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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
39章 ?おうちゃんと聖女ちゃん、金色を追って邂逅する。

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?おうちゃんと出会っちまった災厄

「お疲れ様」



「や、やっと捕まえた」



「……ほんっと小さい魔物は嫌いだわ、全然狙いが定まらないんだもの」



 飛び出したルップクリン追いかけて縦横無尽の東奔西走、あっちこっちに振り回されていたコークくんたちを眺めているのも中々に趣があったけれど、あまり遅くなっても仕方がなく、おやつの時間も過ぎて空が茜色に傾いてきた辺りで、私は指を鳴らして金色を運ぶ魔物に運試し。



 その結果、ルップクリンが顔面から大地に突っ込んだところをみんなで飛び掛かり、やっとの想いで捕獲していた。



 しかしあの魔物、絶妙に気持ち悪いなぁ。

 金糖果を奪い取ったところ、昭和のヤンキーマンガのような滝のように涙を流しながら「ヴァァァ」と叫んでいるし、声も何だかおっさんっぽい。

 まあそんな感じだからか、凄く憐れだ。



「うおぉ、初めて手に入れたな」



「だな。何か売るのがもったいなくなってきたな」



「みんなが食べたいのなら調理するよ。これでも料理には自信があるんだ」



「そう言われると頼みたくなるわね。でも報酬も魅力的よね」



「……甘いもの、食べたいなぁ」



 初めての大きな収穫、たくさん悩んでたくさん考えて結論を出してほしい。

 きっとこのただの果物が本当に重大な宝物になるようなそんな予感がしている。



「う~む……うしっ、食っちまおう!」



「決まった?」



「ああ、やっぱせっかくの機会だからみんなで味わいたい」



「そっか。う~んと中身は――たくさん詰め込んでいるね、相当に欲深いルップクリンだったんだね。これならタルトにしてもいいし、フルーツのケーキでも良いな。プリンアラモードも出来るし……」



「お、おう、全く知らない名前が出てきたな。まあ任せるよ」



 みんながそれぞれに楽しそうに笑っており、私も嬉しくなってしまう。

 あとは帰るだけだとみんなに声をかけると、金糖果をバッシュくんが持って私たちはその場を後にしようとする。



「――」



 のだけれど、私は足を止めた。



「――? ヨリ?」



「お~い、もうすぐ日が暮れるぞ。早く帰ろうぜ」



 私は背後に意識をやる。

 脚が動かない。いやそうじゃない。この場から早く離脱するべきなのだ。

 でも無理だ。



 ここにいるのは私だけじゃない。

 レンゲちゃんもコークくんもバッシュくんもサジくんもいる。



「ヨリお嬢ちゃん、どうかしたのか?」



「……妖精さんが騒いでる?」



 なぜもっと早く気が付けなかったのか。

 いやそうじゃない。気が付けなかったんじゃなくて、気が付いていたのに普段通り(・・・・)だと勘違いしていた。

 あまりにもいつも近くにいたから()それ(・・)に脅威を抱くはずなんてないのだ。



 丁度帰り道に着いた背後の茂みが揺れる。



「――っ!」



 その瞬間、いの一番に反応したのはレンゲちゃんだった。

 両腕で体を抱き、その体を震わせて額から脂汗を流している。



「おい、レンゲ――」



 コークくんが心配気にレンゲちゃんの体に触れた瞬間、その茂みからあまりにも似つかわしくない。否、知っている(・・・・・)のなら違和感を覚えないそれが顔を出した。



「ったく、まったく見つからないわ――う~ん?」



「――」



「――」



「――」



 レンゲちゃん以外の残りの3人も、その茂みから出てきたハーフパンツに無地のTシャツ、ロングコートを羽織り、ブーツを履いた黒髪ポニーテールの女の子に意識を向けただけで体中から汗を流し始めた。

 その女の子はどこか神聖な気配を持ちながらも、とんでもない戦闘圧を纏い、対峙しただけでも命を刈り取られてしまうと錯覚するほどに圧倒的な気配を纏っており、レンゲちゃんもコークくんもバッシュくんもサジくんも動きを止めた。




「おいミーシャ(・・・・)、先行くなって――お? 先客がいるわね」



「山の中は湿気が――あら?」



 やばいやばいやばい。

 何がヤバいって、今の私は気取られない(・・・・・・)



