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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
40章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、残り火の影を見る。
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魔王ちゃんと経過報告

「ん、やっぱあんたが作ったものが一番おいしいわ」



「あらありがとう。ここで出る食事も僕は質素で好きだけれどね」



「ん、案外甘くねぇのな」



「甘すぎるのイヤでしょ? だから抑えたの。テッカは甘いの大丈夫だもんね」



「ああ、このくらいでも全然いける」



 あの後、僕はすぐにキサラギの家の人に台所を貸してもらいたくさんのお菓子を作った。

 もちろん取ってきた金糖果を使ったスイーツも、ガイルやテッカのお父さん用に甘くないお菓子も用意したし、屋敷から微かに甘い香りが漂っていた。



 僕にくっ付いたまま、もそもそとパウンドケーキを小さなお口でハムハムしているルナちゃんを撫で、改めてガイルたちに目をやる。



「それで、そっちは何か進展あった?」



「残念ながら何もねぇ。ちょくちょくシラヌイが現れるが、あいつら何をするでもなく俺たちを監視してやがるんだ」



「カナデの姿はどこにもなかったな」



「……そっか。あの子もあの子で気になることが幾つかあるんだよね」



「例えば?」



「プリマがいない」



 僕の疑問に、全員が今気が付いたのか深刻そうな顔を浮かべた。

 あれだけいつも一緒だったのに、この前姿を見た時にあの狐の精霊の姿がなかった。

 人質に取られてしまったのか、それともほかに理由があるのか、少なくともカナデがあれだけ大事にしていたプリマを手放すとは到底思えない。



「チビ、チビかぁ……」



「あんたあの子に関して何か隠しているでしょ? 精霊なのに随分と女神のあんたを慕っているし、そもそもあたしが知っている精霊とプリマってなんか違うのよね」



「いやぁ、そのぉ……色々あんだよ」



「……その色々、わたくし知らないですけれど。最高神なのに」



「その拗ね顔を俺にまで向けるの止めなさいよ。おいリョカ、ルナがクソ面倒になっているじゃないの!」



「可愛いじゃないですか」



 ルナちゃんのほっぺをむにむにとこねながら軽く抱きしめていると、アヤメちゃんが深い溜息を吐いた。

 まあアヤメちゃんが話さないってことはおよそこの事件には何ら関わりがないことなのだろう。



「ところでおめぇはなにを探っていたんだよ」



「いろいろだよ。まずはシラヌイの実態を知りたかったからね、とりあえず見通しの良い場所(・・・・・・・・)を片っ端に調べている」



「それで冒険者ギルドか。まさかレンゲとサジと一緒にいるとはな」



「テッカ、あの2人に何したのさ? 嫌われ方が半端じゃないよ」



「……」



「あまりテッカを責めないであげなさい。テッカとガンジュウロウが思っているより、根が深かったってだけの話なのよ」



「別に僕はキサラギじゃないからそれに関して責めるようなことはしないよ。ただ、両方のことを知っているから、出来れば決着は付けなよ」



「ああ、心得た。それでリョカ、ギルドに入ってなにかわかったか?」



「う~ん、わかったというか腑に落ちないというか。シラヌイは本当にどこにでもいる、いるんだけれど、国を乗っ取ろうだとか、大金を稼ぎたいだとか、そういう目的が一切見えない」



「……目的、か。確かにあいつらは何故殺しをやっているのか、理由なんて考えたこともなかったな」



 テッカが顔を伏せる。

 シラヌイと同じく元々殺しの家であったキサラギ、彼らにはその理由があったのだろうか。



「……リョカ、殺しは殺しだ」



「殺しが殺しであるのなら、そこに関わる全ても別物だと思うけれどね。そこは割り切っている癖に、それにくっ付いている物を気にし過ぎじゃない?」



「お前は淡泊だな。殺しを割り切るのは壊れないため(・・・・・・)だ。だがそれ以外を割り切ってしまえば俺は人ではいられない」



「そういうもんかね。僕は魔王だし、その辺りはちょっと薄いかな」



 僕は薬巻に火を点すと煙を宙で遊ばせて、フッと息を吐いて煙を空へと離してやった。

 まあどうあれ、シラヌイは社会に紛れている癖に、目的の一欠けらも見せずに潜り込んでいる。



 それが不気味といえばその通りなのだけれど、もう1つだけ、僕には不可解なことがあった。



「ほかのシラヌイは本当に生きているだけって感じで紛れ込んでいるんだけれど、1人だけ随分と周囲に溶け込んでいる人がいるんだよねぇ」



「シラヌイがか?」



「そっ、まだ判断は出来ないんだけれど、僕たちがこっちに来て襲ってきた奴らとは随分と在り方が違う」



「まるで昔カナデを連れて行った女のようだな」



「ああ、そういえばテッカが見逃したんだったよね。そっちの線も洗ってみるか」



 と、僕とテッカで考え込んでいると、ガイルが手を叩いて僕たちの視線を集めた。



「まあ結局、何もわかってねぇってことだな。うんでこれからどうするよ」



「とりあえず僕は変わらずにギルドで探りを入れるかな。ミーシャはどうしたい?」



「ん――殴りたい」



「そっかぁ」



 どうするかなと考えていると、ふと僕は誰かが足りないことに気が付き、辺りを見渡す。



「そういえばジンギくんとヴィヴィラ様は?」



「あああいつらなら、2人でバイクに跨ってベルギルマ観光旅行に行ったぜ」



「バカヤロウ」



 アヤメちゃんの言葉に僕が呆れていると、テッカが首を横に振った。



「いや、一応運命神様が行きたくなさそうな箇所に足を運ぶそうだ。もしかしたらカナデが見つかるかもしれないと単独行動を買って出てくれた」



「また無茶なことを。ヴィヴィラ様のご機嫌取りを忘れなきゃいいけれど」



「いや、ヴィヴィラはすでにジンギとお出かけ出来てテンションマックス状態を維持しているから心配ないわよ」



「ホンットチョロイなぁ」



 そうして僕は立ち上がるのだけれど、腰に引っ付いているルナちゃんに目をやる。



「え~っと、そろそろギルドに戻りたいのですが」



「……」



「連れて行ってやりなさいよ。ここにいてもずっと拗ねるだけだし、お前と一緒に居たい女神の気持ちを汲んでやりなさい」



 ゆらゆらと揺れる瞳で見上げてくるルナちゃんに、僕は肩を竦ませる。



「一緒に行きますか?」



「――」



 パッと顔を明るくさせたルナちゃんがコクコクと頷いて、そのまま引っ付いてきた。

 相当寂しがらせていたみたいだ。これはちゃんとお姉ちゃんしないとな。



「それじゃあテッカ、みんなはシラヌイを引き付けておいてよ」



「それは構わんが、どうしてだ?」



「僕が動きやすくなるためと、戦力を減らすこと、それとたくさん暴れたらもしかしたらカナデじゃない方の本命が現れるかもでしょう?」



「……灰塵の魔王か。確かに奴に会うことが出来たのなら、色々とわかるかもしれないな」



「とはいえ相手は魔王だ。油断することはないかもだけれど、気を付けてよ。特にミーシャ、ガイル」



「おいおい、俺たちをなんだと思ってんだよ」



「そうよ。とりあえず顔面粉々にしておくわ」



「俺を差し置いて炎を名乗るとは気に入られねぇな。出会ったら速攻でぶち込んでやる」



「……テッカ、よろしくね」



「ああ、慣れているよ」



 僕とテッカは揃ってため息をつき、それぞれの役割に戻っていくのだった。

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