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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
38章 ???ちゃんと聖女ちゃん、その国に馴染んでいく。
479/550

??うちゃんと運命を嗤う

「大量のアンバイルキッドとウルドレイクを討伐した! あなたたち今Dランクでしょ!」



「い、いや、俺たちに言われても」



「そうだぜマクルールの姉さん、俺らだって必死こいてやってたんだからよ」



「お姉ちゃんとヨリさんがほとんど倒したようなものですし」




 あの激闘の後、私たちはギルドに戻ってきて、コークくんたちの怪我を治療しがてらマクルールさんに報告をしているのだけれど、その報告を受けて彼女が吠えた。



「あのね、どんな状態でもまずは報告に帰って来てくれない? そうじゃないと適切な指示も出せないでしょう」



「あ~それは……」



「倒したんだから問題ないでしょう。そもそも背中なんて見せたらこっちがやられていたわ、あの林道の魔物、ほとんど操られていたわよ」



 レンゲさんの報告に、マクルールさんと隣で聞いていたギンさんが驚いたような顔をした。

 まあこれに関しては覚えがある。

 本来のウルドレイクはあれほどの強制力を持つ魔物ではない。でも1つだけ、それを可能にする状況があり、私はそれを司るだろう女神様(・・・)を思い浮かべた。



「聞いた話なんだけれど、いま世界中で魔物が強化されているみたいなんだよね」



「そうなの?」



「レンゲさんは魔物がどうやって発生するか知っている?」



 首を振る彼女が周りの人たちにも反応を求めたけれど、誰も知らないみたいで揃って首を横に振った。



「魔物っていうのは、人が死んだ際に体に残ったギフトが大地に解けて、それを大地の女神様が管理して魔物に変えるらしいの。そんで、今大地に溜まったギフトが多いみたいで、ギフトを使う……というより、スキルをもって生まれる強力な魔物を放出しているって、魔物を司る大地神様と縁のある聖女様に聞いたよ」



「じゃあ、最近魔物が強くなったのって」



「その影響だろうね。そんで厄介なのが魔王種っていう魔王の力を持った魔物がいるんだけれど、多分あのウルドレイクは魔王の絶気、それと傀来を使っているんだろうね。Bランクパーティーじゃムリムリムリ」



「は?」



「え?」



「……ふぇぇ」



「ヨリお嬢さん、あんたそれ知ってて俺らに戦わせたん?」



「うん」



 途端にレンゲさんとコークくん、バッシュくんが私の周りに集まってきて、それぞれが私の髪をめちゃくちゃにするように頭を荒々しく撫でてきた。



「バカヤロウお前ふざけんな!」



「どうりで攻撃が弾かれるわけよ! 知っているウルドレイクよりずっと硬かったもの!」



「ふぇぇぇぇっ!」



「……俺らよく生き残れたな」



 青い顔をして呆れているマクルールさんと、思案顔を浮かべているギンさん、そのギンさんがおずおずと手を上げた。



「よく、倒せましたね。一体どうやって――」



「あたしもよくわからないわ。ヨリ、あんたあの障壁……絶気をどうやって剥がしたのよ」



「だから言ったじゃん。そこがあいつの運の底だって」



「運?」



 首を傾げるギンさんに私は硬貨を投げ、もう1枚をマクルールさんにも投げる。

 その硬貨を彼が掴んだ瞬間、バチッという音とともに、小さな稲光が奔り、ギンさんが硬貨を放り投げた。しかしマクルールさんに届いた硬貨からは花が咲いた。



「――? あら、ギンさんは運が悪いですね」



「……雷が発生しない者もいると?」



「はい。歩むも戻るも運任せ、コロコロ転がる賽の目ひっさげ、くりくりお目目のツキを抱く。運命神様より賜った世界を嗤う権能――それが私の持つギフト」



「運命神から……つまり第2ギフトですか。その年でそれだけの力を持っている――あなたは、何者ですか?」



「――」



 第2ギフトという言葉に、レンゲさんもコークくんたちも驚いていた。

 でも私は勝気な表情を崩さず、硬貨を頭上に向かって弾いた。



「ただの冒険者だよ。踵から鳴る福音は幸運と不運を交互に鳴らし、運命を茶化しながら笑って嗤いながらステップを踏む。自由を求め歩む冒険者の生きざまにひどく酷似しているでしょう?」



「……なるほど、人を見る目はあるつもりでしたが、あなたは計り切れていなかったというわけですか」



「だから早くランク上げてって言ったじゃん」



 私は落ちてきた硬貨をキャッチして、マクルールさんにニヤケ顔を向ける。しかし彼女は相変わらず私のランクを上げたくないのか、顔をしかめている。



「いや、これほどの実力者なら逆にこのランクだとマズい。マクルールの気持ちもわかるけれど、このランク帯で暴れ回られても後続が育たない。ギルドマスターには私から話しておこう」



「やったぜ」



「だがパーティーは組んだままでいてもらう、いきなり1人にするわけにもいかないからね。コーク、もし良かったら――」



「あ~あ~、言わなくても大丈夫ですよギンさん。珍しくレンゲが気に入った相手なんで、こっちからお願いしようと思っていたくらいです」



「別に――」



「お姉ちゃんヨリさんと話している時楽しそうだったよ」



「え、本当? ドキドキ夜の着せ替えショー開催していいの?」



「……この鬱陶しさがなければ頷いても良かったんだけれどね」



「ヨリのお嬢さんは独特な性格をしているよな。つかみどころがないというか、掴んだら引きずり込まれるというか」



 するとコークくんが手を叩いて視線を集め、とりあえず。という前置きをして、ギルドの飲食スペースを指差す。



「そんじゃあヨリ加入と依頼達成を祝して、今日は騒ごうぜ」



 こうして私たちは長い夜を過ごすことを約束し、宴へと身を投じるのだった。

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