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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
39章 ?おうちゃんと聖女ちゃん、金色を追って邂逅する。

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?おうちゃんとそれぞれの戦い

「『ツキにお任せ運試しラビットラックエンゲージ』」



「『聖剣顕現・ファイナリティヴォルカント』」



 ガイル=グレッグの出す炎がさらに大きくなり、その炎を携えて彼が飛び込んできたのだけれど、私のスキルによって何度もぬかるみに足をとられて体勢が崩れるが、力づくで体を引っ張り上げてはその拳を放ってきた。



「大人げないって言われない!」



「てめえが売った喧嘩だ! 最後まで責任を持てよ!」



 それはその通りではあるけれど、それはそっちの勝手であって私たちの都合ではない。最後まで喧嘩に付き合う義理もなければ、彼の勝敗基準に沿う理由もない。



 ガイル=グレッグの手甲を大鎌で弾くと、大きく後退して逃げる機会をうかがっているレンゲちゃんに目を向ける。



「それであなたはあれらに勝てるの?」



「こっちの勝利条件を維持したままだったらその可能性はあるね」



「……それ、随分か細いんじゃないか? 相手はあの大英雄(・・・)のガイル=グレッグだぞ」



「ならバッシュはその金糖果を無条件で渡せって言いたいのか?」



「それは嫌だよぅ」



「いやだがな……というかもう1人は誰だ? 俺的にはあっちの方が」



 全員が脚を動かしながらその視線をもう片方の女の子にやった。

 私はため息をつくと、ぼそりと口を開く。



「ミーシャ=グリムガント、ケダモノの聖女って言えばこっちでは通じるんじゃない?」



「神獣様の聖女。確かその拳は大地を砕き、声は空を裂くって。さすがに冗談よね?」



「それは――」



「39連」



「まずっ!」



 私はミーシャ=グリムガントの位置を確認し、その射線上に入っているバッシュくんとサジくんの背中を飛び上がって蹴り飛ばした。



「うぉ! ヨリのお嬢ちゃんなにす――」



「竜砲!」



 がおおっと吐き出された竜の息吹(・・・・)は私たちの背後から体をかすめてそのまま伸びていき、天涯へと奔って雲を晴らした。



「な、な――」



「龍の加護、気を付けてね、あれは君たちじゃ受けきれない」



「ムリムリムリ! なんだあれ、あんなもん喰らったら消し炭になるだろ!」



「大分手加減してくれているみたいだよ」



「嘘だろ」



 今にも泣きだしそうな顔でバッシュくんが大地を踏む力を強めて速度を上げた。

 そんなバッシュくんが少し前に出たからか、私の隣にコークくんが並び、心配げな顔を浮かべた。



「勝算はあるんだろうな?」



「さあどうだろうね? みんなの動きにもよるかな。それとも諦める?」



「……馬鹿言うな、ガキみたいな我が儘を貫くって言っただろ」



「それは何より――」



 私は途端に振り返り、歩んで追いかけてくるガイル=グレッグとミーシャ=グリムガントと対峙する。



「ヨリ」



「レンゲちゃんとコークくんは先行して退路の確保、バッシュくんとサジくんは助力してあげて」



 サジくんの心配げな視線を受けながら、みんながそのまま駆けていくのを背中に感じながら私は大鎌を肩にかけて勝気に嗤ってやる。



「……わっかんねぇな。お前が一番不気味だ」



「あら失礼しちゃいますね。こんな幼子あなたの炎なら一瞬でしょ」



「二度だ」



「う~んぅ?」



「お前に炎を放って二度躱された。しかも何が起きたのか未だに把握できねぇ」



 ミーシャ=グリムガントが後からついてきたちっちゃ可愛い2人に目をやった。



「あれ、ヴィヴィラのギフトか?」



「だと思われます、ですがあの子に信者はいません。ギフトだってこんな感じのものではなかったはずです」



「何であんたたちも把握していないのよ」



「……ミーシャ、お前たちしかいないから言っておくが、あいつ変なんだよ。俺たちの視線は通らないし、探ってみても1週間ほど前に生まれた(・・・・)としか思えないくらいには何も情報がない。いや、正確にはそれ以前にも生の軌跡があるんだが、俺たちじゃ観覧できないんだよ」



