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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
5章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、休日に街をぶらりする。

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魔王ちゃんの試験監督

「マナさんおはよう」



「うん、おはようございます。リョカちゃん、今日は依頼を受けるの?」



「ううん、今日はオタクたちに付き合おうかなって思っているよ。それでいい?」



 翌日、僕は冒険者ギルドに顔を出していた。

 そしてすでにギルドに馴染んでいるオタクたちに登録書発行の試験に付き合うことに許可をとる。



「ええ、拙者たちは大歓迎でござる」



「むしろ我々に時間を割いていただいても宜しいのですか?」



「問題ないよ。それに朝色々あってちょっとミーシャが拗ねちゃって暇してたんだよね」



「そういえば、ミーシャ様とカナデ嬢、それにソフィア嬢の姿が見えないですね」



「いやぁ、僕が調子に乗って朝からミーシャを着せ替え人形にしてたら怒っちゃって、カナデとソフィアはご機嫌取りしてくれてる。僕の方はこんな感じだけれど、オタクたち、セルネくんは?」



 朝食をとった後、昨夜わた毛から届いたミーシャの服に調子をよくした僕は、持っている様々な服を幼馴染に着せて遊んでいた。

 しかし僕の持っていたほとんどの服がミーシャの胸元をスカスカにする仕様で、それに機嫌を悪くした彼女にパンチを喰らいそうになり、慌ててここまで逃げてきたのである。



 まあミーシャの場合、少し時間をおけば機嫌を直しているから良いとして、問題は昨日連れ去られたセルネくんのことなのだけれど、クレインくんが苦笑いで彼らが着いているテーブルの影になっている箇所を指差しており、僕は移動して彼らに近づく。



 するとそこにはグロッキーなセルネくんがおり、鼻を鳴らしてみるとアルコールの香りがしており、顔を真っ青にしていることも含め、二日酔いの症状が見受けられた。



「ありゃ、君たち飲んでたの? お酒の強要はいかんよ」



「いえいえ、拙者たち最初は成人になったのだから。と、ここの冒険者の皆さんに酒の飲み方を教えてもらっていたでござる」



「するとセルネが一口で酔ってしまって、俺たちの止める声も聞かないまま延々と飲み続けたんでさぁ」



「無理やりにでも引っ剥がせば良かったかもなんですけれど、セルネが聖剣だすぞ~などと声を上げましたので、俺たちじゃ手が出せなくて」



 この国の社会では15歳を迎えれば酒を飲むことは許されており、それを咎めるつもりはないけれど、まだまだ成長途中な心と体に酒は如何なものかと考えるけれど、それらすべてを引っ提げて僕はセルネくんに水を手に近づく。



「お酒、怖いでしょう? 自制できるようになってから飲むようにね」



「……はい、肝に銘じます」



 僕はセルネくんに水を手渡すと、これ以上はお節介を通り越した説教になってしまうと、彼に僕たちの住んでいる家を教え、そこにはソフィアもいるから甘やかしてもらいなと、助言する。



