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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。
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風と影の教員さんと残り火のママさん

「待て!」



「――っ!」



 ひと気のない路地まで追いかけると、後がないと判断したのか、彼女は急反転してどこかで見た暴走娘と同じように服のあちこちに隠していた暗器を構えて瞬時に攻撃に移ってきた。



「表不知火――」



「話をっ、ああくそ。如月流」



 彼女が歯がギザギザとしている短剣を両手に、その刃を十字にするように構え、俺が技を繰り出すと同時に金属音を鳴らしながら短剣を十字から引き抜くと火花が散り、彼女がふっと息を吐いた。



「『烈火天弁(れっかてんべん)』」



「『影伝い(かげづたい)(こがらし)』」



 彼女が吐き出した空気が、どういうわけかその火花に引火し、爆発を起こした。

 俺はすかさず技の軌道を変え、風を纏った衝撃波で爆風に穴をあけ、そこから体をくぐらせて彼女へと急接近して刃を首筋に添えるのだが、奴の武器もまた、俺の首筋をとらえ互いに動けなくなってしまう。



 技のキレがここ最近見てきたシラヌイのはるか先にある技量で、シラヌイの中でも実力者であることがうかがえる。



「話を聞いてくれ!」



「……私から話すことは何もありません」



 言葉が通じる。

 今まで出会ったどのシラヌイも俺からの言葉が届くことはなかったのだが、彼女には声が届いた。



「そうもいかん、俺たちが知りたいことは1つだ――カナデは、カナデは無事なのか」



「っ!」



 彼女が肩をはねさせ、俺の首に添えていた武器を下ろすと今にも泣きそうな顔をずいと俺に近づけ、にらみつけてきた。



「どうして、どうしてあの子をここに連れてきたのですか!」



「それは――」



 俺たちが連れてきたわけではない。ないが、どういう力なのかまだ判断ができない黄衣の魔王の力によって、カナデを忘れてしまっていたのは確かであり、俺は言葉を詰まらせた。

 俺はあの子の教師だ、それなのに魔王の力とは言え忘れてしまっていた。勇者の剣が聞いて呆れる。



 目の前の女性に、カナデと関わりのある彼女に、俺は何の言い訳も口にできないまま顔をゆがめてしまう。



 しかし俺たちがこうして見合っていると、あたりから金色の炎が上がり、呆れたような声が聞こえてきた。



「そうやって殺しあいたいのか見つめあいたいのかわからんが、せめて周りの掃除はしておけ」



「ガイル」



「……」



 ガイルが周囲でこちらの様子をうかがっていた焦げているシラヌイを放り投げながら言った。

 彼女が足を下げてこの場から逃げようとしているが、ガイルから放たれる圧がそれを許さない。



「まあもうちっとゆっくりしていけよ。何も取って食おうとしているわけじゃねえ、俺たちはただ、生徒を迎えに来ただけだ」



「……生徒?」



「それともう1つ、カナデがベルギルマに来たのはテッカの責任じゃねぇよ。黄衣の魔王の手の者がたぶらかした」



 すると彼女が思案顔を浮かべた後、ハッとなって声を上げた。



「カリン――っ」



 忌々し気に言い捨てた彼女が頭を抱えた。

 俺たちよりも黄衣の魔王の手の者であるカリンという少女に詳しいようだ。



 しかしそんな彼女が俺たちに目をやって首を傾げる。

 カナデによく似た澄んだ瞳、肌は透き通るようにまっさらで炎を名乗るものには相応しくないような白く玉のような……俺はいったい何を考えているんだ。



「……あの子、カナデのことを生徒と」



「俺とガイルは今、プリムティスの学園で教員をしている。カナデもそこの生徒だ」



「でも、あなたは、キサラギの、方、ですよね?」



 カナデと同じような言い回し。どこか不安そうに揺れる瞳もどうにも彼女と俺の生徒との血縁を感じさせる。やはり彼女は――。



「テッカは熱心な先生だよ。そんであんたはカナデの何なんだ?」



「……私は、私はあの子の母親です。そしてあの子をサンディリーデに置き去りにした、不義の、母親です」



 顔を伏せる彼女だったが、すぐに顔を上げ、乞うような顔で俺に顔を勢いよく近づけてきた。



「あの子は、カナデは、元気にやっていましたか?」



「あ、ああ……元気すぎて手におえないほどだ。動き出したら一直線で、すぐに駆けて行ってしまう」



「そう……そうっ、そっか」



 涙ぐみ、安堵の息を漏らした彼女が俺の手をつかみ、シラヌイと呼びこともできないほど、清々しさと清廉さ、頭で何度も反響するようなほど記憶に残る顔で、笑顔で、口を開いた。



「あの子を、導いてくれてありがとうございます」



「――」



 一瞬、時間が止まったような感覚に、俺は息を吐きそれを紛らわすように首を横に振る。



「い、いや、俺は……カナデを導いたのは、あいつが選んだ友だ。リョカとミーシャ――」



「銀色さんとケダモノさん? そうですか、あの子にはお友だちも出来たのですね」



 俺の手を握ったままころころと表情を変え、終始大げさに笑う彼女に見入っていた。

 そんな俺の背後で、相棒の勇者が咳ばらいを1つ。



「あ~……そろそろいいか? カナデは学園では元気だし、そんでその友人の魔王と聖女がひどく厄介で、俺たちはとらわれた困ったちゃんを迎えに来たわけだ。あんた名前は?」



「……カグラ、カグラ=シラヌイ」



 カグラ、カグラというのか。女神さまへの信仰を忘れたシラヌイがカグラの名を持つのは中々に皮肉が利いている。

 そしてカグラが再度考え込むのだが、すぐに俺の手をキュッとつかみ、力強い顔つきをした。



「どうか、どうかカナデを、あの子を連れて逃げてください」



「最初からそのつもりだ。だがどこにいるのか」



「それは……っ!」



 するとカグラがどこか遠くに意識をやるように、背後に目をやると俺の手を胸元で抱き息を吐くと同時に手を離した。



「ごめんなさい、時間切れです」



 そう言うとカグラは俺たちに背を向けた。



「お、おい!」



「キサラギの方、またお会いしましょうっ」



 その背に声をかけると彼女は振り返り、なつっこい顔で小さく手を振った。

 俺はただ、カグラの顔と去り際の背中を目で追うしかできなかった。



「……」



「なあ、俺邪魔だった?」



「……何の話だ。カグラの情報は俺たち2人にとっても有益ものだっただろう」



「そうだな」



「とにかく今の話をリョカとミーシャにもしよう。動き出すのはそれからだ」



 どういうわけか呆れているガイルを横目に、俺たちはその場から立ち去り、キサラギの屋敷へと戻るのだった。

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