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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。
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魔王ちゃんと堕ちぶれ魔王

「むぅ……」



「いつまで膨れているのよ。ほら、可愛い顔が台無しよ」



 ミーシャに頬をつつかれるルナちゃんだったが、つつかれている状況が楽しいのか、顔がほころびそうになっており、チョロイのを隠しきれていない。



 僕たちはあの後解散し、夕飯時になったからいつも通りにミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんと今日はうちでお留守番してくれていたソフィアとテルネちゃんと一緒に夕食を囲んでいた。



「ルナの気持ちもわかりますけれどね。2人――というより私たちをアリシアから遠ざけすぎです」



「だってあの子、あんたたちに会いたくないって言うんだもの。話聞けなくなるでしょうが」



「こればっかりわね、ルナとテルネがいるとあいつクソガキムーブかますからな。いない方がスムーズに事が運べるのよ」



 メスガキアリシアちゃんもそれはまあ可愛いけれど、ミーシャは結論を急ぐからなぁ。もう少しだけ猶予なんてものがあっても良いと思う。

 そんなことを考えていると、幼馴染が半目で僕を見ていた。



「あんたはどっちも甘やかし過ぎよ。強引な手も多少は使わなくちゃ」



「わかってはいるんだけどねぇ」



 チラとルナちゃんを見ると、困った顔でそっぽを向いていた。

 まあ今のところ急いでもしょうがないし、個々は今日の成果をルナちゃんとテルネちゃんに渡すべきだろう。



「ハイこれ、一応シラヌイ対策出来ましたので」



「ええ、少し見ていました。確かにこれならシラヌイからの信仰遮断を防げますね」



「本当、出来てしまうものなのですね。それにリョカさんの眩惑の魔王オーラ、ですか? あれはどうしてそうなるのか、ぜひ聞いてみたいですね」



「まあ簡単な話、世界にはそれぞれ本当の姿があるっていう理論から、僕の絶界を通ることで、その本当をでっちあげ、引きずり込む。まあそんなところです」



「……すみません、まったくわからないです。ソフィア、も無理そうですね」



「世界にはそれぞれ本当の姿。の時点で頭が考えることを拒否しました」



 まあこればかりは異世界を通った経験がある人間にしか理解出来ないだろうなぁ。けれどこれで色々考えてはいるから、カナデを迎えに行った後でも色々試してみようと考えている。



 とりあえずルナちゃんとテルネちゃんに、所謂外付けのバッテリーと化しているクマのぬいぐるみを手渡す。

 しかし受け取ったテルネちゃんが訝しげな顔を浮かべた。



「あの、これ……」



「女神特権ではないです!」



 テルネちゃんの苦虫噛んだみたいな顔でご飯が美味しい。

 しかしルナちゃんが感嘆の声を上げた。



「これ、わたくしたちも前線に出られますね」



「あんまり出てほしくないですけれどね」



「基本はあたしたちの後ろにいなさいよ」



「ヤだっ! たまには暴れたい!」



「許可するわ」



「許可すんな」



 暴れたい気持ちがわかるお姉ちゃんはすぐに荒っぽく解決しようとする。

 でもアヤメちゃんは言うこと聞いてくれなさそうだし、目の届く範囲でなら許可してあげても良いかもしれない。



 そんな僕たちをソフィアが上品に笑って見ていた。



「リョカさんは、女神さまたちでも成長させてしまうのですね」



「そんな仰々しくないよ。可愛い妹たちに危険な目に遭ってほしくないだけさね」



「なるほど」



「ところでソフィアさ」



 実は今朝から気になっていたことがあったのだが、どうにも聞くタイミングを逃していた。

 テルネちゃんもいるし、ソフィアの実力からあまり危険なことにはなっていないだろうけれど、僕が渡した(・・・)手前、もし厄介なことになっているのならどうにかしなければならない。



「はい?」



「そのぬいぐるみ(・・・・・)、今のところ問題はない?」



「あ、アハハ……」



 ソフィアが目を逸らすと、ミーシャとアヤメちゃんが首を傾げてソフィアのポーチに入っていた全長15センチほどのクマのぬいぐるみに顔を近づけた。



「ソフィアお前これ」



「あたし戦えなかったのよね。一発殴っても良い?」



「自分でリョカさんの呪縛を抜けてきたんですよ」



「さすが、魂に関して(・・・・・)は本職ですよね。わたくしも一発殴っておきましょうか」



 みんなが一様に感心した声を上げると、ミーシャが近づけた手をそのぬいぐるみが弾いた。そして飛び上がり、ソフィアの目の前で胸を張った。



『クハハハハッ! 月の魔王よ、俺を捕らえたつもりでいたか! 貴様の呪縛など少し時間をかければこの通りよ! この姿になってからの屈辱的な日々……しかしそれも今日までだ! 貴様のその寝首を掻き、俺は本当の自由を、世界でただ1人の存在に――むぎゅっ!』



