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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。
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聖女ちゃんと女神の罪2

「う~……この歳になって泣かされるとは」



「アヤメなんてあたしがげんこつ落としただけでしょっちゅう泣いているわよ」



 あたしにくっ付いていたラムダが体を離し、はにかんでそう言った。

 この子は年上に見られがちだけれど、しっかりしているだけで、それなりに脆いところもある。もう少し……アヤメほどとは言わないけれど、見た目相応に甘えてもいいのに。



「ミーシャさん、ありがとうございます」



「別に。というかあんたはあんたで自分の話が絡んでくると途端に弱くなるのをなんとかなさい」



「……ええ、本当に。精進します」



 普段は大人らしく他人を導くのに、過去に起きたことが絡んでくると後悔が先行してくる。それが悪いとは言わないけれど、いい加減慣れてほしくはある。



 あたしが肩を竦ませると瞳を輝かせたエレが膝に乗ってきたから、その頭を撫でてやる。



「ミーシャお姉ちゃんの優しいところ、エレの憧れだよぅ」



「そう? ありがとう」



 撫でる手に頭を押し付けてくるエレに和んでいたけれど、そう言えば彼女は故郷のことについて知っていたのだろうか。



「でもレベリアって今そうなっていたんですね。エレは正直、国のことはよくわからないですし、あの国の貴族は嫌いですけれど、ラムダ様の国が荒れているのはイヤだなぁ」



「レベリア公国ですか。大昔にアンデルセンと足を運びましたが、あの国は出来た当時から女神様という存在に牙を向けていましたね。神域に届かせる塔(・・・・・・・・)を作ったのはいつでしたか」



「……ヘリオス先生、それ、とんでもない昔です。今は塔が廃墟として残っています」



「うん百年以上前だね。そういえばあれを壊したのもヴィヴィラだっけ」



「そですそです。塔を上るごとに言語をずらして、人々の意思疎通を困難にした結果、争いが起きて塔が崩れるまで至った。ヴィーラが言ってたですね、この程度の試練も超えられないのなら神の座に至るはずもなく。って」



「塔なんて作らなくても神域程度ならいつでもいけるでしょ」



「……ヒナ、あの時もミーシャさんたちを見てたですが、信仰に紛れて神の座に殴りこんできたのは歴史上あなただけですよ。あの時の女神の動揺っぷりは本当にひどかったですよ。アヤメ姉のところで良かったって何人が安堵したことか」



「情けないわね」



「信仰か妥協案提案しなかったら絶対に殺そうとしてたですよぅ」



「……あの節は、本当に申し訳ありませんでした。ゲンジに任せていたとはいえ、そこまでのことをさせていたとは」



 ロイが両手で顔を覆い、どこか苦々しい気配を漂わせている中、ヘリオス先生が彼の背中をポンポンしていた。



「まあまあ、おかげで今も頼りになる聖女様が生まれたんだからさ、そのことについては誰も文句言わないさ」



「文句言えないの間違いですよぅ。メル姉が帰ってきたらミーシャさん絶対に怒られるですよ」



「それは楽しみね」



「あっ、ミーシャちゃん、そのメルだけれど、多分君には手を出さないよ。リョカちゃんと括り的には同じに見ているだろうから、甘やかされるんじゃないかな」



「ぴよ? なんですかぁ?」



「色々あるんだよ――さて、それじゃあそろそろ話を戻そうか。ヴィヴィラに関してはそのくらいかな」



「ヴィーラもそうですけれど、アリシアも本当に予兆がなかったですからね。当時のルナ姉、激おこでしたからね」



「あの頃のルナは、本当に余裕なんて微塵も持っていなかったからね」



「そんなにひどかったの?」



「う~んと、まあ、うん。今のあの子を見ていると想像できないかもしれないけれど、笑顔をどこかに置いてきたんじゃないかってくらいには笑わなかったね。だから久々に表に出てきた時、本当にびっくりしたんだよ」