「おいミーシャ、この辺りは敵も弱いし、もっと先に――おっと、ひよっこか?」



 金色の炎を吹かせながら、サジくんほど大きな男まで現れた。

 その男が私たちを興味なさそうに見ていたのだけれど、バッシュくんの持った金糖果を見て感心したような声を漏らした。



「ほ~、ひよっこが随分やるじゃねえか。金糖果を持ち帰るのならC、もしくはBランクは欲しいところだが、見た感じそのランクには達していないな。相当運がいいとみる」



「だな。というか、2人知っている顔がいるわね。片方はそれなりに強い子だけれど、ルップクリン相手に技を繰り出せるほど器用でもなかった気がするんだけれど」



「え~っと……ああ、なるほどキサラギの――ってあら? 1人だけ妙な方がいらっしゃいますね」



 ありえんくらい可愛い金髪少女×2が私たちを計るような視線を向けてきていた。今すぐ抱き締めに行きたいところだけれど、今はそれどころでもなく、どうやってこの状況を乗り切ろうか脳をフル稼働する。



 そうやって思考していると、ふと火を噴いている大柄な男が何か考え込んでおり、そして口を開いた。



「あ~……悪いんだけどよお前ら、その金糖果、俺たちに売ってくれないか?」



「――」



 突然の提案、彼の言葉にバッシュくんが抱えている金糖果に目を落とした。



「俺たちも探しているんだがよ、生憎探索系は苦手で苦労しているんだ。だから売値の3倍は出す、悪い話じゃねえだろ?」



 体を震わせていたみんなが顔を見合わせ、口から言葉を発せずにいた。



 けれど私は……ムカついていた。



 コークくんが諦めたように頷き、バッシュくんから金糖果を受け取ろうとしたから、私は大鎌を振り下ろし、コークくんと目の前の大男と明確な()を作り出した。



「ヨリ?」



「おいおい金色炎(・・・)、随分とみみっちいことしているじゃないか。最良の勇者が聞いて呆れるな」



「……これでも最良の提案をしたつもりだぜ? ひよっこからしたら十分すぎる報酬になる。何が気に入らねえんだよ」



「ハッ、本気で言っているのか? ひよっこがひよっこながらやっとの想いで手に入れた宝物を、俺たちじゃ見つけられないから売ってくれだ? 随分と舐め腐ったことしているって自覚がないのか――冒険者舐めんな!」



「……」



「ちょ、ちょっとヨリお嬢ちゃん、あんた今金色炎って、まさか――」



「ガイル=グレッグ……」



 驚く面々をよそに、私は彼を睨みつけるのを止めない。

 それどころか、彼に向かって指を上下にかかって来いと挑発するように振る。



「そんなに欲しいのなら奪ってみろよ金色炎、最近名前を聞かなくなったのは腑抜けちまったからか? お前の時代じゃないってことを理解させてやる」



「――」



 大柄の男、金色炎の勇者・ガイル=グレッグが呆れたように頭を掻き、鋭い殺気をこちらに向けてきた。

 おまえなんて相手にならないがいいのか。そんなことを言っているようなあまりにも舐め切った圧だ。相変わらずというか、本当にこいつらは――。



「そうかよ、それなら――」



 ガイル=グレッグの姿が消えた。

 そして瞬時に私に間合いを詰め、その炎が吹いている手甲を振り被った。



「ヨリ――っ!」



 ガイル=グレッグの炎が私へと届く刹那、その手甲に大鎌の柄を当てた。



「――?」



 私へと放たれるはずだった炎が出ず、彼が驚いた顔で自分の拳に目をやっていた。



「それがお前の運の底(・・・)だ」



「なに――」



 その炎は私ではなく、ガイル=グレッグ自身を燃やし、彼は飛び退いて体に纏わりついた炎を振り払って消した。



「何だ今の?」



「……ルナ、今のは」



「わかりません。見たこともないスキル、というかスキルですか今の? そもそも彼女にはわたくしたちの目が」



「あいつなんだ?」



 驚いている相手側に意識をやりつつ、私はコークくんたちに目をやる。



「それを持って帰れたら私たちの勝ちだ」



「――っ、ああ、そうだな」



「……おいおい冗談だろう」



「諦めなさいバッシュ、ヨリがとんでもなくやる気になってる。それに確かにあまりにも理不尽でしょ」



「う、うん、みんなで頑張ったんだもん。もうひと踏ん張りだよ」



 コークくんもレンゲちゃんもバッシュくんもサジくんもやっと落ち着いてきたのか、冷静に考えるだけの状態に戻れたようだ。



「……ガイル、やるの?」



「舐められっぱなしは性に合わねぇよ」



「そうね、あたしもちょっと気になるし手は出すわよ」



「勝手にしろ」



 ガイル=グレッグと連れの可愛い? 女の子が臨戦態勢に入ったから、私は大きく息を吸って口を開く。



「全員走れぇ!」



 こうして、私たちの金糖果をかけた最後の戦いが始まろうとしているのだった。

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