???ちゃんと力の差
「いやぁ~いきなりごめんね。ちょっと昔見たことがある人たちに似ていたからついね」
「それは良いんだけどさ、サジがビビっちまって体縮ませているじゃないか」
挨拶もそこそこに、私のテンションが上がって話どころではなくなった後、コークくんとバッシュくんが依頼をマクルールさんから受託し、そのまま街を出て改めてみんなに自己紹介という場を設けてもらっていた。
街から出てすぐに林道に入り、そこで大量に発生したというアンバイルキッドの討伐、それが私たちが受けた依頼だ。今はのんびりとその林道を進んでいる。
私はみんなに溢れんばかりの笑顔を向けながら頭のウサ耳を揺らし、1人1人に可愛さアピール。
「は~いそれじゃ改めまして。ヨリフォースさんですよ~、見てわかる通り、可愛いのが特徴です」
「……おいコーク、ヤバい奴押し付けられたんじゃないか?」
「俺もちょっと後悔してるわ」
引き攣った顔をするコークくんとバッシュくんに、私はむっと顔を浮かべる。
コークくんは長髪を三つ編みで一本にまとめた……よく中華系のキャラクターがしている細い三つ編みに、これまた中華系のキャラが着ているような、確かチャンパオって言ったかな、それを着ており、八重歯が覗く爽やかな青年で、その背中には槍を背負っている。
バッシュくんは、頭には2つの突起が生えたメット、ゴーグルをかけ、オーバーオールの明らかに生産職をやっていそうな服装の、童顔の男の子。
私はズイと2人の胸倉を引っ張り顔をそれぞれの耳元に近づけ、どこか色っぽく見えるような表情で囁く。
「私の可愛さに酔ってみる?」
「――」
「――」
男の子2人が顔を真っ赤にして私から距離をとっていった。中々に初々しい。
しかしそんなコークくんとバッシュくんを、レンゲさんが呆れたような目で見ていた。
「あんたたちじゃ手も足も出ないわよ。どう考えても慣れてるって感じだし」
「いやいやそんな。これでも清廉潔白の純粋無垢な真っ白乙女ですよ。どこぞの聖女様に誓っても良いです」
「ならそれが素? 厄介ね~」
肩を竦ませるレンゲさんに、私はクスクスと喉を鳴らして笑う。
ほどほどの警戒心で距離感を保っている彼女が、このパーティーの要なのだろう。リーダーはコークくんみたいだけれど、その結論を出させるのも、結論に導くための助言も、すべて彼女が担っているのだろう。
「スプーン姉弟もさっきはごめんね」
「なぜスプーン?」
「異国ではサジとレンゲってスプーンのことだから」
「初めて聞いたわよ! どこの国のことを言っているのよ」
「ジブリッドっていう商会が最近出したスプーンだね」
「クッソ、あの化け物商会、余計な商品出してくれちゃって」
ジブリッドはどこの国にいても大きな商会らしい。
私が少し得意げになっていると、サジくんがもじもじしていた。その見た目で彼は中々に小心者らしい。
「ふえぇぇぇ~」
「戸愚呂弟はふぇぇなんて言わない! 何だその澄み切った瞳は! 今のお前を殺すには、片手で十分だ。とか言えよ!」
「言わないよ~、誰の話をしているんですか~」
私はポーチの中から丁度良く持っていたどんだけ尖ってんだ。というサングラスを取り出し、サジくんに装着した。
「これで少しは威厳が出るはず」
「……人の弟で遊ばないでくれない?」
「空気感が独特過ぎる。何だこのやりにくいチビッ子」
「今日初めてパーティーを組んだのに、なんで速攻で中心に落ち着いているんだ」
「可愛さのなせる技です!」
私が胸を張ってキラキラ眼で言うと、レンゲさんが手を叩き、視線を集めた。
「はいはい、遊んでいるのも構わないけれど、もう縄張りに近いってことを自覚してね」
「そうだぞ少年たち! いつまでか弱い私たちに索敵やらせるんだ!」
「やれなんて言っていないけど!」
「ありゃそうだったの。じゃあ、これ放っておいてもいいんだ――」
私が首を逸らすと、石つぶてが顔を通り過ぎていった。
その途端、私以外の全員が臨戦態勢に移行したのが横目に映る。
「来てたんなら言え!」
「いやいや、アンバイルキッドなんてわかりやすく殺気向けてくるから、言うまでもないことかなって」
「気が付かなくて悪かったな!」
「おしゃべりしてるから」
「誰のせいだ!」
「コーク! 囲まれてる、さっさと体勢を整えるよ!」
レンゲさんの言う通り、アンバイルキッドたちは私たちを囲むような陣形を組んでおり、このままでは逃げ道も確保できずに戦うことになる。