「いつも下を向きながらぶつぶつ呟いて、話しかけてもチラとこちらを睨むだけで会話とかほとんどなかったですよ。アヤメ姉とテルネ姉、ラムダ姉とメル姉くらいでしたか、あの頃のルナ姉に話しかけていたのは」



「……あの子、そこまでひどかったのね」



 そんな状態だったのに、一体何があってあそこまで持ち直せたのか、今度尋ねてみても良いかもしれない。

 するとラムダがしみじみとした顔で、寮の方に顔を向けた。



「リョカちゃんには本当に感謝しかないよ。あの子がルナを変えてくれた、人にも女神にも優しい素直ないい子になったよ」



「ついでの小話です。そういえば以前、リョカさんについて歩くミーシャさんを見ていたルナ姉が、羨ましがってたですよ」



「あたし?」



「当時体が弱かったあなたが、泣きながらリョカさんの手を離さなかった時のこと――ぴぎょっ!」



「忘れなさい」



「ま、待って――別に馬鹿にしてるわけじゃないですよ。あの時のミーシャさんにアリシアを重ねてたですよ。女神として本格的に活動する前は、ルナ姉もそれなりに面倒見てたですから」



「自分もそうやって寄り添えていたらって気持ちがあったんだろうね」



 あたしはリョカの妹ではないのだけれど、まあそう見られても仕方のないくらいにはあの頃は弱かったか。

 しかしルナは色々と感情の起伏が激しい子ね。アリシアが国を滅ぼした時は冷たくて、フェルミナがいたあたりではそれなりに会話も出来ていたはず。



「アリシアが国を滅ぼした時、ルナは何て?」



「……何も言わなかったよ。ただアリシアの顔をジッと見てそれっきり。そしてそのままアリシアはその場から逃走、数百年以上逃亡生活を送っていたんだよ」



「やっぱ一発引っ叩いておくわ」



「あの頃のルナは本当に擁護できないから……まあうん、一発だけだよ」



「ルナ姉の頭がへこむですよぅ。でも、あの時のこと、ヒナもよく覚えているですけれど、アリシア、なんだか困っていた感じだったですよね」



「うん、何で怒られているのかわかっていなかったというか、状況を把握していない感じだったよね」



「正直、アリシアの件に関してはヴィーラの時よりも不可解なことが多かったですよ」



「だね、夜の街として栄えていたファルゼンフィーラ。何の不都合もなく、アリシアも立派に国を動かしていた。でも、その繁栄も一夜にして終わった」



「突然の死者の街――でもそれもちょっと違和感があったですよ」



 ピヨ子が思案顔を浮かべているけれど、この子、アホそうに見えて意外と色々考えている。

 あたしは彼女に意識を向け、続きを促す。



「だってアリシアは死が嫌いでしたから。死という言葉も使いたがらず、終わりの安らぎなんて、ルナ姉に沿った言い回しをするくらいですし」



「死神って言われるのを本当に嫌っていたんだよね。そんなあの子が不死者を生成するのが信じられなくてね」



「誰も追及しなかったの?」



「出来る空気でも、余裕もなかったからね。全員が全員アリシアを責めていたわけじゃないけれど、事が事だったから、みんな事後処理で他に手が回らなかったんだよ」



「あの時アリシアを庇っていたのはアヤメ姉とラムダ姉、フィムとテッドですね。ヒナはご飯食べてました」



「そんなあの子が本格的に姿を見せ始めたのは……あたしが引きこもってからだね」



「フェルミナを奪われた時ですね。あの頃のルナ姉は人に接することが増えたからか、随分優しくなったですよ。でもそのフェルミナを連れ去られ、挙句の果てに街1つを犠牲にした。あれでルナ姉、やっと事の大きさを自覚したって感じでしたね」



