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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
41章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、ひな鳥に飛び方を教える。

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勇者のおっさんと知らない相棒のこと

「おいテッカぁ、いくらなんでもあの嬢ちゃんを避けすぎじゃねえか?」



「……こっちにも事情があるんだ。レンゲと今かち合うのは非常にまずい」



「この間会ったじゃねえか」



「あれはリョカのせいで……とにかく、あいつら姉弟はもうキサラギとは何ら関わりのない子たちだ」



 関わりのない。なんて言ってはいるが、明らかに気にした素振りのテッカに、俺は肩をすくませた。

 確かに事情は知らないし、そこまで突っ込むような人柄をしていない俺にはあまり関係のない話かもしれないが、こうもあからさまだと逆に聞いてほしいのではないかとからかいたくなる。



 とはいえ、こういうのはリョカが上手いし、今度帰ってきたときにでも話をつけてみるか。



「なんだ?」



「いんやぁ、一国のまとめ役ともなると大変だねぇ」



「そんな大層なものじゃないことはお前もよく知っているだろう」



「俺この国の情勢よく知らねぇんだわ」



 俺たちがヤマトを倒したときは確か、まだキサラギが影の中で暗躍している時だったかな。

 テッカと2人であの魔王を討伐したことで、キサラギの名が広まり、そのまま影の中でだけではなく、表でも活動し始めたとかってチョロと聞いた程度だったか。



「……お前は確かジュウモンジに会ったんだったな」



「ああ、この国の王の一族だろう?」



「そうだ。だが、あの一族は武力で国を動かしていた。最も強いものが王である――確かそんな話だったな」



 ジュウモンジにもその気はあったが、聞いた話とは少し違うな。

 あいつは力が人を導く。という思想だったはずで、一族の中でもあの男は多少異端だったかもしれないな。



「お前たちの話を聞く限り、王の素質だけならジュウモンジが適任だったのだろう。だが奴に王の道を残すことなくミカドの家は滅んだ」



「それだよそれ。なんで滅んだんだ?」



「……」



 テッカが目を伏せる。

 そういえばこいつと出会ってから結構の年数が経ったが、過去についてあまり根掘り葉掘りと聞いたことはなかったな。

 必要のないことだったし、テッカが俺と一緒に歩んでくれることのほうが重要だったから、先の話ばかりしてきた。

 こうやって聞こうと思えたのは、俺も少しは大人になったってことなのかね。



「10年前」



「う~ん?」



「お前は、ヤマトとの戦いを覚えているな」



「そりゃあな。俺とお前が初めて組んだ時だ」



「……ああ、あの時お前が現れなければ、この国もどうなっていたことやら」



「おいおいなんだよテッカ、随分とおだてるじゃねえか」



 するとテッカが往来を見つめ、何か言葉を放とうとしていた。

 しかし俺はミカドの家のことを聞いたのだが、どうしてヤマトとの話になっているんだ?



「あの時、俺はシラヌイと戦っていた。それはダイモンジ=ミカド、ジュウモンジの祖父にあたる人物がシラヌイと盟約を交わしたからだ。あの頃すでにミカドの家の権威は失墜しており、実力があっても民がついていけなかった。しかもただでさえ力でのし上がったのに、その力すら及ばない者がいることを皆が知っていたんだ。だからこそ、ダイモンジはシラヌイという力を手に入れようとした」



「だからお前が戦っていたのか?」



「あの頃その選択をしたのは親父だ。お前と出会うまでの10年間、俺は前線で戦っていた」



 10年間、ということはギフトを得る前からシラヌイとドンパチ繰り広げていたのか。

 なんつうか、ガキにまで戦いを強いている辺り、キサラギもシラヌイも大差ないように思えるがな。



「だが、そのシラヌイの力をベルギルマに取り入ろうとしたことに、1人の魔王が声を上げた」



「それがヤマトか」



「ああ、奴はシラヌイが権威を持つことが気に入らなかったのだろうな。それならこの国を滅ぼしてしまおうと行動に移ったんだよ」



「あいつとはそれなりに長い期間戦ったが、本当に頭の中暴力ばかりだったな。しかしそんなあいつもシラヌイだけは恐ろしかったのか」



「……真っ先に潰しに動いたからな。そのおかげというべきか、俺たちキサラギがこの国で権威をとれたのだがな」



「ミカドはどうなったんだよ」



「ダイモンジ、ジュウモンジの父親であるイチモンジの両名、すでに殺されていた。俺たちは当初、ヤマトに殺されたのだと思っていたのだが、お前とあいつに挑んで、それが別の者であることは気が付いていたんだがな、首謀者がわからなかった」



