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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。
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聖女ちゃんと強制覚醒術

「うわっ、あいつやりやがったな」



「ぶぇぇっ!」



 コークをぶん殴っている最中、アヤメが声を上げた。

 吹っ飛んで壁に激突したコークを横目に、あたしはアヤメに目をやり、殴りかかってくるレンゲの攻撃をいなしながら、神獣の言葉を待つ。



「クソ、こっち見てもいないのに――」



「ル……あいつが助っ人召喚しやがったんだよ」



 る――ルナね。助っ人……あたしは鼻を鳴らし、突然現れたその匂いに肩をすくめる。



「裏如月――」



「遅い」



 裏拳をレンゲに放つと、彼女はなんとか腕で防御したけれど、踏ん張りが足らず、コークが張り付いている壁に飛んで行った。



「ちょレンゲ――ぐぇっ!」



「いったぁ!」



 そしてあたしが改めてアヤメに目をやると、今日一緒に来たガイルが興味深そうに近づいてきた。



「助っ人?」



「ロイとアルマリア」



「あいつら暇なのか?」



「ルナのスキルが反則級なんだよ。なんだよ誰でも呼び出せるって」



「あの子なら悪いことには使わないでしょ」



「おやつ中のテルネが呼び出されて、それなりに怒っていたわよ」



 相変わらずテルネに対するルナの態度に、3人それぞれにため息をつくと、大きな風が吹き引っ張られる感覚にその発生源に目をやる。



「『廻れ回れ風の目となれ(フュリップトップギア)』」



 大気を拳に集めたコークが飛び掛かってきたが、その風をガイルが片手で払い、コークの脳天に拳骨を落とした。



「いだぁ!」



「もうちっと然るべき機会をうかがえよ」



「隙だらけだったじゃないですかぁ!」



 コークが釈然としないのか、忌々し気に睨んできた。

 そしてあたしはもう片方――コークが飛び出した陰に隠れて近づいてきたキサラギに意識を向けるのだけれど。



「『獣を縛る六つの戒律(ルールオブツェータ)』」



 リョカみたいに指を鳴らそうとしたのだろうけれど、フニという皮膚をこする音しかならず、したり顔でスキルを発動させたアヤメの鎖に、レンゲがとらわれた。



 レンゲが頬を膨らませてこっちを見ているけれど、届かないのならそっちが悪い。

 しかしふとガイルを見ると、彼は自身の拳に目を落としており、どうしたのかと視線を向ける。



「う~ん――コーク、もう一発」



「へ? いだぁ!」



 コークに拳骨を落としたガイルだったけど、彼の変化にあたしは感心した。



「何するんですかぁ」



「コーク、頭、頭」



「へ――?」



 コークが自分の額を触ると、あたしが拳にやっている硬化が額に発生しており、彼はしきりにペタペタ触っていた。



「うわ移動してる!」



「移動はしていない。戦闘圧の硬化」



 あたしが腕を振り上げると、ハッとしたコークが防御態勢を取り、その際に腕が硬化していた。



「防御はできるようになったわね」



「……本当にできるようになるのね」



 鎖から抜け出したレンゲが興味深そうにコークの腕を触っており、あたしは彼女の腕をつかむと再度スキルをかけて黒くする。



「あんたもさっさと感覚つかみなさい」



「難しい」



「こんなの感覚よ。あんたは頭固すぎ」



「む……」



「キサラギは柔軟さがなさすぎなのよ。どいつもこいつも何かしらが固い」



「あたしをキサラギの括りにしないで」



「事実でしょ。あんたテッカと同じような匂いでするのよね、性格的にも、血の匂いも」



「――」



 途端にレンゲの戦闘圧が跳ね上がった。そんなにあの男と同じだと言われるのが嫌なのだろうか。と、考えていると、アヤメも、何故かガイルまでも顔を引きつらせていた。



「なによ?」



「……いやぁ、お前は知らないはずなのに、そういうの本当に言い当てるよなぁ」



「なんのこと?」



 すると殺気立っていたレンゲがため息をつき、その場で腰を下ろした。

