夜を被る魔王ちゃんと料理の腕
「しっかしヨリの作るお菓子は本当に美味いね」
「ね、これだけの物が作れるのなら、その道でも食べていけそうよね」
「甘いものが染みるぜぇ」
「――」
ギルドに戻ってきた私たちは報告の後、夕食をとっており、その際に昼に残しておいたお菓子を食後のデザートとして食べており、それぞれが味の感想を話してくれていた。
サジくんは夢中になっているのか、言葉も発せずに一心不乱に食べており、作った側としてはとてもうれしい。
「ギルドに置いてもらえて助かったよ。生ものもあるから残したらもったいなかったし」
私はそう言って、受付のギルド員たちを見た。
「まあ数が少し減っているのは、それだけ魅力的に映ったってことで喜んでおくべきかな。美味しかったですか?」
「んぐっ――」
マクルールさんが報酬やら何やらを持って来て、私の言葉に口をつぐんだ。他のギルド員も目を逸らしており、私はニヤケ面を浮かべる。
「……ご、ごめんなさい。あまりにも美味しそうだったからつい。少しだけって思ったのだけれど、食べる手が止まらなくて」
「いえいえ、どうせ私たちじゃ食べきれないほどの量だったので、逆に助かっちゃいましたよ」
マクルールさんとその他ギルドの人たちがパッと顔を明るくさせた。
まあなんとなくこうなる気がしていたし、そのために相当数作ってきたから、余った分はみんなで食べてもらおうと考えていた。
「……」
しかしサジくんがテーブルのケーキを自分の傍に寄せて周囲を睨んでおり、相当気に入ってくれたらしい。
「こらサジ、卑しいことしないの」
「で、でもお姉ちゃん」
「サジくん、また作ってくるから。ね?」
反省したようにシュンとするサジくんに微笑みを向けていると、レンゲちゃんがため息をついた。
「まったく図体ばかり大きくなってもう。ヨリもありがとうね」
「いいえ~どういたしまして」
そうして職員が幾つかのお菓子を持って行くのを見ていると、マクルールさんが椅子を持ってきて近くに腰を下ろした。
「でもコークくんたち、一気に成長したよね。今のランク帯の依頼、結構余裕でしょ?」
「う~ん、とにかくヨリが強すぎるから何とも。俺たちだけじゃどこまで行けるか」
「そんなに? あっいや、この間の騒動もあるし、強さを疑っているわけじゃないんだけれど、一緒にいるコークくんたちから見ても圧倒的?」
「圧倒的よ。Aランク冒険者とか普通に倒せると思う」
「それに何より知識量がヤバい。俺たちの知らないことを何でも教えてくれるぜ」
「戦術の立て方も圧倒的ですよね。何度助けられたか」
「おいおいよせやい。そんなに褒められてもみんなに可愛い衣装用意することしか出来ないぜっ」
「これがなければ文句なしよ」
頭を抱えるレンゲちゃんに、私は隣のツキコが取り出した衣装を彼女にあてがう。フリフリのドレスだけれど、彼女にはよく似合いそうだ。
「いや待って俺らも?」
「君らはまだ可愛さを押し出せる歳だからぁ!」
「何言ってんだお前」
「自分は無理だよぅ」
「今度もこもこ動物寝間着で全員を散歩に駆り出してやるからな!」
目を血走らせながら言う私に若干引き気味のマクルールさんが苦笑いを浮かべた。
そんなことを話していると、ギルドの入り口から誰かが入ってきた。
こんな時間に珍しいなと顔をそちらに向けると、今にも死にそうな顔をしたギンさんが心底疲れた様子でふらふらとした足取りをして受付を目指していた。
「うぉギンさんっ、どうしたんすか!」
「……ああうん、コーク、ただいま。マクルール、ギルドマスターは先に帰るそうだから、君たちで締めちゃってくれと伝言を預かってきた」
「う、うん、それは良いけれど、ギンさんどうしたの? 今日は確か、金色炎の勇者様たちに会いに行くって」
「ああうん、その、ああ駄目だ、疲れで頭が働かない」
私はすぐにポットから茶を注ぎ、私たちのテーブルにやってきたギンさんの前に果物を絞ったジュースで作ったゼリーを差し出した。
一応冷たさを維持できるようにしていたからまださっぱりして食べやすいと思うけれど、彼の口に合うだろうか。
「これ、食べやすいので良かったらどうぞ」
「ああすまないヨリのお嬢さん、いただくとするよ――」
ギンさんがスプーンに乗せたゼリーを口に運んだのだけれど、彼が驚いた顔をしてすぐにまた口に運んだ。気に入ってもらえたようだ。
「これは美味しいね。他にも何かあるかな? とにかく今は何か食べ物を入れたい」
「ちょっと待っていてくださいね。結構がっつり食べたい感じですか?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
ギルド内の飲食担当員たちが何か作ろうかと話し合っていたけれど、まあここは私が作っちゃおう。
ギルド職員にカウンター越しのキッチンを借りる旨を伝え、そこでポーチから調味料類を取り出して髪を纏めて手を洗い、残っている具材を確認してそれらを取り出す。
適当に具材を細かく刻み、先に炒めて取り出しておき、鍋……というよりフライパンだなこれは。それに油を引いてよく熱し、卵を投入して鍋に投入してよく振り油を吸わせてふわふわの半熟を維持、そしてそこにお米を投入してさらによく鍋を振ってパラパラに仕上げて、分けておいた調味料を入れて味をつけ、取り出していた具材を合わせて、最後にジブリッド商会で好評発売中のお醤油らしきものを鍋肌に回しかけて完成――ついでにサッと海藻と卵のスープを添えておく。
「ほい、完成――んぅ?」
皿に盛り付けていると、周囲から視線を感じ、私は辺りを見渡した。
するとさっきまで食事をしていた冒険者たちが涎を垂らして見ており、手元の食事には手を伸ばしていなかった。
「いやいや、1人分しかないよ」
「……ああその、みんな、すまん!」
ギンさんの下に持って行くと、彼はわき目を振らずに私の作った炒飯を口にかき込んだ。
そんなに急いで食べなくても。と、首を傾げていると、ツキコが苦笑いで袖を引っ張ってきた。
「お姉ちゃん、いつもならみんな慣れているからこんな反応にならないですけれど、お姉ちゃんの料理は基本的に魅力的だからね?」
「う~んぅ? ああ、そういうことか」
炒飯を口に運ぶギンさんをみんなが恨めしそうにガン見している中、私は後片付けのために料理に使った道具を片していく。鉄鍋だから熱い内に植物の……繊維の多い所謂へちまのような植物を乾燥させたスポンジで鍋の汚れを取り、お湯で洗った後――等々で後片付けを終えてテーブルに戻ると、ギンさんが完食していた。
相当お腹が減っていたようだ。
「いや美味かった。こんなに美味い食事は初めてだよ」
「お粗末様です。お口に合ったのならよかったです」
私は彼にお茶のお代わりを注ぐのだけれど、ふとコークくんたちも私を見ており、首を傾げる。
「俺らには?」
「さっきご飯食べてたじゃない」
「いやヨリの嬢ちゃん、そりゃあねえぜ。あんなに美味そうな匂い出しておいて俺たちには何もないって生殺しだろ」
「あなた本当に器用ね。今度ちょっと教えてよ。サジに作らせるわ」
「それなら自分が聞くよぅ。お姉ちゃんは絶対に台所に立たないでよね、道具買い替えるのも大変なんだからさぁ」
私は肩を竦ませると、とりあえず追加でもう何人分かを作るかと再度厨房に戻るのだった。




