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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。

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魔王ちゃんと可憐な不知火と地獄の看守

「ふ~ん、カグラさん、ね」



 カナデにカグラ、信心深い名前というか、女神様排斥主義のシラヌイが付ける名前としては随分と皮肉られているな。

 僕は隣に座るルナちゃんに目をやると彼女は考え込むような仕草の後にうなずいた。



「ベルギルマで言うカグラとは神獣――つまりアヤメへの供物のことですね。大昔は人柱なんて立てていたのですが……」



 ルナちゃんがチラとテッカに目をやると、彼は苦笑いを浮かべた。

 人柱なんて随分と野蛮な仕来りがあったんだな。



「ええ、こうして女神さまたちと接する機会ができた俺だから言えるのですが、きっと迷惑でしたよね。何百年も前の話とは言え、アヤメ様もカグラで寄こされた人々には困ったのではないでしょうか。いや、あの時代では女神さまに自分たちの声が届いていればと必死だったのでしょうけれど」



「その、あのですねテッカさん……その時代、アヤメは不在だったので、何も伝わっていなかったですよ」



「……」



 テッカが僕に呆けたような瞳を向けてきた。

 いや、僕に訴えかけられても困るんだけれど。

 しかしあの神獣様、定期的にこの世界からいなくなるんだな。他の世界への視察ってところかな?



「それじゃあその贄で来た人たちはどうしたんですか?」



「アヤメも不在でしたし、わたくしたちで勝手するわけにもいかなかったので、とにかく近くにいたそれぞれの信者たちに信託を下して引き取ってもらっていました」



「本当に、ご迷惑をおかけしました」



 深々と頭を下げるテッカに、ルナちゃんがポンポンと肩を叩いていた。



「……俺たちが習う歴史では、カグラのおかげで神獣様の機嫌を損ねることなく、今もなお繁栄が続いている。しかしあの時代に犠牲になった人々のことを忘れないように。と、教育されるのですがね」



「誰も犠牲になってないじゃん」



「石碑まで建っているのに」



 両手で顔を覆うテッカがそこそこ不憫になり、ルナちゃんと一緒に彼の肩を叩き始めると、ガイルが酒を片手にダイニングへと戻ってきた。



「お前らはいったい何の話をしてんだよ」



「信仰の、正体見たりプラシーボってところかな」



「なんのこっちゃ――報告は終わったのかよ?」



「……ああ、ちょっと頭が痛いが報告は終えた」



 テッカからカグラさんの話を聞いたわけだけれど、やはりというかなんというか。随分と陰湿な手を使っているなこりゃあ。

 まあでもまず最初に聞かなければならないことが1つ。

 僕は姿勢を正すと、じっとテッカを見つめる。



「な、なんだ?」



「ところでそのカグラさん、可愛い人でしたか?」



「……」



 テッカが苦虫をかんだような顔を向けてくるけれど、僕だよ? 魔王だよ? リョカ=ジブリッドだよ? 最優先で確認しなければならないことだろう。

 するとガイルが半笑いで僕の隣に腰を下ろして口を開いた。



「見た目はカナデから子どもっぽさをなくしつつ、可愛いというよか美人だったな」



「ほ~……この手の話に入ってくるなんて珍しいね?」



「うんにゃ。なあテッカ」



「……俺に聞くな」



 ふむふむなるほどなるほど。それに関しては追々追及するとしてほかに何か情報はないのかと2人に期待を込めた視線を向ける。



「だが仕草やなんかはカナデと大差なかったな。全体的に体全部を使って感情を表に出すっつうか、表情が二転三転としててな」



「ほぅ!」



「まっすぐと人のことを見つめて、お前風に言うのなら可愛さを押し出した感じっつうか。なあテッカ――いってぇぇ!」



「俺に聞くなと言っているだろうがこの脳筋勇者」



 そりゃあまた随分と可愛らしい人だことで。

 そしてこのキサラギ、見事に見とれちゃったわけか。それに関しては今度からかうとして僕は思案する。



「まあ可愛いのはいいね、やる気が出る。それでなんだけれど、シラヌイは随分と小ズルいことをするね」



「小ズルい?」



「だってカグラさん、カナデがいるのは知っているのに、学園に通っていたことすら知らないってことは対面して会話をしていないってことでしょ? つまりシラヌイからカグラさんへは、カナデが人質に取られている可能性が高い。そして十中八九それをカナデ側にもしているね」



「胸糞悪い話だな」



「だね。そんでそれならやっぱりカグラさんを取り込むべきだよ。こっちで保護しちゃってそしてカナデを連れていく。これが一番じゃないかな?」



「……そう、かもな」



 歯切れの悪いテッカに、僕は首を傾げる。



「何か懸念事項が?」



「いや、カグラと戦ったのだが、あいつはそれなりに強い。シラヌイの中でも上位だと思う。だが逃げるという最初に思いつくようなこともせずに、カナデをサンディリーデに置いて行ったんだぞ。何かあるとみるのが妥当だろ」



 協力者がいなかったから、当時は力がなかったとか、挙げだしたらなんでも当てはまる気もするけれど、テッカの不安もわからなくもない。

 やっぱり未だに顔すら出てきていないエンギ=シラヌイという存在が大きすぎる。



「う~ん、それならテッカにカグラさんは任せていい? 今僕が出るとちょっとまずいんだよね」



「まあ、お前は極力シラヌイに顔を出さないほうがいいだろう。お前がいないことにシラヌイは違和感は持っているだろうが、探しようがないからな。だがミーシャ……は無理だな。俺がやるしかないか」



