も首を横に振っており、月神様でも治せないのだと口にした。

 咳をするってことはばい菌か? 僕はそのままリッカさんに触れてあちこちに現闇を流してみるのだけれど――。



 いや、こういう時こそ僕じゃなくて(・・・・・・)、あっちに頼るべきだろう。



「『眩惑の魔王オーラ』」



 僕は姿をヨリフォースに変える。



「ああ、それがあなたの別の姿、夫が驚いていました」



「ちょっと待っててくださいね――『夜に解ける無頼の信仰バルテッシュアラウンド』」



 意識を、心を、夜に溶け込ませる。

 あらゆる細部に夜を流し込み、あらゆるを解析する。

 私の第1ギフト、夜神様からの加護――『夜に潜む王の権威(ヴェルニュクシア)』の第2スキル。

 第1スキルの『夜と共に月に馳せるイノセントリップリッパー』第3スキルの『夜に紛れて揺蕩う王エンドオブアルテミシア』と同じく補助系統のスキルだけれど、使い勝手がよく、こういう場面では本当に夜神様の加護が役に立つ。



 そしてリッカさんの体に夜を流し込んで彼女の状態を解析するのだけれど――私は首を傾げる。

 なんだこれ、病気じゃないぞ。



「リッカさん、ちょ~っと大人しくしててくださいね。これ病気じゃないです」



「えっ」



 私は姿をリョカに戻し、ヨリフォースの形をクマにしたものを絶慈で取り出し、ヨリクマに『夜に解ける無類の信仰バルテッシュアラウンド』を使用してもらいながら、リッカさんの体に現闇を流し、ついでに星神様の加護を使って闇それぞれに極星の力を与えて、彼女を侵している原因を排除するために――まあつまり、人工的な白血球で体の異常を物理的に排除しているところだ。



 そして僕はナイフを取り出し、リッカさんに告げる。



「リッカさん、少し痛いかもですけれど」



「――ええ、構いません。どういうわけか体がなんだか」



「すぐに出しちゃいましょうね」



 そのナイフで彼女の腕を少し切りつけ、血液と共に僕が流した闇が流れ出てきた。

 そしてその闇に紛れるようにうごめく何かがリッカさんの体の中から出てきた。



「虫?」



「こんなものが、体の中に」



 僕はその虫をつかむと、それは砂のようになって風に吹かれて飛んで行った。これは――。



「絶気? リッカさん、魔王に何かされた記憶はありますか?」



「……いえ、記憶にはないです」



 僕は思案顔を浮かべていると、リッカさんが突然立ち上がったのだけれど、足も細くなっており、僕はすかさず彼女を支えた。



「おっとっと、大丈夫ですか?」



「……」



 すると呆けた顔をしたリッカさんの瞳から涙が流れていた。



「え、あの――」



 そしてリッカさんが僕に抱き着いてきて、何度もお礼を言った。



「立ち上がるのも困難だったのです。体中が痛く、呼吸すらままならなかった。でも、今は――」



 涙を流して泣く彼女を撫でながら、僕は「どういたしまして」と、返事をする。

 しかし闘病生活によって体が弱っているのは確かだ。これからリハビリ生活が待っているわけだけれど……食事も気を使ったものでないといけないから、あとでガンジュウロウさんにも話を通しておかないと。



「どおりで聖女の癒しでもわたくしの治癒も効かないわけです」



「でもそれを治せちゃうんですから、月の魔王様はすごいですね~」



 ルナちゃんとアルマリアからの称賛に、素直に照れつつ、僕はリッカさんをそのまま布団に横たわらせ、落ち着かせる。



「ごめんなさい、年甲斐もなくはしゃいでしまって」



「いえいえ、それより体はもう大丈夫ですか?」



「ええ、びっくりするくらいに調子がよくなったの。きっとあの虫のせいなのね、一体どこでついたのかしら?」



「それならよかったです。しばらくは消化のいい栄養のある食事、それと体を少し動かして体の機能を回復させていきましょう」



 リッカさんがうなずくと、誰かがこの屋敷にやってきたのがわかる。



「リッカ、誰か来ているのか――い?」



 襖からガンジュウロウさんが現れ、驚いた様子で僕たちに目をやった。



「アルマリア? いつの間に。それにリョカさんと月神様まで」



「どうして僕をリッカさんに会わせなかったかについては後日聞きますけれど、いろいろと話したいことがあるので、ちょっと待っていてくださいね」



「え、あっいや、それは君がリーンの娘さんだからで」



 顔をそらすガンジュウロウさんに、お茶の用意をするために、僕は一度部屋から出ていくのだった。

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