?おうちゃんと麓の金色
「うぉぉぉっ逃げろ逃げろ! 戦闘は出来るだけ避けていくぞ!」
「みんなごめ~ん」
「謝るより先に足を動かす! 妖精も結構気まぐれなんだから、誰も責めはしないわよ!」
麓に入った私たちは、それなりに警戒しながらルップクリンを探しつつ進んでいた。
しかし探索を任せていた妖精の一体が誤ってか故意なのかわからないが、魔物の巣をつついてしまったらしく、巣の中にいた拳大ほどのハムスターのような見た目をした魔物100ほどに追いかけられている。
「といってもどうするんだよ、ここであれらと戦うか?」
「無茶でしょ。フワップペントンは個では弱いけれど、あれだけの数がいたら脅威にしかならないわ」
「それに個で弱いと言っても、あいつらの牙というか前歯はそれなりの威力だ。ここは逃げ一択だ。バッシュ、走りながらスキルは使えるか?」
「無理無理、集中途切れちまう」
走り回るみんなの背を見て、私は小さく笑みを浮かべた。
そしてみんなが走るのに集中している隙をつき、小さく口を震わせる。
「――」
「ったく、いっそのこと全員で攻撃するか? レンゲ、お前はどれだけいける?」
「的が小さすぎるわよ。正直この手の相手、あたしは不得意」
「それなら時間を稼いでくれるだけで良い。俺がデカイのお見舞いするぜ」
「そ、それなら自分が何とかするよぅ。こうなったのも自分のせいだし、妖精さんをたくさん呼んで、みんなに戦ってもらう」
「じゃあそんな感じで――あら?」
レンゲちゃんが戦闘態勢に移行しようと背後に意識を向けるのだけれど、何かに気が付いたのか、走る速度をゆっくりとしていき、次第に歩みを止めていく。
「おいレンゲ――」
「って、こりゃあ」
みんなが立ち止るのをゆっくりと見届け、私も彼らの後ろで足を止める。
けれどレンゲちゃんもコークくんも、バッシュくんもサジくんも私を見ていたから、つい可愛らしく舌をベッと出し、顔の両隣りにピースサインを作って応える。
「……何したのかもわからなかったわね」
「え、ていうかなんかしたのか?」
「してなかったらあれだけいた魔物はどこに消えたんだよ」
「う~ヨリさんありがと~」
「どういたしまして。まあ流石にあの数はね、金糖果どころの話じゃなくなるもの」
そう言って私が指を鳴らした瞬間、虚空からフワップペントンの屍がぼとぼとと落ちてきた。
ちょっと可愛い魔物だったから多少心が痛むけれど、喧嘩を売った相手が悪かったと諦めてもらおう。
「ほんっと強いなお前。鍛えてって頼んだら鍛えてもらえるかな?」
「あたしも学ばせてもらいたいわよ」
「時間が合えばいくらでも付き合うよ。ほらほら、ルップクリンの捜索を続けよう」
レンゲちゃんとコークくんが匂いを頼りに、ルップクリンの仮倉庫を探している間に、バッシュくんとサジくんが妖精を使いながら魔物本体の痕跡を追っていた。
私はというと、やっぱりさっきの違和感が気になり、頻りに辺りを警戒しているけれど特になにも感じることはなく、気のせいだったかとやっと見切りをつけて辺りに意識を奔らせる。
そうしていると甘い香りと獣のような匂い、小さな生物が歩む音――それらすべての気配がどこからか覚え、私はそっとコークくんたちに目をやる。
やはり気がついてはいない。
レンゲちゃん辺り気が付きそうなものだけれど、あの子は本当に対人に特化している。
小さな魔物に対して察知が追いついていない。
伝えてもいいのだけれど、あまり私が関わってしまうのも成長を阻害しているようでよろしくない。とはいえ手ぶらで帰らせるのもな。
そうやって私が思案していると、サジくんが使役している妖精たちが私の傍で顔を覗き込んでいた。
「あらどうしたの妖精さん、もしかして飽きちゃった?」
けれど妖精さんは私の声に答えるわけでもなく、頻りに私の鞄の傍を飛び回り、ある妖精さんは指をさしていた。
「う~ん? ああ、もしかして」
私が妖精さんたちの行動の意味に思い当っていると、サジくんが近づいてきた。
「こらぁ、みんなどうしてそっちに行くのさ。ヨリさんごめんねぇ」
「ううん、多分これのせいで集中できないんじゃないかなって」
私は鞄からはちみつが入った瓶を取り出した。
はちみつと呼んでいるけれど、正式にははちみつではなく、蜂と似たような生態の魔物・シルヴルッドと呼ばれる魔物が集めた、商品名・シルヴシロップ。ジブリッド商会で絶賛発売中。な蜜を妖精さんたちに差し出した。
「これは――」
「ジブリッド商会で販売しているシルヴシロップだよ。花の蜜を集める魔物がいてね、そこから蜜だけ取り出して商品にしたものなんだ。とっても甘くて美味しいんだよ」
今日のおやつのために用意していたものだったのだけれど、きっと妖精さんは香りに誘われてしまったのだろう。
「あ~妖精さんは花の蜜大好きだから。でもジブリッドってすごいんだね、花の蜜を集めて売り物にするなんて……それ、近くで買えるかな? 妖精さんたちのご褒美に持っておきたいよぅ」
「私結構持っているから幾つか譲ろうか?」
「ほんとっ、助かるよぅ――うん?」
喜ぶサジくんだったけれど、ご褒美に渡すというワードに反応したのか、妖精さんが瞳を輝かせて突然飛び出していった。
「ちょ、ちょっとみんな!」
そして妖精さんが飛び出していった先、そこにはルップクリンが慎重に隠れている箇所であり、私は苦笑いを浮かべる。
複数の妖精さんたちがある箇所に突撃すると同時に、茂みに潜んでいたルップクリンが飛び上がった。
「み、見つけたぁ!」
ルップクリンは大事そうに金色の糸にくるまれた果物を持っており、私たちの姿を見つけると顔を青くして、威嚇のつもりなのか歯を剥き出しにした。
時代が時代ならキモ可愛いと言われていたのかもしれないが、生憎私はなにマンガ日和を履修していたから、ルップクリンくん歯茎キモっ。くらいにしか思えず、特に追いもせずに、サジくんの号令で集まって捕まえに行ったコークくんたちを横目に、木の幹に腰を下ろして薬巻に火を点すのだった。