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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
40章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、残り火の影を見る。
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夜を被る魔王ちゃんと風の中心

「バッシュ! そっちに逃げたぞ」



「あいよ任せな! 『繋がり紡ぐ浮き魂(アークコア)』」



 バッシュくんがあちこちから集めた大地の息吹で出来た拳を、逃げ回るプラットラットという魔物の進行方向へと落とし、進路を誘導した。



「妖精さんお願い!」



 そしてその逃げたプラットラットをサジくんの妖精たちが惑わせて、フラフラとしたところをレンゲちゃんが植物の繊維を編んだ袋に詰めていた。



 私たちは今、このプラットラットを捕獲する依頼を受けており、みんながみんな小さな魔物を追いかけていた。



 そして私はというと、ツキコを膝に乗せながら林道の樹木にもたれて座りながらみんなの様子を見ており、そのついでで走り回っているプラットラットを指を鳴らして夜の闇に放り込んでいた。



「プラットラットに生えている苔がベルギルマでは生薬として使われているんだよね」



「みたいですね。実際のところどうなのですか、お薬として役に立ちます?」



「う~ん、一応うちでも取り扱いがあったから色々と実験したはしたんだけれど、どうにも市場でうたわれている効能じゃないっぽいんだよね」



「と、いいますと?」



「みんなは元気が出るなんて言うみたいなんだけれど、実際は肌に張りや潤いを与え、関節の滑りをよくする。つまりヒアルロン酸だね」



「ひあるろんさん」



 研究機関があるわけじゃないからざっくりとした調べだけれど、健康優良児のスキルを使ってどんな効果になるのか試してみたところ、とにかく肌に潤いが出てきて、動きやすくなった以外なく、多分ヒアルロン酸だろうという結論に落ち着いた。



「お父様とも一緒に確認した結果、どちらかといえば肌に影響を与えるとして、うちでは化粧水になっているね」



「みなさんは飲んでいるんですか?」



「わざわざうちのレシピを公表する必要もないからね。うちでは薬として扱っていないんだよ」



 しかし苔がヒアルロン酸を生成するっていうのはどういった原理なのか。この苔は乾燥させて粉にし水に溶かすと粘り気のある水に変わる。それが肌の保水に優れており、今ジブリッドの化粧水にはほとんどこの苔が使われているのだけれど、やはり徹底的に調べるためにロイさんとラムダ様と一緒に研究する機関でも儲けようかな。



 私はツキコのモチモチの頬を撫でながらそんなことを考えていた。



 するといつの間にか手を止めていたコークくんたちが何か言いたげに私たちを見ており、私たちは首を傾げて手を振り返した。



「いや手伝え」



「こんな美少女2人が見守っているだけでやる気でない?」



「もうちょっと(なり)を大きくしてから言ってくれよ嬢ちゃんたち」



「レンゲちゃんに謝れぇ!」



「はっ倒すわよ!」



 レンゲちゃんに短剣の柄で脳天を殴られているバッシュくんを横目に、私は指を鳴らし、さっきから捕まえていたプラットラットをそこいらに放出した。

 魔物はすべて気絶しており、したり顔をコークくんに向ける。



「俺たちが必死こいている横でそれだもんなぁ」



「そりゃあ実力に差がありますから。でもみんなもたくさん捕まえているじゃない」



「そうだけどさぁ……」



 ちょっと拗ねているコークくんだけれど、ツキコが思案顔を浮かべており、何か言いたげにしていた。



「ツキコ、言いたいことがあれば言ってもいいんだよ。コークくんはそれなりに出来た子だから何を言われても怒るなんてしないよ」



「いや、限度はあるぞ」



「えっとですね、コークさん、第2スキルを使ったらいいのではないですか?」



「え、使えないけど」



「使えますよ」



 互いに首を傾げるツキコとコークくん。

 う~むこれは――。



「ツキコ、どうしてコークくんに第2スキルが使えるって?」



「お姉ちゃん、よく見てください。ほら溜まって(・・・・)いますよ」



 私はジッとコークくんを見るのだけれど、彼の背後の大気が揺らいでおり(・・・・・・)、そこでやっとギフト『風の中心で渦を巻け(ヴァイルラッカー)』の第2スキルを思い出す。



「ああそうか、空気の蓄積(・・・・・)か」



「え?」



「『風よ大気よ巡り留まれ(テトラテリア)』ですね。空気を溜めることで、他のスキルの威力を上げるスキル。コークさんの後ろで今にも破裂しそうです」



「え……」



 コークくんがおずおずと振り返り、空気が密集して揺らいでいる箇所に手を伸ばした。その瞬間、彼の手が弾かれ、呆然とした顔でその手と空気溜まりに目をやった。



「え、あの、これどうしたら」



「第1スキルと併用して使ってごらんよ。それだけ溜まっているのならこの辺りのプラットラットくらいなら一発じゃない?」



 コークくんが息を飲み、槍を構えた。



「そ、それじゃあ――」



「レンゲちゃん、バッシュくんとサジくんこっちおいで、巻き込まれるよ」



「そんなに威力あるの?」



「あれだけの空気の塊ですから」



「コークくんとは中々に相性いいみたいだね。あれだけ蓄えられるのなら常に必殺の一撃を持てることになる」



「へ~、大将の才能か」



「ちょっとワクワクするかも」



 何てのんびりした感じだけれど、私はツキコを抱き上げて木の影に隠れ、さらにコインを準備する。

 プラットラットは何かしようとするコークくんに、あんだコラ。的な目を向けて足を止めているが、そんな呑気している場合ではないことをぜひ自覚してほしい。



「『廻れ回れ風の目となれ(フュリップトップギア)』――」



 私はコインを投げ、表になったことを確認してぎゅっとツキコを抱きしめた。



 その瞬間、コークくんから放たれた大量の空気を纏った槍が一瞬で粉砕し、そのまま行き場を失くした大気の渦が辺り一帯を飲み込むように木々をなぎ倒して、巻き込まれた魔物たちが風の渦に飲み込まれて天高く放り投げられた。



「あがががががが――」



「ちょっ馬鹿コーク! 早く止め――ヨリぃ! あんた知っていたわね!」



「あぁぁぁ! 巻き込まれるぅ!」



「妖精さんがぁ! コークさんコークさん、早く止めて止めて!」



「むりぃっ!」



 大地にしがみついているみんなを横目に、私は荒々しく吹く風を肌に感じながらツキコと一緒に昼食の準備を密かに行なうのだった。

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