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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
40章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、残り火の影を見る。

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鋼鉄のライダーくん、イチャイチャドライブ中

「……」



「おいヴィ、機嫌治せよ」



 バイクに乗っているから当然なのだが、俺の背中にぴったりとくっついて離れないヴィがさっきからずっと頬を膨らませている。



 リョカが出ていってからここ数日間、俺とヴィはこのベルギルマという国を駆けまわっていた。

 今は速度を落として走っているから彼女の様子がよくわかるのだが、俺自身なんでこんなに機嫌が悪いのかわかっていない。



「あたしがどうして怒っているのか、君はわからないんだろうねぇ」



「まったくわからん。もしかしてあれか? さっき見かけた髪留め、あれ髪に当てたの怒っているのか? 結構似合ってたぞ」



「……ああいうこと、外ではやらないで」



「やっぱあれかぁ」



「ち、ちがっ――」



 顔を真っ赤にして背中を叩いてくるヴィに俺は肩を竦ませる。

 嫌がっているのなら無理に渡すわけにもいかないか。俺はこっそりと買ったその髪留めが入っているポケットに意識を向けた。



「エレにでもやるか」



 そうボソとつぶやいたのだが、ヴィにも聞こえていたらしく、彼女が突然俺のポケットをまさぐり始める。



「こらこら危ないだろ」



「いる、いるからっ」



 そう言ってヴィが俺のポケットから髪留めを強引に取り出し、片手で胸に抱いたのが横目に映った。

 このヴィという女の子はリョカ曰く、エレノーラたちと同じく人とは異なった在り方をしているらしく、基本的に物に触れられないらしいのだが、なんか頑張って短い時間なら触れられるようになるらしい。

 俺はバランスをとりながらハンドルから片手を離し、ヴィに手を差し出す。



「ほれ、いつまでも触っていると疲れるんだろ? 持っててやるから」



「……絶対に他の人にあげるんじゃあないよ」



「わかったわかったって」



 終始感情の起伏が激しかったヴィだが、何とか機嫌が治ったのか背中に回す腕の力が幾分か柔らかくなっていた。

 しかしこいつ、別にこうして背中にくっ付かなくても飛んでいられるんだから飛んでいりゃあいいのに。



 そんなことを考えていると、分かれ道が3本――正面の道と右左。

 右は漁村への道で、左は鍛冶が盛んな街だとここに来る前に立ち寄った村で聞いた。

 しかし正面は鬱蒼とした森があり、それなりに強い魔物が出てくるとのこと。さらにこれは噂らしいのだが、その森では訪れた者が消え、時折まるで火の幻が点いたり消えたりを繰り返すらしい。

 村の人曰く、森で死んだ人間が何らかの影響で体を捨て去り、仲間を増やそうと次に森に入ってくる人間を誘っているのだと話していた。



 そのため、この辺りでは誘いの森と呼ばれているらしく、1人ではいかない方がいいと教えられた。

 漁村へ行けば森の先にある町まで船を出してくれるから、そちらを頼るのが良いだろうと。



「ジンギ、右――」



「じゃあ正面だな」



「そういうことばかりするからあたしの機嫌が悪くなるって、いい加減自覚してくれてもいいんじゃあないか?」



「だから説明しただろ。何でも正直に口に出すヴィのおかげで、俺は迷うことなく目的地にたどり着けるってな」



「シラヌイなんてどうでもいいじゃない」



「そうだな、俺が探しているのはカナデだ。シラヌイとか知ったこっちゃっない」



「あいつらあたしの危機察知の効果が薄いんだよ。だから漠然とした危険しかわからないし、正直近づきたくない。さっきあたしは右って言ったけれど、正面に奴らがいる保証もそもそもないんだから、ここは危険の少ない道を行くべきだ」



「お前のその察知は完璧なんだがな、もうちょっとゆとりを持たせてくれよ。俺たちは危険の中で安全を探すべきなんだよ」



「……意味がわからない」



「まあ行ってみりゃあわかるさ」



 俺の進路は誘いの森、少しアクセルを回して速度を上げて森の道に入っていく。

 ヴィの言っていることはわかるが、俺もそれなりに危機察知は高いつもりだ。

 だからこそ、この先に強い魔物はいるが、恐れるほどの脅威ではないことはわかっている。



 だからこそ、俺はその危険(・・)ではなく、何となくだが漠然とした運命(・・)を手繰り寄せることにした。

 まあつまり、勘だ。



「……どうなっても知らないんだから」



「そん時は頼りにしているぜ相棒」



「……ズルジンギ」



 俺の背中に顔を埋めながら、視えないが頬を膨らませているだろう相棒に、俺は鼻を鳴らして笑い、そのままアクセルをいっぱいに回す。



 一応道はあり、森の中だが進めなくはない。そもそもこのバイク、走るだけの空間があれば道などいくらでも作れるから特に問題はないが、やはりこうしてそのままの道、地に足がついている感じが心地よい。

 俺は調子に乗って上りの傾斜に思い切り突っ込み、そのままバイクを宙に浮かすように飛び上がる。



「気持ちいなこれ」



「安全運転!」



 ヴィの小言を耳に入れながら、風を感じながら空から大地への哀愁を覚えつつ、気を緩めてしまった。

 それがいけなかったのか、何かが物凄い速さで横切るのを見逃してしまう。



「え――」



 聞き覚えのある(・・・・・・・)素っ頓狂な声が耳に届いた時にはバイクで思い切りその影をブッ飛ばしていた。



「ひやぁぁぁっ!」



 女の子の声が森に響き、そのまま彼女はゴロゴロと転がっていき、途中の樹木に突撃して動きを止めた。



「……」



 俺はバイクを着地させ、ヴィと顔を見合わせた後、バイクから降りてパンパンと手を叩き、立派な魔物になれよと呟いて頭を下げた。



「勝手に殺さないでよぅ!」



「おうカナデ、頑丈な体で良かったな」



「本当だよぅ――ってジンギ? ああいや、あたしのこと、忘れてるんだった」



「いや忘れてねえけど」



「ジンギはリョカちゃんと同じ特異点だから、黄衣の魔王の力は届かない」



「え、黄衣の魔王? なんのこと? というかどちら様ですのぅ?」



 色々と疑問があるようだが、俺はひとまずカナデの首根っこを掴み、バイクの後ろに乗せた。



「んじゃあ帰るか」



「ま、待って待って! あたし帰れないから!」



「知らねぇよ。とりあえずリョカとミーシャを納得させてから出ていけよ」



「無理!」



「お前頭悪いもんな。ならそれはお前が出来る範疇を超えているってことだ。諦めて帰ってこい」



「それも無理!」



 カナデがバイクから降りようとするから、俺はとりあえず頭を鷲掴みにして身動きが取れないようにする。



「あのなぁ――」



「……」



 ジッと見上げてくるカナデに、俺はため息をつく。

 このまま無理矢理連れ帰っても良いが、それじゃあこいつの我が儘が通らない。

 こいつは頭が足りないが、不義理でもないし、考えることは出来る部類の奴だ。帰れないというのならそれなりの理由があるのだろう。



 本当ならリョカとミーシャの判断を仰ぐところだが……俺は頭を掻くとカナデを乗せたままバイクに跨る。



「え~っとジンギ――」



「この辺りに拠点があるな? 随分と身ぎれいだし、背中の編み桶には食材が入っているし。とりあえずそこに案内しろ。俺を連れていけばリョカとミーシャにはまだ黙っていてやる」



「……うん」



 俺はヴィが頷いたのを確認して、カナデ案内の元彼女が今構えている拠点へと向かうのだった。

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