 ソフィアにビタんとテーブルに叩きつけられ、ぐにゅと体を折り曲げられ「いだだだだだ」と声を上げている元魔王――そう、魂壊の魔王・ミルド=エルバーズ。

 少し見ない間に随分と憐れな魔王になってしまって。



「すみませんリョカさん、ちゃんと躾けておきますので、今の無礼をお許しください」



「いやいや、ペットのしたことだし気にしないで」



『誰がペットだおらぁ!』



 この魔王はしたことがしたことだし、あまりいい印象は持っていないけれど、こうなった以上怨みを向けても仕方のないことではある。テッドちゃんとフィムちゃんがブチコロって言えば僕も協力するけれど、今度聞いておこう。

 そうしていると、ルナちゃんとアヤメちゃんに目を向けられたテルネちゃんが頭を抱えて口を開いた。



「いえ、その、まあ……さすが魂を読む術に長けておりまして、それなりの知識がですね、その」



「フィムに怒られたらちゃんと処理しろよな」



「……はい」



「まあほとんど何も出来ないだろうし、ソフィアが責任をもって管理してくれるのなら言うことはないよ」



「ありがとうございます。大丈夫です、しっかりと首に縄を巻いておきますので」



『貴様ソフィア、俺を一体何だと思って――むぎゅあ!』



「一応罪人という括りですよミルドさん」



『こ、この鬼畜メガネ! 貴様俺の体を使ってあんな非道なことをしておきながら俺だけを罪人と呼ぶか!』



「……なにか?」



『ヒェッ』



 主従関係が出来上がっている。

 一体どんなことをされたのやら気にはなるけれど、食事中だし聞かないでおこう。



 僕が苦笑いを浮かべていると、アヤメちゃんがケモ耳におて手をかざしていることに気が付く。



「あ~うん、わかった。近い内にミーシャとリョカ、それとガイルを連れていくわ」



「アヤメ?」



 多分神託だろうか。誰と話を――いや、あのメンバー構成、たぶんだけれど。



「リョカ、テッカからだ。ちょっと面倒なことになっているらしくて、すぐに来てほしいそうよ」



「やっと動きがあったか。さてと――」



 僕はミーシャに目をやると、幼馴染は頼りがいのある顔で頷いてくれた。



「ソフィア、テルネちゃん、また僕たち街を開けるけれど、その間よろしくね」



「ええ、任せてください」



「まあリョカさんとミーシャさんがいないと何故か平和ですからね。そんなに心配することはありませんよ」



 そんな推理マンガの探偵役みたいなことを言わなくてもいいのに。と、僕が肩を落としていると、ミルドが不機嫌そうな雰囲気で舌打ちした。



『ふんっ、エンギに会いに行くのか』



「知ってるの?」



『エンギ=シラヌイ、またの名を灰燼の魔王。いけ好かないクソジジイだ』



「なぜあなたが知っているのですか」



『俺にも喧嘩を売ってきたことがあるからな。だが……クハハハハ、俺の前では羽虫同然よ、追い払ってやったわ』



「倒せなかったんだ?」



『……ふんっ、あんな耄碌ジジイ倒す価値もない。だが奴を倒すつもりならそれなりの覚悟は持てよ銀色、俺を一瞬でも上回った貴様があれに負けたとあっては俺の価値が下がる』



 何だか面倒臭い人に好かれたような気がする。と、僕がため息をついていると、どこから取り出したのか、ソフィアがミルドクマの手足に釘を打ち込み始めた。

 怖い怖い怖い。



『ま、待てソフィア! あいつに関して言えることなんて本当にないんだ! あのジジイは真っ当に世界に害をなす者だ。その力もすべて破壊にしか使われない。あいつは破壊者だ、近しいと言えばそこの聖女だ。本当に物量で、真っ向からぶん殴ってくる。あいつの魔王としての力はそれだけ単純であり、その分強力だ』



 なるほど、小細工を用いない破壊だけを目的とした魔王か。

 少し面倒だな。



 魔王になるものは結構付加価値をつける。それだけ複雑な力で世界を引っ掻き回すからだ。でもそうではないらしい。

 しかも本人がそう言う力を持っているプラスシラヌイという殺人鬼集団。



 これは少し考えなければならない。



 僕はミーシャとルナちゃん、アヤメちゃんを見渡し、小さく頬を叩く。

 考えすぎても始まらないか。ここはとりあえずテッカに会いに行こう。



「ミルドもありがとう、助かったよ」



『ふんっ』



「もう、ミルドさんったら」



 ソフィアとテルネちゃんにも礼を言い、僕たちは夕食を再開するのだった。

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