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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
38章 ???ちゃんと聖女ちゃん、その国に馴染んでいく。
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聖女ちゃんとキサラギ最高戦力

「来たか」



「親父、実は――」



「ああいい。そろそろガイルとケダモノの巫女(・・)が堪えきれなくなるころだと予想していた」



「……あたしこの国の聖女になるつもりはないわよ」



 稽古場を後にして、あたしたちは屋敷の奥――テッカの父親で、先代キサラギ当主、ガンジュウロウ=キサラギのいる部屋で腰を下ろしたのだけれど、相変わらずこのリョカ曰くタタミ、テッカ曰く床、ガンジュウロウ曰く編み草と、名称がはっきりしないこれの座り心地にはなれない。

 硬くもなく、それほど柔らかいわけではないけれど、床に座るという文化がそもそもない。

 しかしリョカとアヤメはこれが気に入っているらしく、アヤメなんかはごろごろとしている。



 そしてそんな部屋で、ガンジュウロウがあぐらをかいたまま、膝に肘を置いて頬杖をつき、あたしに緩いが確かに感じる小さな戦闘圧を当て続けてくる。

 この男、あたしと対面するたびに喧嘩を売ってきている。



 でも――強い。佇まいの隙のなさはアルフォース以上で、たぶん実力も全盛期のアルフォースと並ぶほどなのだろう。

 どうにか顔面を殴りたい。



 しかもこの男、あたしがアヤメの信者だからか、事あるごとにベルギルマの聖女にしようとしてくる。



「それは残念だ。取り込むならジブリッドからか……障害が多すぎるな、リーンと事を構えるわけにもいかんからな」



「……親父、まだ2人は学生だ、そんなことを提案するものでもないだろう」



「お前がここを放ったらかしにしなければこんなことを提案なぞせんさ」



「ぐっ」



「やっと帰ってきて、いい加減孫の顔1つでも見せてくれるのかと思えば、辛気臭い息子の顔ばかり見せられた父親の気持ちがわかるか」



「い、今する話でもないだろう」



「ミーシャさんや、テッカをどう思うかね?」



「余計なこと考えて無駄な労力ばかり背負っている男ね」



「親としては良いところを聞きたいところだが」



「そうね……面倒見がいいわ。リョカがいない時は重宝するわ」



「そうか! ふむふむ、それは僥倖」



 一体なにに納得したのかとテッカと顔を見合わせて首を傾げていると、アヤメが手を引っ張ってきて、そのまま引っ付いてきた。



「おいガンジュウロウ、いくらお前でもこれはやらんぞ」



「いやいやしかし神獣様、ここはあなた様の国ですよ」



「むっ、そうだけれど、そうじゃないのよ。俺から奪うのは許さないわ」



「……どちらもまた、高い障害ですな」



 あからさまに肩を竦ませるガンジュウロウだけれど、こいつもまた色々とやりにくい。

 そんな彼に、ガイルが半笑いを浮かべた。



「いやぁ、無理矢理テッカを引っ張っていった手前、俺には何を言えねぇなぁ」



「ガイル、貴様はいつか殺す」



「はっはっは、やってみろクソジジイ、いつでも相手になってやるぜ」



 ガイルとガンジュウロウがあたし好みの殺気を放ち始めたから、あたしも混ざろうとすると、テッカが手を叩いた。



「それで親父、わかっているのなら――」



「ああそうだったな。1つ聞きたいことがあるのだがいいだろうか?」



 あたしたちは顔を見合わせた後、揃って頷くとガンジュウロウが苦笑いを浮かべた。



「リョカ=ジブリッド、彼女は一体何だ?」



「なにと言われても、リョカはリョカだが?」



「……彼女は探ってくると言って外に出ただろう? 何も聞かないんだ」



「というと?」



「シラヌイが彼女の存在を察知したという形跡もない。だからと言ってこちらでも彼女の姿は確認できていない。不可能だ」



 あたしとガイル、テッカは体ごと傾けて、何かおかしなことがあるだろうかとガンジュウロウに尋ねる。



「ああわかった、お前たち、彼女に慣れ過ぎているのだな、もっとかみ砕いた聞き方をしよう。リョカさんはこの世界に存在しないのではないかというほどに希薄だ。それほどどこにも彼女の痕跡がない。様々なスキルを使えると聞いてはいたが、ドッペルゲンガーやその他変身能力でも癖や匂い、歩き方から何までで人というものは露見される。しかしそれが一切ないのだよ」



「……」



 そんなことを言われても。と、アヤメとルナとも顔を合わせるけれど、リョカだしそんなことくらいできるだろう――と、考えて思い出す。



「ああ、そういえば」



「なんかあんのかよ?」



「ほらアヤメとルナは知っているでしょう、眩惑? だったかしら」



「あっ」



「……忘れてた」



 頭を抱えるアヤメとルナに、ガイルとテッカ、ガンジュウロウが訝しげな視線を向けてきた。



「戦いとは関係なかったんだけれど、リョカがアヤメとルナたち女神とライブをやった時、姿を変えたのよ」



 ルナがあの場にいなかった男3人にライブの記憶を見せたのだけれど、テッカとガンジュウロウが顔をひきつらせた。



「歩き方、呼吸の仕方が全く異なっているが?」



「今度は何をしたんだあいつ」



「姿が変わるだけか?」



「……ガイル、そうじゃない。完全な別人だ」



 ガイルが理解出来ていないような顔であたしを見るけれど、正直これに関してはあたしもよくわからない。多分アヤメが詳しい。



「そうかリョカにはこれがあったわね」



「探りを入れるのにこれほど適した力はありませんね」



「アヤメ様、説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」



「う~ん……多分理解出来ないわよ。簡単に言うと、世界にはそれぞれそいつの本当の姿が存在する。今この世界にいるミーシャ=グリムガントはこの姿。でも(ひと)たび世界を渡ればその姿はその世界に合った姿になる。リョカはそれを操れるのよ」



「それがなんの強みになるのよ」



「いや使い方は正直俺にもわからないけれど、少なくともキサラギもシラヌイも見つけられない……ああそうか、世界を渡るってことは、その世界で歩んだ軌跡があるわけで、魂はともかく、肉体は完全に別人ってことか」



「あの、それですと、リョカさん今ギフトも何も使えないのではないでしょうか?」



「確かに。少なくとも戻るための何かしらはセットしているだろうけれど、魔王のギフトが使えるとは思えない。あいつマジでどうやって行動しているんだ?」



 全員で頭を捻っていると、ガンジュウロウが盛大にため息をついた。



「いやはや、本当に恐ろしくも有能な魔王様だ。これがジブリッドでなければ様々な手を用いて勧誘したのだがね……つまり、彼女を見つけるには、リョカ=ジブリッドを捜してはならない(・・・・・・・・)ということですね」



「そういうことよ」



「……テッカ、確かにこれは屋敷の中に籠っていてはいけないな」



「まったくあいつは、いなくても存在感が大きいな」



「もう一回あいつとやり合わねぇとなぁ」



 するとガンジュウロウが控えていた数人のキサラギを呼び、何事かの指示を出してあたしたちに視線を戻した。



「それではこちらの準備が終わり次第声をかけよう。それまでもう少し待っていてくれ」



 そう言ってガンジュウロウの姿がぼやけて消えるのを見届けて、あたしたちもそれぞれに準備を始めるのだった。

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