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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。

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夜を被る魔王ちゃんと妖精を担う片割れの葛藤

「重力っていうのは基本的には重さのことだよ。だからさっきみたいに高い所から降らすときは自重でつぶれるくらいにして、一切手を出さないのが無難かな」



「……はい」



 ツキコに折れた腕を治してもらいながら、バッシュくんが涙目で返事をした。相当に痛かったらしい。

 そんな彼を横目に、私はサジくんと妖精さんに顔を向ける。



「サジくんはもう完璧だね。状況に応じて妖精さんを使い分け、しっかりと連携が取れていた。あとは妖精さん自体の力を高めるだけだね」



「うんっ、でも本当にすごいよ。ヨリさんの言うとおりにしたら、どんどんスキルが使いやすくなって」



「だな。コークたちみたいに体を鍛えるって方法しかしてこなかったから、本当にヨリお嬢の助言の効果を実感するぜ」



「それはなにより。レンゲちゃんとコークくんにもこういうやり方をしてほしかったんだけれど……まああっちはあっちで身になっているようだし、終わったらギルドのみんなを驚かせてやろうぜ」



 私はツキコから定期的に渡される写真を眺めながら言う。

 しかしさっきのバッシュくんみたいにああやって無理やり前線に上がると事故も起きてしまうか。



 私自身、戦いの動きとかは教えられないから、もしもの時の予習ができないんだよなぁ。



「むむむ」



「なに悩んでんだ?」



「いや、こうしてスキルは教えられるんだけれど、戦いの技術はどうしてもねぇ。さっきのバッシュくんだって、私がそうなることを想定して動きを伝えておけば怪我もなかったかもしれないでしょ」



「……まあさっきのは完全に俺のせいだけれど、気にしなくてもいいぞ。そこまで面倒かけちゃあなぁ」



「うん、十分身になっているよ」



「……1人いえば時間を作ってくれそうなんだけれどなぁ」



 私はチラとサジくんに目をやった後そう呟く。

 しかし彼は察したのか、苦笑いを浮かべた。



「う~ん、多分断られるよ」



「そう? 昨日少し話したけれど、面倒見よさそうだったし」



「……ううん、多分そういうことじゃなくて」



 私が首を傾げると、バッシュくんがツキコに誰のことかと尋ねていた。



「多分、テッカさんのことだと」



「ああ、キサラギ。そりゃあ風切りに教えてもらえるのなら強くなれそうだけれど、サジとレンゲが嫌ってんだろ?」



「自分は、別にテッカさんのこと嫌っていないよ」



「え、そうなの?」



「うん、そういうのは全部、お姉ちゃんが引き受けてくれた(・・・・・・・・)から」



 顔を伏せるサジくんに、私とバッシュくんは顔を見合わせた。

 あまり話したくない内容なのだろう、私はすぐに空気を変えるために敷物を敷いてお菓子とお茶を取り出した。



「さっ、ちょっと休憩にしようか。お菓子作ってきたからおやつにどうぞ」



「おっ助かる。サジも一緒に食おうぜ」



「……」



 肩をすくませたサジくんが敷物に腰を下ろし、私の入れたお茶の入ったカップを受け取ってくれた。

 しかし彼は首を横に振り、お菓子を手に取りながら口を開く。



「テッカさんは、実は自分とお姉ちゃんの腹違いの兄弟なんだ」



「ぶっ!」



 私はお茶を吹き出し、まじまじとサジくんに目をやった。

 え、兄弟? つまりテッカがお兄ちゃんってこと? え、腹違い? つまりどちらかが――いや、これは父方の方だろう。テッカのお母さんは体が弱いって言っていたし、もしかしたらその過程でもう1人内縁があったのかもしれない。



「自分たちのお母さんはさ、キサラギをすごい大事にしていて、自分とお姉ちゃんに技を叩き込もうとしていたんだ。でも見ての通り自分には才能がなくてね、いつも叱られていた。だからお姉ちゃんが倍頑張るからって、全部1人で引き受けてくれたんだよ」



 修行も仕事もすべて。と、どこか誇らしそうに、それでいて悲しそうにサジくんが話した。



「お母さんは本妻じゃなかったから、それなりに距離を保ちつつ、自分たちはキサラギと接していたんだけれど、ある時任務中の事故で亡くなっちゃって、自分たちの身寄りも本家だけになっちゃったんだけれど、その時に何があったのかはわからないけれど、お姉ちゃんがひどく怒って帰ってきて、2人で生きていくぞって」



