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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
40章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、残り火の影を見る。
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夜を被る魔王ちゃんと月を被る月神様

「うぃ~、可愛い可愛いヨリちゃんが来ましたよ~。みんなちゃんとお腹は空かせてきたかなぁ」



「……」



「……」



「……」



「……」



 ギルドに戻ってきた私、ヨリフォースはコークくんとレンゲちゃん、バッシュくんとサジくんが集まっているテーブルに顔を出したのだけれど、4人とも呆けた顔で体から力を抜いてダラっと座っており、首を傾げて空いている椅子に腰を下ろす。



「お~いみんなどしたぁ?」



「……俺たち、生きてるのか?」



「昨夜のことは夢か何かでしょ」



「いやいや、あんな強烈な夢、全員が見るわけねぇぜ」



「……自分、昨日夢で大量の龍を見ちゃったよ。怖かったぁ」



 私はみんなの話を聞きながらテーブルに背後から受け取った(・・・・・・・・・)ケーキやらの焼き菓子、金糖果を使ったスイーツを並べていると、マクルールさんとギンさんが頭を抱えてやってきた。



「ヨリちゃん、ちょ~っとお話を聞きたいんだけれどいいかな?」



「はいはいいいですよ」



「えっと――ってすごい数のお菓子ね。これ金糖果で作った物?」



「ですよ。みんなで成し遂げた成果ですから美味しく頂きたいじゃないですか」



「……じゃあ報告は本当なのね」



「んぅ?」



 マクルールさんが頭を抱えて、レンゲちゃんが書いたらしき報告書を私に手渡してきた。



「ヨリのお嬢ちゃん、この報告書では金色炎の勇者、そして風斬り、さらにはケダモノと戦闘をしたと書かれているが、間違いはないか?」



「ありませんよ。苦労して手に入れた金糖果を金色炎が売ってくれとかふざけたこと言ったので代わりに喧嘩売りました」



「……ヨリちゃん、気持ちはわかるけれどそこは引いてほしかったかな。相手はこの国の英雄様よ、それに多分ちゃんと話せばお2人も聞いてくれたはずよ。交渉はしたの?」



「するわけないが? その英雄が舐め腐ったことを言ったから正してあげたんです。皆さん英雄だからって調子に乗せすぎですよ、つけあがりますよ」



 マクルールさんだけでなく、話を聞いている周りの冒険者もドン引きしていた。しかしあそこで引いたら本当にあの男のためにならないし、ガイルが名声を盾にすることはないだろうけれど、嫌なことは嫌だとはっきりとさせるべきだ。