「うん、それに彼女はテッカにまた会いましょうって言ったんでしょ? それならあっちも繋ぎとして認識してくれているかもしれないし、やりやすいんじゃないかな」



「わかった、この件は俺が洗っておこう」



「お願いね」



 そんなことをテッカと決めると、酒を抱えたガイルが食事を乗せられていないお膳を軽くたたき、お腹をさすっている。



「なあ、飯は?」



「用意はしてあるんだけれど、まだミーシャとアヤメちゃんが帰ってきていなくて」



「あいつ何をしているんだ? そういえば日中レンゲと……コークといったか、2人が訪ねてきたが、お前は何しに来たか知っているか?」



「ミーシャに会いに来たんだよ」



「……なぜだ?」



「いや、A級冒険者を見たいって言ったから」



「つまり、レンゲとミーシャは今一緒にいるのか?」



「帰ってきていないってことはそうなんじゃないの? 草原の先――ヨリとやりあった山があるでしょ? その奥の方にいるんじゃない? ミーシャの殺気を感じたし」



「――」



 するとテッカが立ち上がり、今にも飛び出していきそうだったから彼の袖を引っ張る。



「おいおいどこにくのさ?」



「様子を見に行くだけだ」



 やけに熱心だな。

 僕がルナちゃんとガイルに目をやると、2人とも苦笑いを浮かべており、なんとなく事情は察しているようだった。

 とりあえずテッカの袖を引っ張ったままでいると、誰かが屋敷に帰ってきた。



「ただいま」



「ただいまぁ~」



 件の聖女様と神獣様の声が聞こえ、やっと帰ってきたかと僕は厨房へと急ぐ。

 そうして夕食を盛りつける準備をし、それが終わると急いで元の部屋に戻り、お膳に夕食を並べていく。

 その際すでに部屋にはミーシャとアヤメちゃんがおり、我らの聖女様はふてぶてしくも「ごはん」と一言。



 そうして夕食の支度が終わり、やっと食事にありつけてみんなでいただきますとしたところで、ミーシャが食事に集中する前に、コーク君とレンゲちゃんの様子について尋ねる。



「2人はどう?」



「まだなんとも。ただレンゲは土台がしっかりしているから呑み込みが早いわ。コークは……あの子次第ね、もしかしたら獣と同じ時間を過ごすことで、何か目覚めるかもしれないし」



「――?」



 随分妙な言い回しをするな。

 獣と同じ時間を過ごすってなんだ? ミーシャのことだろうか、それともアヤメちゃん? いや、さすがに神獣様のことは言っていないだろうし、ミーシャがそう名乗るとも思えない。

 僕が首を傾げていると、この聖女様が逆に聞いてきた。



「あんたはどうなのよ、あと2人くらいいたわよね?」



「え、ああうん、バッシュくんとサジくんね。2人ともいい感じだよ。スキルが結構癖があるから僕も一緒にやっていて楽しいし」



「へ~、相変わらずそういう感じなのね」



 どういう感じのことを言っているのだろうか? 僕はそっとアヤメちゃんに目をやるのだけれど、実はさっきからこの神獣様、僕と目を合わせてくれない。テッカとも合わせていない。



「……おいリョカ」



「……うん。ねえミーシャ? ちゃんとコークくんとレンゲちゃん、お家に帰した?」



「さあ? 帰りたかったら帰っているんじゃない? 武器も壊れて戦えないようだったから、とりあえず黒獅子を体に叩き込んでいるけれど、今日の調子じゃまだ習得は無理ね――」



 僕は瞬時に大量の魔剣を、日中に感じたミーシャたちがいただろう場所に屋敷から飛ばすと、青い顔をしたテッカが聖女の頭を引っぱたいた。



「馬鹿たれ! あいつらじゃまだあの山は早い」



「痛いわ。というかテッカ、あんたのところから何人かがレンゲを追いかけてきたんだけれど、あれ止めさせなさい。帰り道全員を山に沈めていたからこんなに遅くなっちゃったのよ」



「お前ぇ!」



「さすがミーシャだな。情けもなけりゃあ容赦もねぇ」



 やっぱり預けるんじゃなかった。とりあえず様子見――。



「リョカ」



「……いや、いくら何でもだね」



「大丈夫よ。あの辺りで睨みを利かせていたジールジオイグとかっていう魔物の縄張りだから、そんなに危険はないわ」



「え? え~っと、そのジールジオイグはどこに?」



「殴ったら死んだわ。アヤメ経緯でテッドに確認してあの魔物食べられるみたいだから、そろそろ2人が限界で食べだすんじゃないかしら?」



 僕が頭を抱えると、テッカがクラと体を傾け、ガイルに支えられていた。



「あいつらの獣を呼び覚ますわ」



 アヤメちゃんに目をやると、自分はまるで無関係だとでも言いたそうに額から汗を流しながら食事に手を付けており、ルナちゃんにはたかれていた。

 僕はため息をつき、絞り出すようにガイルに口を開く。



「……ガイル、明日は2人に付き合ってあげて」



「あ~、うん、そうするわ。テッカ、俺がなんとかするからお前はちゃんと役目を果たして来いよ」



「……ああ、任せた」



 やはり地獄だったか。明日サジくんになんて説明しようと頭を悩ませたところで、僕はやっと夕食を取り始めるのだった。

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