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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
40章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、残り火の影を見る。

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夜を被る魔王ちゃんと空気を吸う子

「あなたたち、こっちを手伝わないで何を暴れていたのよ」



「ん~~~~っ!」



 バッシュくんがすごい勢いで私を指差してきたから、むんっと勝気な顔を返してあげた。



 彼にスキルの扱いを教え終えた私たちが戻ってきたら、レンゲちゃんから白い目で見られ、2人で弁明しているところである。



「バッシュボロボロじゃないか、なにしてきたんだお前ら」



「コークぅ、それが聞いてくれよ。嬢ちゃんにさ俺のスキルって一体何か聞いたんだよ。そしたら見ず知らずの小っちゃい女の子が現れて、ヨリが俺のスキル使い始めて、ボコボコにされて――」



「……」



 コークくんがバッシュくんの額に手を当てて首を傾げた。

 彼は熱を出したわけではありません。



「バッシュあなた疲れてる?」



「バッシュさん、もしかして自分と同じように妖精さんに――」



「ちげぇって! なあヨリお嬢ちゃんと小っちゃい嬢ちゃん説明してくれよ」



「……?」



「……?」



 私とツキコは揃って首を傾げた。



「おぃいっ! 俺が頭おかしい奴みたいになるじゃないか!」



「……バッシュ、確かに最近は依頼に出っぱなしだったな。ヨリが来てから色々起きたから、休暇をとるのも良いかもしれない」



「おい止めろコーク、俺は別に疲れていないし、そんな可哀想な目で見られるような状態でも――」



「……」



「サジぃぃ! 俺の背中をポンポン叩くのは止めろぉ!」



 バッシュくんが回収した苔の入った袋を担いだコークくんとサジくんに寄り添われて歩みだしたのを横目に、可笑しそうに笑っているツキコを私は撫でた。

 するとレンゲちゃんが傍にやってきて、一緒になってツキコを撫でてくれた。



「で、実際何やっていたのよ」



「うん? バッシュくんが言った通りだよ。ツキコのスキルで知人を召喚して、その子のスキルが他人のスキルを使えるようにしてくれるスキルだったから、それを使ってバッシュくんの体に使い方を叩き込んだだけ」



