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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
38章 ???ちゃんと聖女ちゃん、その国に馴染んでいく。
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聖女ちゃんとキサラギ本家

「暇ね」



「そうね。あまり外に出るなとは言われているけれど、こうも何もないと退屈に殺されそうになるわ」



「……リョカさん、どこに行ってしまったのでしょうか?」



 ベルギルマに辿り着いて1週間とちょっと、あたしたちはテッカの実家で足止めを喰らっていた。

 そして今はここにいない幼馴染は、ついてすぐ、状況を聞くや否やちょっと探ってくると飛び出して行ってしまい、その間一度も帰ってきていない。

 こうしてルナが心配するのもわかるけれど、なんといってもその対象があのリョカ=ジブリッドだ。



「あいつについては心配するだけ無駄よルナ」



「そうかもですけど……」



 唇を尖らせて顔を伏せているルナをあたしが撫でてやると、今いる場所――大広間、というより稽古場(・・・)といったか、そこにテッカがやってきて頭を抱えたのが見えた。



「おいミーシャ、何か言うことはないか?」



「――? 暇よ」



「本当にそれだけでいいのかお前。頼むからうちの門下(・・)たちを暇つぶしの玩具にしないでくれ」



 あたしは首を傾げて辺りを見渡す。そこには白目をむいてぶっ倒れている人々がおり、その人たちを見た後、改めてテッカを見る。



「暇つぶしにもならなかったわよ」



「そう言うことを言っているんじゃないんだ! お前はいつもいつもどうしてそう――」



 グチグチと始まるテッカの説教を聞き流していると、にゅっと大男がやってきた。

 この国のじんべい? だとかいう服を着たガイルが愉快そうに笑っている。



「テッカはミーシャがいると本当に生き生きするな」



「悩みの種が拳振り上げてやってきたら誰だってこうなる」



 ため息をついたテッカだったが、ルナで視線を止め、少し考え込む。



「月神様、よろしければ甘いものでも用意させましょうか?」



「……いえ、わたくしは大丈夫です」



 ずっと外を見ることを止めないルナに、テッカがため息をついた。



「あいつもあいつで、一体どこで何をやっているのやら」



「というかよ、女神なら場所わかるだろうに」



「それがわからないのです。どういう方法を使っているのかわかりませんが、今リョカさんの気配を女神は追えないでいます。使わないって言ったのに」



 頬を膨らませたルナをガイルが持ちあげて膝に座らせると、そのまま頭をポンポンと撫で、どこか大袈裟に笑った。



「多分どっかで楽しいことしてんだよな、ズルいよなリョカは」



「本当です。別に一緒でも構わないのに置いて行くんですもん」



 確かに、1人だけ抜け駆けのように出ていったリョカはズルいと思う。あたしだって別に閉じこもっていたくてここに閉じこもっているわけではない。

 あたしはここに詰められている元凶のテッカに目をやる。



「……もう少し待てないのかお前たちは。ここに来たばかりの時、何が起きたのか忘れたのか」



「覚えているわよ。でもだからってあたしたちが閉じこもっている理由にはならないわ」



「シラヌイの奴らどこから嗅ぎつけたのか、速攻で俺たちを囲みやがったものね。キサラギが門下総出でやってこなかったのなら、あのまま抗争勃発よ」



「あいつら、どういうわけか俺たちの動きを把握している。そうでなくともお前も俺たちも随分と有名になった。わざわざ敵に隙をくれてやるわけにもいかないだろう」



「別に全部倒してしまえばいいでしょう」



「……ミーシャ、頼むからこの街を危険にさらすようなことはしないでくれ。俺の故郷なんだ」



「ついこの間あたしの故郷も壊滅の危機にさらされたわよ」



「それも聞いたが! そうではなくて――」



「テッカ、あんた故郷を盾にして戦いから逃げるなんて腑抜けたこと言わないわよね?」



「そうじゃなくてだな」



「テッカもう諦めろよ、ミーシャを缶詰にしている時点で、もうこの街のどこかしらがぶっ壊れるのは確定してんだからよ、今さら守りに入っても意味ねえだろ」



「お前たちはそう言うがな、俺はもう少し様子を見たいんだ。言っただろ、カナデの様子がおかしいと」



「……」



 ベルギルマについて早々にシラヌイに囲まれたあたしたちだったけれど、その中にはカナデもおり、あたしもリョカも何度もあの子を呼んだ。しかしあの子は顔を逸らしただけで、テッカたちが現れたと同時に、シラヌイの連中と一緒に消えてしまった。

 確かに様子がおかしかった。テッカの言う通り、慎重になった方がいいというのも筋としては通っている。でも――。



「それでも、動かなければあの子の心もわからないわ」



「……それは」



「あんたはただ、カナデがシラヌイに戻ってしまったっていう事実から目を逸らしたいだけでしょ」



「――」



 あたしはテッカの額に指を弾く。



「相変わらず結論が後ろ向きなのよ。カナデはカナデ、シラヌイだろうが何だろうが、あの子はカナデよ」



「……お前は、お前はもし、カナデが人を殺す一族に戻りたいと言ったらどうするんだ」



「知ったこっちゃないわ。ぶん殴って学園に引っ張っていくわよ」



「……」



「俺たちはキサラギとシラヌイの因縁については知らないけどな、カナデのことはよく知ってるつもりだぞ。お前が慎重になるのもなんとなくわかるけどな。リョカとミーシャが、お前たちの因縁を気にして止まるわけねえだろ」



「そうだな」



 テッカがため息をつき、ガイルに頬をこねられているルナの頭を撫でた。



「親父に相談してみるか。ミーシャ、それから動きを決めても良いな?」



「まあいいわよ。あたしは早く外に出たいだけだし」



 こうして、あたしたちは動き出す算段をつけるのだった。

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