「まるで意図的に隠しているようにわたくしたちでは何もわからないようになっています」



 そう言うようにできているからね。ぶっつけ本番だったけれど、この成果は上々。

 私がそうして満足していると、ガイル=グレッグが前に出てきた。



 本当にこの脳筋勇者は――。



「さっさと続きしようぜ。あんだけ啖呵切ったんだ、情けない戦いはするなよ」



「それはおたくの都合だ、私はあの子たちを逃がしさえすればそれで良い。全力で戦いたかったのなら、さっさとあの子たちを引き留めるべきだったね」



「ああ、そうだな」



 随分と余裕面を浮かべている。

 この勇者がまっすぐ進む以外にも――。

 私はすぐにハッとなって振り返るのだけれど、それより先に体が動く。



「――っ!」



 鎌を大きく振り、その斬撃(・・)を弾く。

 そう言えばずっと姿がなかった。

 金色炎の勇者の隣にその人あり。忘れていたわけじゃなかったけれど、このタイミングで出てくるかと、舌打ちを1つ。



「ほお弾くか。随分と力に自信があるようだが、さすがにこの数と質の俺たちを相手にするのは些か無謀ではないか?」



「いやいや、戦って倒すわけじゃないからね。このくらいの差がある方がやる気が出るって物さね」



 テッカ=キサラギ。風斬りと呼ばれる勇者の剣で、その速度を捉えきれるものはほとんどいない。



 厄介だなとどう動こうかと思案していると、先ほどコークくんたちが走っていった方角がどうにも騒がしい。



「お姉ちゃん待って! 気持ちはわかるけれど今は――」



「退きなさいサジ、あの男、よくもあたしの前にその面を晒せたわね」



 そうだった。レンゲちゃんとサジくんはどうにもキサラギと因縁がある模様。みんなが戻ってきてしまっていた。

 サジくんの言った通り、今それを爆発させちゃうか。相当恨んでいるなアレ。

 どうしたものかと頭を悩ましていると、ガイル=グレッグが脚をつけている地面から炎が上がり、その勢いのまま、彼が再度殴りかかってきた。



 もう面倒だな。まだ時間じゃない(・・・・・・)けど、少しだけ使っておくか。



「『()()()()()()()()()()()()』」



 溶ける。解ける。融ける――全てを闇に委ねてまるで世界そのものが()に飲み込まれるように。

 ガイル=グレッグが放った拳を躱すでもなく、まるで解けて通過させる。



「感触が――がっ!」



 攻撃を放ってきたガイル=グレッグの首筋から突如上がる血しぶき。

 彼は忌々し気に私から一瞬後退するのだけれど、それを見逃すほど私はお人よしではない。



 運命を決定付ける硬貨をガイル=グレッグに打ち出そうとするのだけれど、それは前髪をふわりと上げる風によって阻止される。



「如月流疾風一式・風祭」



 闇に沿うように流れ込んでくる一陣の風――私の両側面に投げられた短刀から風が吹いた。

 しかしその風を切り裂くように、風を断つように新たな嵐が起きる。



「裏如月――『風断・大太朗坊(だいだらぼう)』」



 私の両サイドの短刀を弾きながら、レンゲちゃんがテッカ=キサラギへと切りかかる。



「お前、レンゲか――」



「テッカ=キサラギ! あなたはブッ飛ばす!」



 出てきてしまったレンゲちゃんだったが、今は丁度良いかもしれない。

 私は驚き油断したテッカ=キサラギを蹴り飛ばし、この戦線から離れてもらうことを決めた。



 そしてすかさずコークくんに向かって叫ぶ。



「コークくん! レンゲちゃんを助けてあげて!」



「ったく、わかった! お前も無理するなよ!」



 レンゲちゃんの背をコークくんがおっていったから、私はバッシュくんとサジくんに視線をやる。



 今は時ではない。君たちは機会を窺え。そんな意味を込めて彼らに目をやると2人が頷いてくれ、そしてそっと戦線から離脱した。



「面白くなってきたじゃねぇか」



「私は最悪だよ」



 そんな愚痴をこぼしながら、私はやっと目の前の2人に集中してことに臨むことが出来るのであった。

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