??うちゃんと風断つ如月の子
「……」
「レンゲさんは慎重だねぇ」
コークくんたちを残して、私とレンゲさんは林道を進んでいた。
見通しはそれなりに悪く、砂利を踏む音すらも風に運ばれて遠くの誰かに聞こえるのではないかというくらいには音の少ない道。
そんな場所で、私は頭に両手を添えてのんびりとした空気感で森林浴をしているのに対し、レンゲさんはその空気感を鋭くさせて、一言も発することなく脚を進めていた。
そんな彼女に声をかけると、レンゲさんは深くため息をつき、私を非難するような視線を向けてきた。
「あなたね、もう少し緊張感を持ってくれない?」
「う~ん、でもレンゲさんも近くに魔物がいないことはわかっているでしょ。それとも警戒しているのは別のものなのかにゃぁ?」
レンゲさんが舌打ちをした。
別に嫌われているわけではないっぽいんだよなぁ。そうやって距離をとることを当たり前に育ったのか、それともそう言う環境で叩き込まれたか。
少なくとも彼女の所作には見覚えがあった。
「ところでレンゲさん、この辺りでアンバイルキッドに命令できるような魔物に覚えはある? 私この辺りの生態をまだ把握していないんだ」
「……いくつか。その内の3体は正直勝ち目がないわ」
私は思案する。
コークくんたちのパーティーで、正直レンゲさんだけが浮いている。それはなぜか――。
「それはパーティーとして? それともレンゲさんと私のこと?」
「なにが言いたいの」
「――如月流。動きがさ、そっくりなんだよねぇ」
「……」
立ち止ったレンゲさんが振り返って私を睨みつける。
その顔はよく整っており、幼い顔つきでありながら大人顔負けな鋭さを同居させている。
そして何より――彼女からは血の匂いがした。サジくんからはまったく匂いはしなかったけれど、このレンゲさんからは血がこびりついたような……つまり、殺しを生業にしている者のような匂いがしている。
「……ねえあんた、知りたがりは死にたがりって言葉は知っている?」
「好奇心はニャンコも殺すってやつだね」
私が歯を剥いて嗤いかけると、レンゲさんがその瞳を鋭くさせ、殺気を奔らせながら2本の短剣を放った。
「裏如月――」
「……」
私は目を閉じて大鎌を取り出し、肩を竦ませる。
「『ツキにお任せ運試し』」
「『風断・閑閑坊』」
私が振り上げた鎌を通り過ぎて、レンゲさんの持つ刃が背後から飛び出してきた4体のアンバイルキッドを切り裂いた。
そして私が使用したスキルは彼女の背後から迫っていた魔物6体に標準を合わせ、それは私の持つ運気と彼らの持つ不運が重なり、アンバイルキッドの首を切り落とした。
「ほらぁ、そんな殺気立つから見つかっちゃったじゃない」
「あんたが余計なこと言うからじゃん」
私とレンゲさんは背中合わせになりながら、辺りを包囲している大量のアンバイルキッドに意識を向けた。
「この数、どうにかできそう?」
「そんなに強くない魔物だからね。ただ――」
私はこの包囲網のさらに先、そこから舐められるような感覚を覚える視線に嫌悪感を抱く。
この魔物は聞いたことがある。
Bランク冒険者パーティー推奨の魔物で、名前は確かウルドレイク。ここからでは姿は見えないけれど、その「ぐきゃ、ぐきゃ」という特徴的な笑い声と魔物を従えることが出来る魔物という特性の通り、まず間違いない。この場所にいる魔物はほとんど奴の支配下だろう。
「ウルドレイクか。倒してもいいんだけれど、ここはパーティーを優先させようか」
「コークたちじゃ相手にならないけど」
「それでも今私たちはパーティーだ。1人で済むのならそもそも組んでいないでしょ」
「……そう、ね」
「でもこれだけの数のアンバイルキッドは邪魔だね」
「4,50いるけど?」
「余裕でしょ」
レンゲさんが鼻を鳴らした。
私たちは揃って刃を敵へと向ける。
「キサラギの技に合わせられる?」
「ついて来いって? 可愛い子のエスコートなら喜んで」
レンゲさんがクツクツと笑い声をあげ、私も勝気に笑って見せる。
そうして私たちはアンバイルキッドに向かって飛び出していくのだった。