??うちゃんと運命を茶化す者
「……」
「ふう。78匹いたね」
「あんた本当に頭おかしい。ほんと何者?」
「ただの冒険者だよ。それよりも、そろそろコークくんたちが来てくれるかな? レンゲさんが念のためサジくんに付けてもらっていた妖精が役に立ったね」
「……そうね、あなたを警戒した物だったんだけれど、お役に立てたようで何よりだわ」
アンバイルキッドの屍を踏みつけて私たちは林の中に立っている。
思った以上にレンゲさんの如月流が猛威を振るっていた。しかも裏如月ね、本家のテッカやランガさんとはまた違ったものなのだろうか。
その辺りについてコークくんたちが来る前に少し聞いておくか。
「私が知っている如月流と少し違うね。それは完全に殺すための技だ」
「あなたがどの如月流について知っているのかは知らないけれど、キサラギにずっとあった技よ」
「じゃあレンゲさんもキサラギなんだ――」
そう尋ねた途端、彼女の戦闘圧がより鋭いものとなった。
これは……面倒な事情がありそうだ。
「あたし、キサラギって嫌いなの」
「そりゃあ悪かったね。まあ私が知っているキサラギも、技を嫌っていたけれどね」
「……ランガさん辺り?」
「うん、この間まで技を使っていなかったね」
「それじゃああなた、グエングリッターのギルドにいたわけか。どうりで強いわけよ、しかもランガさんを知っているってことは極星ギルドの出身ね」
「う~ん……まあそういうことで」
「……あなたについて考えるのが馬鹿らしくなってきた」
「最初から私は友好的に接しているつもりですよ」
「いいわ。実力は確かだし、なんか胡散臭い部分もあるけれど、悪意がないのは本当みたいだし、そっちが良ければこれからも頼りにさせてもらうわ」
「えっ、可愛い服着てくれるんですか!」
「会話しろ!」
怒られてしまった。と、肩を竦めると、やっとここまで辿り着いたのか、コークくんたちが警戒したように慎重な歩みでやってきたが、私たちの周りを見て顔をひきつらせた。
「これ、お前たちがやったのか?」
「……屍の山を築き上げて顔色1つ変えねえのかよ」
「お、お姉ちゃん?」
私とレンゲさんは顔を見合わせると、互いに頷き、そして彼女はサジくんに、私はバッシュくんに近づく。
「や~ん怖かったぁ。なんかこう、突風が吹いてこう、わけわからない内にこう、なんというか刃的なサムシングを纏った金剛力士像のような屈強ななにかが現れてこう、わけわかんない内にこう、切り刻まれてましたぁ」
「あー腰抜かすとこだったわあ、あたし驚いちゃったわあ――」
「嘘つけぇ! 棒読みが過ぎんだよ」
「ヨリのお嬢さんに至ってはマジで何言ってんのかわかんねえ」
「……お姉ちゃんが本気出した。ということは、ヨリさんがそれに準ずる強さってことか」
「サジ、この子はあたしより強いわよ。本当に何やってるのかわからなかったし、なによりも――」
レンゲさんが林の奥の方に目を向けた瞬間、ぐきゃぐきゃという鳴き声と低ランク冒険者であるのなら冷や汗でも流しそうな重い戦闘圧。
「さてコークくん、あっちにウルドレイクがいるわけだけれど、どうしたい?」
「……ちなみに、ヨリはどの程度手伝ってくれるんだ?」
「う~ん、ウルドレイク討伐に参加してもいいんだけれど」
「コーク駄目よ。ヨリをそっちにやると、この周囲にいるあいつの配下に対処できない。ウルドレイクを倒すのならあたしたちで何とかするしかない」
「……うんでレンゲさんよ、俺たちだけであれは倒せるのかい? コークも俺も自殺希望者じゃないぜ」
「倒すのなら腹をくくりなさい」
「別にギルドに報告して、誰かに倒してもらってもいいんだよ。命を懸ける相手でもない」
「……」
コークくんが深く考え込んでいる。
私はこのパーティーの根っこを知らない。
むやみやたらと死にたがるアドレナリンジャンキーか、それとも命最優先の慎重派か――正直私はどれでも良い。
「……ヨリは知らないかもだけれどさ、このパーティーの奴らはそれぞれに野望を持っている。舐められないように、馬鹿にしてきた奴らを見返すために、冒険者だと胸を張って言えるように、もう心配かけさせずに生きられるように――そんな我が儘でしょうもない連中の集まりなんだ」
「――」
私は息を吐いて歯を剥いて嗤い、大鎌を取り出して背後から迫るこの林道の魔物たちに意識を向ける。
「だからよ、最後までガキみてぇな我が儘、通して生きていきたいんだよ!」
これがこの子たちの掲げる信条か。いいんじゃないかな、少なくとも私は我が儘を通したいという気持ちがよくわかる。
コークくんもバッシュくんもサジくんもレンゲさんも戦闘態勢に移行した。
私は飛び掛かってきた魔物たちに向かって指を弾いて硬貨を飛ばす。
「運も運命、天地に委ねる女神の気まぐれ――さあ、君たちにもたらされるのは幸運兎? 首狩兎?」
私は大鎌を思い切り振り、そこから放たれる衝撃波にスキルを乗せる。
「『幸運不運の裏表』」
放たれた衝撃は飛ばした硬貨に触れると同時に、飛び掛かってくる魔物と同じ数に別れ、それぞれがランダム性のある刃となって飛んでいく。
使用者の運に作用するランダム要素の強いスキル構成――運命神ヴィヴィラ様より賜ったギフト・『あ~した天気にな~れ』
今の私の体に刻まれたギフトだ。
飛び出した刃が魔物を斬りつけると同時に、光の飛沫が宙に上がり幸運を祝福するように魔物の首をすべて落とした。
「あら残念、首狩兎は今日も忙しいみたい」
私はコークくんたちに目線を投げると、あとは任せるよと魔物の集団に突っ込んでいくのだった。