「それ、いつの話?」



「う~ん、あれから5回年を取ったかな」



 つまりサジくんが10歳、レンゲちゃんが12歳かな。そして5年前ってことはテッカはもう、この国から出ていたはずだけれど……ちょくちょく帰ってきていたのかな。



「そっか……でもどおりで彼が必死になるわけだ」



「必死? 誰が?」



「いや風切り。あの聖女様と修行をしていると聞いたのか、すっ飛んできたよ」



「テッカさんが?」



「うん、私にはとても焦っていたように見えたかな」



「……あの人って、基本的に勘違いされやすいんだよね。昔――それこそ魔王ヤマトをガイル様と倒した時辺りだったかな。自分はあの人と話したことがあるんだけれど、その時も周りから怖がられていて、目つきも悪いし言葉が強いしで、近づきがたかったんだ」



「サジくんはそう思わなかった?」



「う~ん、その時にね、自分を見つけたテッカさんが困ったような顔をして、あたふたとして、悩みに悩んだ結果、任務の帰りに買ってきたのか、焼き菓子の入った包みをくれて内緒だぞって渡してくれたんだ。その時の顔がさ、頑張ってお兄ちゃんをしようとしている感じで、自分はずっとうれしくて笑っていたんだよ」



 あの男は本当に器用じゃないというか、面倒見はいいんだけれど、どこか掛け違えているというか、私も人のこと言えないけれど、もう少し格好つければいいのに。



「本当は、お姉ちゃんとも仲直りしてほしいんだけれど、あの日からずっとキサラギを恨んだまま。何があったのかも、自分はキサラギから遠ざかっていたから何も言えないし、何か行動を起こす勇気もない。本当、困った弟なんだよ」



 力なく笑うサジくんを、私とバッシュくんが見つめた。



「……何言ってやがんだ。レンゲなんてお前がいなかったら今ごろ潰れてたっつうの」



「そんなこと――」



「いいやある。あいつはお前の前でだけは弱音を見せないようにしているだけで、年相応の女の子なんだよ。こうやってお前と一緒にいるのはあいつが必要だと思っているからだ。お前は才能ないなんて言うが、誰かと一緒にいられるっつうのは立派な才能だと思うぜ」



「バッシュくんいいこと言うじゃん、私もそう思うかな。現に妖精さんは君から離れようとしない。そういう才能があってもいいと思うよ」



 サジくんが妖精さんたちと顔を見合わせ、照れたようにはにかんだ。



 しかしそうなるとこれは強制的にテッカを引っ張り出してもいいかもしれない。

 何かしらのかけ違いでキサラギ兄弟が仲違いしているのは明らかだ。

 別に仲を元に戻すとかは考えてはいないけれど、確執はどこかしらで発散したほうが健全だ。



「よしっ! サジくん、バッシュくん、目標を決めよう」



「目標?」



「うん、強さの目標――テッカ=キサラギを倒そう」



「え?」



 サジくんが驚いた表情を浮かべたが、バッシュくんが大きく笑い声をあげた。



「いいなそれ、付き合うぜ」



「バッシュさんまで」



「いいじゃねぇか。勝とうが負けようがとりあえず殴っておいたほうが良い。レンゲはともかく、お前はテッカ=キサラギと仲直りしたいんだろ? なら一回本気でぶつかったほうが良い」



「……」



 サジくんが考え込むけれど、すぐにうなずき、決意のある目を向けた。



「それじゃあやっぱり戦闘技術をどうにかしないとね――」



「ヨリお姉ちゃん、コンタクト取れました。時間が余っているそうなので、2人(・・)ほど来てくれるそうですよ」



「え、2人――」



「『我こそ月に乞う(ヘカテリアスコール)』」



 ツキコのスキルによって、その2人が現れ、私は顔を引きつらせる。



「いやはや、相変わらず愉快なことになっていますね」



「本当ですよぅ。でもテッカさんを倒すって試みはいいですね~。私的には応援してあげたいです」



 神官服に身を包んだ優し気な眼差しの男性と小柄だが圧倒的な自信を持った大槌を構えた少女――私は頭を抱えた。



「――」



「――」



 2人――ロイ=ウェンチェスターとアルマリア=ノインツの存在感に、バッシュくんとサジくんも息をのんでいた。



「……おいヨリ、なんだこのヤバそうな2人。特に神官の方、無理だろこれ」



「テッカさんより絶対に強いよぅ」



 それぞれが体を震わせる中、ロイさんとアルマリアが勝気な顔で私に目をやって来るのだった。

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