魔王ちゃんとベルギルマへ出発
「しっかし、昨日ミーシャに殴られて初めて思い出したんだが、まさかカナデがいなくなっていたとはな」
「学園でも覚えている人がいなかった。本当に厄介なことをしてくれたよ」
「黄衣の魔王ね、話には聞いたことがあったが、それほどの力を持った魔王だったか」
翌日、僕とミーシャとガイル、ルナちゃんとアヤメちゃん、そして何故かジンギくんとヴィヴィラ様がベルギルマに行くために準備しているリア・ファルに乗り込もうとしていた。
「ありゃ、ジンギくんも来るの?」
「あ? ああ、だってよ~、タクトとセルネとクレインがなんか動けないらしくてな。俺暇なんだよ」
「……ミーシャさん?」
「じき動けるようになるわよ」
「……あれは多分無理ですよ。暫くまともに動けないと思われます」
「ルナ、一応聞いておくけれど、俺の聖女は一体何したのよ」
「わたくしの口からは、とても……」
胸を張っているこの聖女様の頭をどつきたいが、彼らも強い子たちだ、帰ってくるころには元気になっているだろう。
しかしジンギくんが付いてくることに文句はないけれど、若干1名不満そうにしている。
「……」
「ジンギくん、僕たちは構わないんだけれど、ヴィヴィラ様にちゃんと許可貰った?」
ゴスロリ目隠れ美少女が頬を膨らませてジンギくんの背後を浮いており、頻りにその大きな背中を叩いていた。
「あ~……リョカ説得してくれよ」
「こればっかりは自分で何とかしないと」
「そう言われてもよ」
ジンギくんが肩を竦ませてヴィヴィラ様に振り返ると、彼女は不機嫌そうに口を尖らせた。
「……なに」
「あ~その、あれだ、ほれ、お前はなんでかわからないけれど、他のチビたちと一緒に居づらいだろ? だからこういう時にほんのちょっとの単独行動で気も紛れるっつうか、別の視点で物を見られるっつうか」
「……一応、あたしのためってわけだ?」
「ううん、暇つぶし――ぐわぁぁっ!」
なぜ最後まで続けないんだこの男。
ジンギくんの頭上から突然鉄球が降ってきた。
もうあの鉄球がヴィヴィラ様の感情表現になっているな。
「……うんわかった、わかったから。もうジンギくんには任せない」
僕はため息をつくと、ヴィヴィラ様と目線を合わせた。
「むぅ」
「ほらほら、せっかく可愛いんですから、そんな顔しないで。あの脳まで金属で出来ているような男にそれを期待しても無駄ですよ。それならほら、一緒に行って楽しむくらいで考えなくちゃ」
「それはそうだけれど、不確定が多すぎる。シラヌイが絡んでいるから、あたしの運命もどこか曖昧だし、そんな場所でもしなにかあったら――」
「あたしがいるのに何か起きるわけないでしょ。そんなに心配ならあんたがずっとついていてあげればいいじゃない」
「……むしろ君たちがいるから何か起きそうなんだけれど」
さもありなん。
まあ心配なのはわかるけれど、そんなに心配してばかりだとこの先ジンギくんが何も出来なくなるような。と、考えていると、見知った有翼の少女が降ってきた。
「あ~っ、みなさんでお出かけです? ヒナはたまご買って来てくれれば満足ですよ。ぴよ? ヴィーラも行くですか?」
「いやぁそれがねピヨちゃん、ヴィヴィラ様はジンギくんが危ないからってちょっと反対していてね、まあそれなら仕方ないから今回はお留守番と言うことにしようかなって――」
「ぴよぅ、それじゃあヴィーラはずっとこっちにいるですね? いやぁ最近テル姉がお話聞いてくれないので丁度良いですよ。ルナ姉もアヤメ姉もいないんじゃヒナ1人で喋ってなくちゃですし、ヴィーラがいるならいくらでもお話付き合ってくれるですからね、なんせヒナはお姉ちゃんですし、ああそうだ、それなら昨日あったことを早速――」
「あっ、やっぱり連れていってください」
丁寧な言葉になるほど嫌なのか運命神様よ。
ヴィヴィラ様の同行宣言に、ピヨちゃんが頬を膨らませたから、僕は彼女を苦笑いで撫でてやる。
「だ、そうだリョカ、俺たちも連れて行ってくれな」
「遊びに行くわけじゃないんだけれど、まあいいか」
「おっ、ジンギも一緒か。それでさっきから浮いているその子が噂の」
「ヴィっす。ほれ、この人がガイルさんだ」
「……金色炎の勇者、あんまりジンギを過酷な戦いに連れていってほしくないんだけれど」
「はっはっは――なぜ?」
「こういう勇者が一番始末に負えない」
ヴィヴィラ様が心底不安そうだったけれど、覚悟を決めたのか、ジンギくんの肩に体をかけ、ため息交じりに同行することを決めた。
「リョカさん、何だかヴィヴィラが我が儘言ってすみません」
「いえいえ、ああいうの見ているのも可愛くていいですよ」
「まあヴィヴィラは俺たちの中じゃわりと珍しいタイプだからな、今回はリョカに同意するわ」
「これはこれで面白いメンバーじゃない。ジンギとヴィヴィラには活躍してもらうわよ」
各々がジンギくんとヴィヴィラ様を受け入れたところで、僕たちはリア・ファルに乗り込む。
目的はカナデを迎えに行くというもので、およそ厄介なことに巻き込まれることは決まっているけれど、それでもあの子を放っておくという選択肢はない。
だからこそ今回は目的がはっきりしている分、最初から全力で事に当たると決めている。
僕の可愛い友だちに手を出したこと、後悔させてやろう。そんなことを考えながらリア・ファルを発進させるのだった。