「掛かりすぎでしょう。その時アリシアに何も聞かなかったの?」



「駄目でしたね、ルナ姉も完全にアリシアと敵対しちゃって、真っ向勝負仕掛けたですけれど、あの子いつの間にルナ姉特攻を作って、完全敗北を喫したですよ」



 ルイスが言っていた時のことだろうか。フェルミナの不死を解こうとしたけれど、失敗したという話だったかしら。



「そこからルナ姉の落ち込みっぷりもひどくてですね、話し相手だったラムダ姉も出てこなくなって、アリシアだけじゃなくてヴィーラもあんなことになって、最高神としての自信バキバキ状態だったですよ。でも15年ほど前、やっと嬉しそうな顔で他の女神の前に顔を出したですよ」



「リョカちゃん誕生だね」



「……前から気になっていたんだけれど、なんでリョカは産まれる前からルナと知り合いだったのよ」



「えっ! あ~……その、まあ色々ね」



「ああ、その時に」



 ロイの呟きに、あたしは首を傾げるのだけれど、彼は苦笑いで何でもないですと言った。

 あたしの知らないリョカでもいるのかしらとロイを睨むのだけれど、ヘリオス先生が横から声を上げた。



「聖女の才としての加護を渡した時に何かあったのだろう。それだけの才がリョカ=ジブリッドにはあった。それだけのことだろう」



「……」



 あたしはジッとロイとヘリオスを見つめるのだけれど、2人は涼しい顔で頬笑みを浮かべた。少しむかつく。



「まあそんなこんなで今に至るってわけだよ」



「……まあいいわ。アリシアもヴィヴィラも何をしたのかはわかったけれど――やっぱりらしくないわ。2人ともいい子とまでは言わないし、生意気盛りのクソガキだけれど、その事件の時は芯がぶれている」



「だね。それとあたしは1つ気になっていることがあるんだよね」



「なによ」



「いや、ロイくんたちがリョカちゃんに拾われてからのことだから、あたしもこの街に不死者が現れた時のことを見ていたんだけれど、あれおかしくない?」



 あたしはロイと顔を見合わせるけれど、ラムダの言う違和感は覚えずに彼女にその真意を尋ねる。



「いやだってさ、アリシアはリョカちゃんとミーシャちゃんが欲しいって言っているのに、わざわざ不死者を連れて街を襲ったんだよ」



「それの何か問題でも? 不死者はあまり強くないとはいえ、街に大挙すればそれなりに厄介ですよ」



「いやだからさ、わざわざそんなことしなくてもあの子が加護を使って街全体を死の街にすれば良い。最初の事件の時のようにね」



「――」



「ああそれヒナも思ったですよ。それとあの時の不死者、バイツロンドさんとパルミールさん以外、ぜ~んぶ死んだ人なんですよね。つまりアリシアは誰も殺していない」



 バイツロンドはともかく、巻き添えになったパルミールが聞いたら発狂しそうではある。

 でも確かに、あの子加護をリョカに向けた時も、する気はあったけれどやる気はなかったという雰囲気があった。だからこそ簡単にカナデに弾かれたわけだし。



「あともう1つ、あの時アリシアが連れてた不死者、あれほとんどファルゼンフィーラの人たちだよ。あれ以降不死者を作っていなかったのか、顔ぶれがほとんど変わっていなかった」



 聞けば聞くほどアリシアのことがよくわからなくなる。

 あたしが思うにあの子は悪い子ではない。ただ素直な子でもない。

 これは本人に直接聞いた方がいいのかもしれないけれど。



「うん?」



 あたしは鼻を鳴らし匂いを嗅ぐ。リョカの傍に――。



「アリシアいるわね。リョカと一緒にいるみたい」



「おや本当かい? ちゃんと食べているか心配なんだよね」



「ちょっと会いに行く? どうせ聞いても答えてくれなさそうだけれど、一応聞いてみましょう」



「ルナ姉は良いですか?」



「放っておきましょう」



「ヒナ的には旦那さまと一緒にいたいですが、まあここはアリシアに会いに行くですよ」



「決まりね」



「それでは私とエレノーラはルナ様と一緒にいますね。あとで責任をもってお2人に返しますよ」



「ミーシャ=グリムガント、一応言っておくが、ほどほどにだぞ」



 ロイとヘリオス先生の言葉を聞き、あたしは手を振って彼らと別れるのだった。

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