「え、ええ、ありがとうございます。オルタ、タクト、クレイン、今日は付き合えなくてすまない」



「いやいや、気にしないで良いでござるよ」



「ああ、俺たちが登録証の試験に通ったら一緒に依頼を受けよう」



「うんうん、楽しい時間って言うのは健康であってこそだし、今日はゆっくり休みな」



 申し訳なさそうに手を振り、ふらふらと千鳥足でギルドから出て行ったセルネくんの背中を見送り、僕たちは改めてマナさんに体を向ける。



「色々抱え込んでいるのかしらね? ああいう真面目な子がお酒に溺れるなんてしょっちゅうあるし、少し心配ね~」



「まあセルネくん、勇者としてお家から大分期待されているみたいだし、精神的に疲れているのかもね。オタクたち、これからも仲良くね」



「そうでござったか。あいや承知でござる」



「セルネは色々と話のわかるやつで、俺たちも一緒にいて楽しいですし、むしろこっちから仲良くしたいと思っていますぜい」



「男4人で依頼を受ける約束もしましたし、これからもオタクセとして仲良くやっていきますよ」



 オタクが3人顔を見合わせて新たな前口上を考えなければと話している様を横目に、僕はマナさんが持って来てくれた幾つかの依頼者に目を通す。



「ふむふむ、これとかよさげかな? マナさんどう思います」



「ああ、この依頼なら初心者も上級者もいる依頼だから何があっても安全ではあるかな」



 僕は見ていた依頼書をオタクたちに手渡し、それくらいなら出来そうかを尋ねる。



「ふむ、漁師の護衛。でござるか?」



「場所はゼプテンの海岸、随分近いな。ああいや、この時期ということはあれのことか?」



「タクト知ってるの?」



「ああ、確かこの時期ゼプテンでとれる魚に、メルフィル魚という魚がいるんだが、その魚は海の虹なんて呼ばれて見た目も美しく、さらに味も絶品でゼプテンの名産にもなっているんだ」



「そうそう、その魚をとる漁師さんの護衛だよ」



「ただの釣りに護衛でござるか?」



「いや、この魚なんだが浅瀬まで大群で泳いできてな、海岸から網を投げて一度にたくさんとる漁の仕方をするんだ。けどな、この魚の美味さと美しさを知っているのは何も人だけじゃないんだよ」



「つまりそれって」



「そう、メルフィル魚を狙う魔物……サッチャーっていう魔物が大量に現れるんだよ。最近では、メルフィル魚が浅瀬まで泳いでくるのはサッチャーから逃げてるんじゃないかって噂されるほど、凄い量の魚がとれるし、魔物に襲われる」



「さすがタクトくんだね、僕が説明するまでもなく何をすべきかちゃんと理解出来ているんだもん。その知識はこれからもちゃんと活用していこうね」



 胸を張り、堂々とした佇まいで返事をしたタクトくんに頑張れとエールを送ると、考え込んでいる残り2人に目を向ける。



「まあ、さっきマナさんが言っていたようにこの依頼は冒険者の質より量をとる依頼で、報酬も美味しいからたくさんの冒険者がいる。だから何かあったとしても周りがちゃんと面倒を見てくれるからそこまで肩に力を張らなくても良いと思うよ。けれど特に君たちは事前準備が大事だから、今から1時間……この砂時計の砂が落ちきってからまたここに集合ってことで良いかな?」



 僕はオタクたちにそれぞれヘリオス先生から貰った特別製の砂時計を彼らに手渡し、その砂が落ちきるまでを制限時間とし、依頼に必要な準備をしてくるように言う。



「急かさせる必要はないかもだけれど、依頼を万全な状態で臨める状況ばかりでもないからね、ちょっと制限を付けさせてもらうよ。それに君たちの場合、万全じゃない状況にも対応できないと多分お話にならないからね」



 僕が微笑みながら言うと、オタク3連星が苦笑いを浮かべた。

 彼らのギフトは強力だ。しかしその分制約も多い。というより、前準備に手間が異様に掛かる。



 依頼の中には、その依頼にない状況に陥る可能性もあり、毎度毎度万全な状態でいられないかもしれない。僕やミーシャ、セルネくんであるのならある程度ごり押しが利くギフトではあるけれど、オタクたちはそうではない。

 故に彼らにもし僕が教えられることがあるとするのなら、最善を選択できるように、今ある技術、道具、情報を駆使できる術だろう。



「マナさん、僕もこの依頼を受けるね」



「うん、みんなのお手伝いのため?」



「まさか、僕は僕の立場から一切手を貸さないよ。ただ、オタクたちにとって使える駒を増やすだけ」



 首を傾げるマナさんに、僕は微笑み返す。

 そして僕はテーブルについたまま、砂が落ち切るまで決して落ちることを止めない(・・・・・・・・・・)砂時計を傾け、オタク3連星に事前準備を始めて良いことを告げると、彼らが飛び出すように駆け出して行った。



 僕は頬杖を突いたまま、その背中を見送るとお菓子を取り出し、ゆっくりと制限時間が終わるのを待つのだった。

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