「それに別に勝てない戦いはしないですよ」



「そりゃあ手加減してくれただろうからよかったけれど――」



 私はチラとコークくんたちに目をやると、彼らは凄い勢いで首を横に振っており、あの時の奴らは本気であったと身体で訴え始めた。



 すると私の背後にいる子がちょいちょいと袖を引っ張ってきて、ポーチから写真を取り出して渡してきた。

 その写真には昨夜の戦いの時のケダモノの聖女が写っており、口から放たれた信仰が龍に変わり、世界に災いとして降り注いでいる光景がばっちりと記録されていた。



「どうぞ」



「え、なにこ――昨日の山消失事件ってあなたたちが関わっていたの!」



「聖女が消し飛ばしました」



 マクルールさんがクラと倒れ掛かるのをギンさんが抱きとめ、ヒラと落ちた写真を他の冒険者たちが拾って回し見し始めた。



「よく……生きて戻ってきた」



 ギンさんがマクルールさんを椅子に座らせるとコークくんとバッシュくんの肩を叩いた。



「ギンさん、世の中には、どうやっても届かない相手っているんですね。ヨリが防いでくれなかったら本当に死んでいたよ」




「ヨリちゃんこれ防いだの!」



「そりゃあ防がなくちゃ死にましたし」



「……君も君で彼らと肩を並ぶ力を持っていると言うことか。Dランクでは不服かな?」



「コークくんたちと合わせるから大丈夫ですよ。それに私がいると事件が良く起こるらしくて、どうせランク関係なく死ぬような目に遭うから問題ないです」



「俺たちには問題しかねぇけど!」



「人生観変わっただろ?」



 親指を立ててバッシュくんに言うと、彼は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。



「なるほど、それ故にその強さか。まあ、彼らに関してはこちらから話を聞いてみるよ。まだこの街にいるだろうし、ギルマスと一緒に行ってくるよ」



 心底疲れたような顔をして、マクルールさんとギンさんが奥に引っ込んでいったから、私は改めてテーブルにティーセットを広げ、みんなにお茶を注いだ。



 するとお茶の香りに誘われてなのか、みんなが顔を上げてそれぞれ手に取った。



「ほらほら、せっかくこうやってみんなの頑張りの結晶を美味しくしてきたんだからさ、悪いことは忘れて甘いものを食べて幸せになっちゃおう」



「……そう、ね。あたしたちは生き残った。それで十分だわ。ところでヨリ、さっきから気になっていたんだけれど、その後ろの子は?」



「――」



 レンゲちゃんが私の後ろに控えている私と同じような身長の少女に目を向けると、同じようにコークくんたちも彼女を見た。



 みんなの視線の先には綺麗な銀色の髪を、ウサギの髪留めでハーフツインテールにしている女の子、その子はメイド服を着ており、丁寧な所作で頭を下げた。



「え~っと」



「ヨリお姉ちゃんの妹です」



「はぁ~~妹かわぁぁぁっ!」



「いや紹介しろし。あなたが暴走したら誰もその子についてわからないままなのよ」



 私が彼女に頬ずりをしていると、レンゲちゃんに首根っこ掴まれて体を離された。

 いやでも可愛すぎるでしょう。こんなのに耐えられる者はいない。いたとしたら私が殺す。



「え~っと……妹のツキコちゃんです」



「妹のツキコちゃんです!」



 ビシッと手を上げて胸を張る姿は最早感動しか覚えず、私は静かに拍手していた。



「あなたが妹大好きなのはよくわかったわ。でもこんなところに連れてきても危ないだけじゃない?」



「というかお前の妹ならまだギフト持っていないだろ」



 そういえばそうだ、私15歳だった。

 さてどうした物かと考えていると、彼女が丁度メイド服を着ていることもあり、私は憂いた表情をコークくんに向ける。



「コークくん、ツキコは見ての通り給仕でね……察してよ」



「ん……あ~、うん」



「生まれた時からずっと一緒だったので、僕にとってはお姉ちゃんなんですよ」



「そっか。しかしヨリ、お前給仕がいるほど大きい家の出なのか?」



「……コークくん、それも察してよ。そんな給仕のいる家の人がこうして1人冒険者をやっていたんだよ。ツキコには安全なところで待っていてほしかったんだけれど、こうして付いてきちゃったみたいなんだよ」



「こんなかわいい子、1人にしておく方が心配でしょ」



「そうなんです! お姉ちゃんは僕に何も言わずにすぐにどっか行っちゃうんですよ!」



「ヨリ、あなたね」



「いやそのあの、違くて」



「まああたしにも弟がいるから、どこか安全なところにいてほしいって気持ちはわからなくもないけれど、結局は一緒にいた方が安全なのよね」



 レンゲちゃんがツキコの頬を優しい手つきで撫でた。

 サジくんからあれだけ慕われている辺り、本当に良いお姉ちゃんなんだよな。



「あら?」



 するとツキコがレンゲちゃんから撫でられている手を掴み、彼女の手に切り傷があることに気が付き、その傷をジッと見つめた。



「ああこれ? 昨日散々元上司に斬りつけられてね、まだ塞がっていなかったか」



「……」



 ツキコがレンゲちゃんお手を握ったまま目をつむり、その小さな口を開いた。



「『月こそ我の現身で(プリンシパルディアナ)』」



 レンゲちゃんの傷が月を彷彿とさせる優しい光が覆い、次の瞬間には傷が完全に塞がっていた。

 そしてツキコはそのまま彼女の傷があった箇所に頬を擦り付け、上目遣いでレンゲちゃんを見ている。



「せっかくの綺麗な肌なのですから、大事にしないと駄目ですよ」



「……傷が」



 驚いたような顔をしたレンゲちゃんだったけれど、すぐにツキコを抱き上げた。



「採用!」



「早いなおい」



「バカっ、うちには回復手段が一切ないでしょうが」



「まあそうなんだけれどさ。いやでも良いのかヨリ、妹さん戦いの場に出すことになるぞ」



 私がツキコに目をやると、彼女が頷いたから肩を竦ませる。



「ツキコが良いって言っているからお姉ちゃんとして頷いておくよ。まあ危ない目に遭わせないように私が何とかするし、迷惑じゃなければ一緒でも良いかな?」



「……わかった。よろしくなツキコ、俺はコークだ」



「よろしくな小っちゃいお嬢ちゃん。俺はバッシュ、困ったことがあれば何でも言ってくれな」



「えっと、サジです。お姉ちゃ――レンゲお姉ちゃんの弟です。よろしくね」



「しっかしこっちもこっちで見たこともないギフトだな」



「しかも回復量凄い。聖女とか神官も超えているんじゃない?」



「ヤバいなそれ、なんてギフトだ?」



 そう、ギフトだ。

 ツキコはギフトを使う(・・・・・・)



「『月詠みかしこみ夜之歌パトリオットセレナーデ』これが僕の持つギフトです」



 誇らしげにギフトを語る月そのものであり、月の申し子を語るツキコ。

 今まで関われなかった後悔を払拭するように、彼女は顔を上げてその力を存分に振るうのだと話すのだった。

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