聖女ちゃんと最終確認
「知らない顔……ああ、ヴィヴィラね。可愛い子じゃない」
「だよねぇ。今までにいない感じの可愛らしさだよ」
「……」
ヴィヴィラがそっとジンギの背に隠れてしまったけれど、その顔には朱が差しており、多分人の目にさらされることになれていないのだろう。
「これでよく顔が見れるようになったな」
「だねぇ。ヴィヴィラ、こっちに来てあたしにもよく顔を見せてよ」
「ヴィーラ、お姉ちゃんですよ~」
アヤメとラムダ、ピヨ子ににじり寄られ、ヴィヴィラが完全にジンギの背中に顔をくっ付けてしまっていた。
アリシアが呆れ、リョカが手をワキワキと動かしているけれど、あたしの幼馴染がすぐに思い出したかのように手を叩き、アヤメたちにそっと触れた。
「ん?」
「おや」
「ぴよ?」
「シラヌイ対策です。相変わらず追ったり見つけたりは難しいですけれど、少なくともそれで天敵にはなり得ないかと」
「これは……随分強引なことしたわね。配給源をもう一口に設置することで、実質的にシラヌイからの信仰カットを防いでいるって感じね」
「これでシラヌイにやられることはなくなるわけかぁ――もう1つの特典については、テルネが怒りそうだね」
「女神特権ではなく、魔王の福音ですからね。人のなせる業ですから、許可もいらないのではないですか?」
「要相談ってところね。ただまあ、あたしたちもこうして表に出ることが多くなったから、自衛の手段としては最適ね」
「ぴよぅ? ヒナとしてはやれることが増えたのは嬉しいです。旦那さまのお役に立つですよ」
リョカが何かしらの対策を思いつき、それを女神たちにかけたらしい。まあそれなら一安心だ。
それならあたしは。と、そっとアリシアに目を向ける。
「……なに?」
「あんたは悪いことした、してない? どっち」
「はあ? しているわけないでしょう。ウチが何なのかよく思い出してから発言してくれない?」
さも当然とアリシアが言い切った。現在の空気が成せることなのか、それとも最初からこの子は清廉潔白に生きているからか。それについての判断はまだできない。
でもあたし以外にもアヤメもラムダも、どこか安心したような顔で息を吐いており、それに気が付いたアリシアがハッとした顔を浮かべた。
「――この間のこともう忘れちゃったの? ウチがこの街に不死者を呼びこんで、それで散々迷惑かけたでしょう」
「そうね。でも誰も不死者にしていない」
「……それは」
「いい。どうせ話さないだろうから聞かないし、こっちで勝手に察しておくわ。言わないのは言っても意味がないと諦めているから――どうせルナ辺りに聞いてもらえなかったことが起因しているんでしょうけれど、それならそのままでいなさい。あたしは勝手にあんたを助けるわ」
「――」
アリシアが顔を真っ赤にして頬を膨らませた。
出来ないことを無理にやらせても仕方がないし、今はそのタイミングでもない。
ならばあたしはそう宣言しておくだけ。
あたしはそっとアリシアの頭を撫でてやる。
「よく頑張ったわね。あたしはあんたを信じるわ」
「――っ」
ひどく泣きそうな顔であたしを見上げてきたアリシアだったけれど、すぐに顔を振って袖で顔を拭い、そのまま顔を隠したまま立ち上がってフェルミナの手を取った。
「アリシアちゃん! 本当に困ったら、ちゃんと僕たちを頼るんだよ」
「――」
リョカの言葉にも顔を伏せ、そのまま夜に消えるように彼女は消えていった。
「本当に、面倒な子ね」
「もうちょっと一緒にお茶したかったんだけどなぁ。ミーシャ、ラムダ様たちから何聞いてきたのさ」
「別に。あの子への確信、それだけよ」
「僕が一緒の時に聞いてくれよぅ」
「あんたはルナから聞きなさい。そうじゃないと何も進まないもの」
リョカが苦笑いを浮かべている。
しなくちゃいけないことを先延ばしにしているのはリョカだ。それくらいの提案、素直に受け入れてほしい。
「悪いわねミーシャ」
「ん、どうせ関わる話だもの、それならせめて関わる理由くらいはこっちで持っておきたいでしょ」
アヤメが誇らしげに笑い、あたしの傍に寄ってきて拳を差し出してきた。
あたしはその拳に軽く拳を当てると、ふとどこかから急いで走ってくる者の気配と音を察知する。
「今アリシアいませんでしたか! むぎゅっ!」
飛び込んできたルナに、あたしはげんこつを一発お見舞いした。
「……ちょっとミーシャぁ、いきなりは止めたげて」
「ラムダから一発だけならって許可はもらっているわよ」
「うぇぅ、ミーシャさん酷いですよぅ。わたくしが何をしたというのですかぁ」
「色々諸々ね」
あたしはルナの頭を撫でると、アリシアが消えた箇所をジッと見つめた。
「ミーシャさん?」
「あとはあんたの覚悟次第よ」
「えっと?」
もう語る言葉はない。
あたしはリョカが淹れてくれたお茶を片手に、口を閉ざすのだった。