「……本当に言った通りとは恐れ入ったわ」



「バッシュくんも私も嘘なんてつかないよ。まああの子のスキルはちょっと難しいからね」



「そうなの?」



「うん、引力……地面に物が落ちる力なんだけれど、どうして物が落ちるのかを説明してって言われたらレンゲちゃんは何て答える?」



「何でって……高いところから物が落ちるからでしょ?」



「そうなるよねぇ。正確には大地から引っ張る力が働いているんだけれど、そんなのわかりようがないよね」



「すみません。この辺りは様々な世界の理を参考にして作ったので、正直曖昧です」



「なるほど、そりゃあ上手く使えないよ。バッシュくん、私がスキル使っている姿にずっと困惑していたものね」



「なんだか難しい話をしているわね。でもこれでバッシュも強くなれるんでしょ? なら何でもいいわ」



「う~ん……」



「どうかした?」



「いやぁ、正直あのギフト、強すぎない?」



「え~っと、それはその、正しく使える者がいなかったので」



「レンゲちゃん、バッシュくんに追い抜かれないように精進しなよ。やりにくいことこの上ないと思う」



「ふ~ん、面白いじゃない」



 好戦的に笑って見せるレンゲちゃんに笑みを返すと、コークくんたちが呼んでおり、私たちは揃って脚を進めた。



「そう言えばヨリさ」



「お~ぅ? どうしたコークくん」



「さっき俺に風の扱い云々言ってたけど、それについて思い当たる節が合ってさ」



「おや、ぜひ聞かせてもらいたいよ。今後の参考になるかもだし」



「参考……になるかはわからないけど、俺とバッシュはさ、昔に……親を亡くしてさ、孤児だったんだよね」



「そうなの?」



「ヨリが知っているのか知らないけれど、ベルギルマ……リックバックでは前に大災害みたいなことが起きたからその時に」



「……ヤマト=ウルシマ、ですね」



「え? ああそうか、相当暴れ回ったんだっけ?」



「そう、あの魔王が現れて、俺たちの生活は一変したんだよ。そんでさ、俺バカだから、あの頃はとにかく荒れててさ、周りに迷惑かけまくっていたんだよ」



「迷惑って、5歳くらいでしょう? そんなの当然じゃない」



「まあそうかもしれないけどさ、それでもあちこちに当たり散らして、みんなも手が付けられないって感じだったんだよ。それでそんな時にな、俺はまた癇癪起こして孤児院から飛び出してさ、そこで池に落ちて溺れちゃったんだよ」



 ギルドへの帰り道、日も落ちてきた時間帯にコークくんがしゃべり始めた。

 ヤマト=ウルシマについては少しだけれどガイルとテッカから聞いていた。殺人衝動を抑えられないヤマトがあちこちを壊して回り、人々を恐怖に陥れたのだと。

 私は彼に会ったことがないけれど、カナデ曰く、相当に性格が悪いらしい。



 しかしこれで1つ納得した。

 空気の概念というのは身近にある分とても理解しづらい。それが大気ともなると目に見えずにどう扱っているのかもわからない。

 でもコークくんはこと溜める(・・・)ということに関してはとても理解が深いように思えた。



「水の中は苦しくってさ、口から泡がたくさん出てきて、俺の中から何かが消える感覚がしたんだよ」



「水の中は空気――風がないからね。人はそれを吸っていないと生きていけない」



「えっそうなの? じゃあ俺本当に危なかったんだな。だからかな、もう死んじゃうって思った時に引っ張り上げられて、その時に大きく口を開けて何かを吸いこんだ時、生きてるって、何となくだけれど思ってさ、これが呼吸だって知ったのはもっと先だったけれど、その呼吸で風を吸っていたんだな」



「大気中のそれを空気と呼ぶんだよ。酸素と二酸化炭素とかを話しても仕方ないだろうから、とりあえず空気って覚えておきな。そしてコークくんのそれは空気を操るギフトだ」



「なるほど、わかったよ」



「しかし溺れた故に空気の存在を認識して、そして溺れたから空気をため込むことを自然と覚えた。コークくんは選ぶべきして『風の中心で渦を巻け(ヴァイルラッカー)』を選んだんだね」



 嬉しそうに頷くコークくんに、バッシュくんがニヤケ面を向けた。



「スキルとは関係ないけど、その時に引っ張り上げてくれたのがギンさんでな、そりゃもうギンさんからめちゃくちゃ叱られたんだよ」



「バッシュ、黙ってろ」



「ヤダねお返しだ。そんでその日からコークは冒険者に、ギンさんに憧れて、危ないって言われても冒険者ギルドに足しげく運ぶことになったんだぜ」



「あら~」



 顔を真っ赤にしたコークくんがバッシュくんの横腹を何度も叩いている。

 人に歴史ありとは言うが、中々に可愛らしい理由でホッコリする。もちろん溺れかけたということに関しては注意が当然必要だけれど、そのおかげでこうして真っ当に成長しているのであれば、彼は立派な冒険者になれるだろう。



「へ~、コークにも随分と可愛らしい時代があったのね」



「んぐ、レンゲまで」



「別にからかっているわけじゃないわよ。あんたがやたらギンに懐いているのが不思議だったし、知られてよかったわ」



 照れたようにそっぽを向くコークくんに笑うみんなを見て和んでいると、ツキコが思案顔を浮かべていた。だから私はそっと彼女を撫でる。



「まだ計っている途中、かな」



「……優しい雰囲気の人だとは思います」



「でしょ。だから私たちが何の考えもなしに壊していい物じゃないと思うんだ。例えこの判断が後々重大なことを引き起こしたとしても、なんとかしよう」



「ですね」



 私とツキコが話していると、先に進んでいるみんなが手を振って早く帰ろうと急かしてきた。

 そんなみんなの笑顔に私は肩を竦め、ツキコの手をとると駆け足で彼ら彼女の傍まで駆け寄るのだった。

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