表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。
507/553

夜を被る魔王ちゃんと今日の被害報告

「ヨリさん!」



 翌日、私とツキコがギルドへと向かっている途中、前方からサジくんが心配げな顔をして駆け寄ってきた。

 サジくんの後ろからバッシュくんも顔を出し、私は軽く手を振るのだけれど、さてなんて話したものか。



「2人ともおはよう」



「お、おはようございます。ってそれどころじゃなくて」



「コークとレンゲが昨日から帰ってきていないんだよ」



 私はツキコと顔を見合わせ、揃ってため息をつく。



「や、やっぱりあの聖女様の機嫌を損ねちゃったのかなぁ。お姉ちゃん、無事かなぁ」



「とりあえずギルドに行って――」



「待って待ってバッシュくん、そのことなんだけれど、一応私も把握している」



 2人が顔を見合わせ、話を聞く姿勢をとってくれた。

 バッシュくんもサジくんも基本的に聞き分けがよくて本当に助かる。



 そして私は昨日あの後ミーシャとアヤメちゃんから聞いておいた状況をかいつまんで説明する。

 尤も、置き去りにしただとか、大型魔物と戦わせただのは刺激が強すぎるだろうからそれらの情報を伏せて、かいつまんで圧縮して、必要のない部分を切り落とした結果、私の口から出たのは――。



「ドキドキ聖女式サバイバルブートキャンプ」



「え、なんだって?」



「……なんか野生を、獣を目覚めさせるとか言ってたよ」



 首を傾げる2人だけれど、仕方がないじゃないか。あのゴリラ幼馴染の蛮行を嬉々として話すわけにもいかないし、そもそもそのまんまの状況を教えてしまってはこれからやる2人の修行に身が入らないかもしれない。

 ぜひここは耐えてほしい。



「えっと、ヨリさんはどうして知ったの?」



「いや、2人と別れた後、私もコークくんとレンゲちゃんのことが気になって、探しに行ったんだけれど、そこで件の聖女様を見つけてね」



「コークたちは稽古つけてもらっていたのか?」



「……ジールジオイグをスキルもなしにワンパン――一撃の拳で仕留めていたよ」



「なんだって?」



 バッシュくんが自分の両耳を引っ張り、首を傾げると、耳に手を添えながら私の口元に近づいてきた。

 残念ながら聞き間違いじゃないんだ。



「まあつまり、コークくんとレンゲちゃんは聖女様指導の下山籠もりってことだね。一応無事は確認したから、そこは心配しないで」



「う~ん……」



 けれどサジくんがまだ納得できていなさそうで、それも当然だろう。なんていっても唯一のお姉ちゃんだ、心配もする。

 どう説得しようかなと考えていると、そういえばガイルも一緒に行ったんだったと思い出す。



「心配なのはわかるけれど、一応金色炎の勇者も今日から一緒してくれるみたいだから、滅多なことにはならないよ」



「え、コークとレンゲ、ケダモノの聖女と金色炎の勇者に弟子入りできるの? ズルくね?」



「……そうかそうか、それならバッシュくんも向こうに行く? 私は止めないけれど――」



 私がそう言うと、すかさずツキコがポーチからカメラを取り出した。



「『月に靡いて夜に囁く(タッチメントマーニ)』」



 するとそのカメラが突然フラッシュをたき、そこから写真が出てきて私はそれを覗く。

 そこにはポケットに手を突っ込んでいる仁王立ちしたミーシャがおり、彼女がいる渓谷のあちこちはぼこぼこと大穴が空き、その一角にコークくんとレンゲちゃんが大量の汗を流しながら、今にも死にそうな顔をして跪いていた。



「……バッシュくん、向こうに行くなら送るよ」



「行かねぇよ! なんだこの最終局面みたいな絵は」



 私はちらとツキコを見る。



「いつのまにそんな紫色の隠者みたいなスキル覚えたん?」



「紫? カメラを弄っていたら使えるようになりました」



 褒めて褒めてと言わんばかりにツキコが手を伸ばしてきたから、私はつい彼女を持ち上げてくるくると回ってしまう。



「いやだから説明してくれよぅ!」



「……お姉ちゃんがまったく歯が立たないなんて」



 私は満足げにツキコから体を離すと、彼女にスキルについて聞く。



「それでツキコ、これはいつの出来事?」



「今この瞬間ですね。さっきまで一緒だったのにいつの間に」



 最後のほうはぼそりと呟いており、バッシュくんたちには聞かれていなかったけれど、本当にさっきまで一緒にいたのに、いきなりアクセル全開過ぎないだろうか。

 一発目でもしかしてこれか。おはよう、死ね! じゃないんだからもう少し手加減してほしい。



「しっかしツキコのスキルは補助系統が多くて本当に助かるよ」



「いやでも補助にしたって尖がりすぎだろ。回復と友だち召喚と遠くの人物を絵に出来るってどんなスキル構成だよ」



「自分はちょっと羨ましいかなぁ。やろうと思えばいろいろできるし、特に友だち召喚が強すぎる」



「テルネは友だちじゃないです――むぐぐ」



 私がツキコの口をふさぐと、バッシュくんが顔をひきつらせた。



「友だちじゃないのに呼び出せんの? こええよ。食事中とかだったら――いや明らかにおやつの時間だったなあの子」



「まあそんなわけだから、コークくんとレンゲちゃんは無事だよ」



「……無事?」



 バッシュくんにじっと見つめられるが、私は視線をそらして手を叩き、今日やることを伝える。



「さっ、それじゃあこっちはのんびりと実戦を交えつつ、必要な力だけをつけていこうね」



「なんか申し訳なくなってくるな」



「お姉ちゃんとコークさんが帰ってきたら、たくさん労ってあげなきゃ」



 報告も終わり、今日は依頼を受けて昨日伸ばした個所を実戦に組み込みつつ戦闘を行う。それで足りないところを発見して教え……的なことを繰り返してこちらは強くなろう。



 まだまだ納得できていない様子が多少あるバッシュくんとサジくんだけれど、それでも一緒にギルドまで来てくれるようであり、私たちは昨日の続きで修業を始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