 まだ今日の鍛錬は終わっていないのだけれど。と、握りこぶしを見せるが、彼女は一度肩をはねさせただけで、深いため息をついた。



「あ~……ちょっと休憩しましょう。ミーシャ、確か預かっているものがあるわよね?」



「え? ああ、りょ――あのヨリって子からね」



 アヤメがあたしたちが持ってきたカバンからお茶とお菓子を取り出した。

 昼食と夕食もあずかっているけれど、これは何かしらの景品にしよう。



 アヤメがお茶を淹れ、カップをコークとレンゲに手渡した。



「お~、さすがヨリだ。めっちゃ気が利く」



「ありがと、ヨリにもお礼を言わないと」



 あたしといるときには見せたこともない安心しきった表情でリョカからのお菓子を食べる2人を少し殴りたくなったけれど、レンゲが何かしゃべりたそうにしているし、とりあえず話を聞くことにした。



「テッカとあたしは腹違いの兄妹なのよ」



「え? そうなのか?」



「よく見たら確かに似ているものね」



「……」



「あんたも一々反応しないの鬱陶しい」



「お前はもう少し優しさを持って接しなさいよ」



 レンゲが顔を引きつらせ、コークがそれをなだめているけれど、なんというかこのレンゲという子、昔のランファと同じ気配がする。



「まあ確かにテッカは口うるさいし、すぐ拳骨落としてくるし、一言余計だし、頼んでもいないのに構ってくるし――」



「……」



「ミーシャ、しっ」



 アヤメが口に人差し指を立てて添え、首を横に振りながらレンゲに意識を向けていた。

 するとレンゲがいら立っているのが見てわかり、あたしは首を傾げるのだけれど、ふと納得がいき、お茶を口に運び唇を潤す。



「あんたテッカに甘えたいの?」



「は、はぁ! うんなわけないでしょ! 何言ってんのあんた!」



「レンゲ落ち着いて」



 顔を真っ赤にしながらまくしたてるレンゲを、改めてコークがなだめ、アヤメが頭を抱えていた。

 別に隠すこともないと思うのだけれど、そもそも兄妹だっていうのならそれが自然ではないのだろうか。



「ミーシャ、この兄妹にも色々あるのよ」



「別にいろいろあるのは構わないけれど、どいつもこいつも何もかもを避けすぎなのよ。言いたいこと、伝えたいことがあるのなら殴る。汲んでほしい要望があるのなら殴る。甘えたいのなら殴る――」



「それ殴るの必要っすか! 話し合いで解決しましょう!」



「話し合いで解決できないからそこのキサラギが、面倒くさいを患っているんでしょうが」



「病気扱い」



 ああもうまどろっこしいわね。

 あたしは立ち上がり、レンゲを持ち上げて肩に担ぐ。



「ちょっとなにするのよ」



「決めた。あんたテッカと戦って勝ちなさい」



「は?」



「うじうじして言いたいことも言えないのは、あんたがテッカに勝てないと思っているからよ。あの頭でっかちに並ぶだけの力を持てば言いたいことも言えるでしょ。だからちょっと無理やり強くするわよ」



 そして呆然としているコークに目をやり、次に笑っているガイルと呆れているアヤメに顔を向ける。



「2人ともコークのことお願いね――」



「お、俺もいくよ!」



 しかしコークが心配げな顔でレンゲを見た後、決意を込めた――獣になりたての顔で申告した。

 あたしは小さく微笑むとコークに手を伸ばす。



「死ぬ覚悟はしておきなさい」



「や、やってやらぁ!」



「ちょ、ちょっと勝手に――」



「アヤメとガイルも付き合いなさい」



「う~い」



「へいへい、俺の聖女は相変わらず強引ね。でもさすが幼馴染だわ、過程は違うけれど結論は同じだものね」



 リョカの方でもテッカを倒すという目標を定めているらしい。それならちょうどいい。

 あたしは未だに納得できていないレンゲに圧を向けて黙らせ、コークもつれて飛び上がる。そしてアヤメに視線をやる。



「アヤメ、ラムダに連絡。魔王種100用意させて」



「……ああうん、消費出来て喜んでるよ」



 何のことかわかっていないコークとレンゲを連れて、あたしは山のさらに奥を目指すのだった。

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