そもそもアンバイルキッドというのは集団で行動する魔物で、児童のような体躯を持ち、最近ではギフト・岩々転戯のような力を使い始めたとか。
それによって集団で少数や個人を追い詰めるような戦い方をする賢い魔物だ。
さてさて、お手並み拝見と行きたいところだけれど。と、私はスッと戦線から少し足を逸らし、全員を見渡すように動く。
「とりあえず先陣は俺が切る! バッシュ、サジ、準備しておけ!」
「あいよ、任せな大将」
「う、うん、頑張るよ!」
石つぶての一斉掃射の前にコークくんが飛び出した。
彼が狙ったのは団体の中で一体だけ歩幅が合っていないアンバイルキッド、その個体だけ足場が悪い場所を進んでいるのか、体勢が多少ぶれている。
意外とよく見ているのだなと感心していると、コークくんがその一体に槍を突き刺す。そして――。
「『廻れ回れ風の目となれ』」
槍の先端に渦巻く風――確かあれは、ギフト『風の中心で渦を巻け』だったかな。
紋章型のギフトで、体や武器に風の渦を起こして攻撃する、風系統のそこそこ威力のスキル構成のギフトだったはず。
コークくんの槍がアンバイルキッドを貫き、そのまま風の渦によって魔物の体が四散した。
そしてその一角を起点に、バッシュくんとサジくんがコークくんとレンゲさんの背後につき、彼らは体勢を整えた。
バッシュくんとサジくんが後衛で、前衛がコークくん、そして中衛がレンゲさんというところだろう。
残る魔物は5体、その内の二体に短剣――ククリ刀によく似た刃物を2本構えたレンゲさんが駆け出した。
「サジ!」
「うんお姉ちゃん!」
レンゲさんの声に、サジくんが傍に生えている花に手をかざした。
「さっ妖精さん、お姉ちゃんに力を貸してあげて。『花妖精の悪戯』」
サジくんが花にフッと息を吹きかけると、その花から羽の生えた小さな何か――妖精が現れ、レンゲさんの足元に、変わった模様が現れた。
「どこ見てんのさ!『瞬間暴発一式』」
その模様をレンゲさんが踏んだ途端、彼女が2人に増え、それぞれがアンバイルキッドの体を切り裂いた。
なるほどギフト・『妖精の気まぐれ』と『刹那の疼き』か。
レンゲさんが2人に増えたけれど、あれは妖精の見せた幻で、中々な戦闘技術と瞬間的に身体能力を急上昇させる自己強化で彼女は敵を切り裂いたというわけか。
あの姉弟も良い連携を見せるなと、さっきから感心しっぱなしだけれど、一言も言葉を発していないバッシュくんから妙な気配を覚えた。
「なるほどね、彼は大技担当か」
そろそろ終わるだろうと、私も私の仕事をするかと背後に意識をやる。
そうしている間に、バッシュくんから引っ張られる力を覚える。
「全員伏せてな! 『繋がり紡ぐ浮き魂』」
バッシュくんの手の中でため込まれていた球体のエネルギーが彼の手から離れて宙に浮き、その球体が引力を用いて土や植物を引き寄せて集め、エネルギーを中心に巨大な手を作り上げた。
そしてその手がそのまま残ったアンバイルキッドの頭上で、思い切り地面に向かって叩きつけた。
いやはや中々に息の合った戦闘だな。と、僕は大鎌を取り出した。
「まっ、こんなもんだろ」
「油断しない、まだ潜んでいるかもしれないでしょ」
「お、お姉ちゃん、とりあえず視界の良い場所に移動しようよ」
「まだまだ俺は戦えるぜ? コーク、進むも引くもお前が決めろよ」
「おう、それじゃあ――」
「待った。ちょっとヨリフォース、あんたなにもしないつもり?」
「へ? う~ん、とりあえず休憩しない?」
私はポーチからお菓子を幾つか取り出した。するとそれにサジくんが瞳を輝かせていた。彼は甘党か。
「こんなところで休憩なんて出来るわけないでしょ。というか戦ってって言っているんだけれど」
「……足引っ張んなとは言ったけれど、なにもしないのはちょっとなぁ」
「う~ん? 別に安全だし、何もしていなかったわけじゃないよ。ほら、そっち――」
私は手に持った大鎌を消し、自分の背後を指差した。
「は――?」
私は欠伸を漏らしながら近くの木の傍にシートを引き、その上でお菓子を広げ、水筒から人数分のカップにお茶を注ぐ。
私が指差す方にすぐに目を向けたレンゲさんが顔を引きつらせ、それを追ったコークくんが額から脂汗を流していた。
「何だよ2人とも――え?」
「……アンバイルキッドの首、が。1、2、3――」
「まあ20くらいかな。後ろでちょろちょろしてたから倒しておいたよ。ほらほら、みんなもこっちに来て休憩しようよ」
私は努めてみんなに可憐な笑顔を向けるのだった。