「は? 誰が殺したのかわからなかったのか?」



「ああ、ヤマトはシラヌイも殺して回っていたし、すでにあいつらも滅びの道を進んだとばかり思っていた。だが、リョカが、お前たちが持ってきてくれた情報で合点がいった」



「つまり?」



「ダイモンジもイチモンジも、灰になっていた(・・・・・・・)。あいつらもそれなりに強い人物だった。だが、一撃だ。戦った形跡もほとんどなく、あいつらの形がそのまま灰になったように俺たちが発見した時には絶命していた」



「お前それ――」



「エンギ=シラヌイ、話を聞いたことも、そんな奴の影も形も知らなかった。カナデから魔王と聞かなければ、ミルドからその名を聞かなければ、俺たちはずっとシラヌイの手のひらにあったというわけだ」



 エンギ=シラヌイ、ソフィアが管理している魂壊の魔王・ミルド=エルバースから得られたシラヌイの魔王の名――ヤマトと同じく破壊を目的とした力を持つ魔王らしい。

 リョカもロイもからめ手を使う魔王だ。というより基本的にはそういう魔王のほうが多い。だがヤマトもそのエンギとかいう魔王も、真っ向から力を使う魔王らしく、そんな奴がベルギルマで影に徹している。

 脅威だな。



「親父も驚いていたよ。まさかシラヌイが魔王の庇護のもとに活動していたとはな。と」



 今までずっと戦ってきた相手が魔王だと知ったときは衝撃だっただろうな。

 しかしテッカがやっと肩から力を抜き、肩をすくめたのが見えた。



「俺は恵まれているのかもな」



「う~ん?」



「正直、キサラギの使命も、シラヌイのことも、ベルギルマのことも、ヤマトとシラヌイを10年前に倒した時点で、後続に譲ろうと思っていた。だが、お前……ガイル、お前とリョカ、それにミーシャが、改めて俺をここに立たせる理由をくれた。もちろん最重要なのはカナデの安否だがな」



「後続ねぇ……」



 俺はじっとテッカを見つめる。

 するとこいつは顔をそらし、ばつの悪そうに頭をかいた。



「……レンゲとサジは、親父がよそで作った子でな」



「あのジジイ、何盛ってんだ。ってちょっと待て、ということは」



「ああ、レンゲもサジも、俺の腹違いの妹と弟だ」



 ため息をつくテッカだが、これ知ったらリョカとミーシャがキレるんじゃなかろうか。

 腹違いとはいえ妹と弟……特にレンゲって言ったか、妹のほうからはとんでもなく恨まれているし、今まで何をしていたんだとリョカなら言いそうだな。



「……言い訳になるかもしれないが、あいつらにはそれなりにキサラギも助力しようとしてきた。だが、それも上手くいっていなかったらしい。母さんとランガには懐いていたらしいが、母さんは外に出られないし、ランガはグエングリッターだからな」



「あいつらの本当の母親は?」



「任務中に亡くなったらしい。のだが、その母親が相当キサラギに傾倒していてな、娘であるレンゲに様々な技を叩き込んだみたいで」



「確かに。戦いの経験はともかく、技のキレはそこそこだった」



「レンゲは次世代のキサラギだ。だが、もう俺たちに殺しは……」



「……」



 必要がない。か。

 どうにも、そこに確執があるような気がするんだが、俺がそれを口にしてもいいものか。そもそもテッカを連れ出したのは俺だ。

 こいつがいなかった時のキサラギに関しては、俺も同罪なんだよな。



「ガイル?」



「うんにゃ。俺はお前の相棒だって話だ」



「――? 当然だろう」



 テッカと拳を打ち合わせて、俺たちは足を進ませるのだが、ふと俺の脇を通った女――そいつに意識が持っていかれた。



「どうした?」



「……テッカ、今すれ違った女、見覚えがあるぞ」



 そうしてテッカが首を俺の背後に向けたのだが、こいつにも覚えがあるのか、驚いた顔を浮かべた。



「カナデの――」



「――っ」



 俺たちがみていることに気が付いたのか、女が俺たちに視線を向けたとき、テッカがカナデの名前を出した瞬間、女が駆け出した。



「追うぞガイル」



「俺は速くねぇっつうの!」



 飛び出すテッカに、俺は悪態をつきながら追いかけていくのだった。

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