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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。

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聖女ちゃんと女神の罪1

「話すって決めたからには回り道せずに言うね。アリシアとヴィヴィラは、女神でありながらそれぞれ国を1つずつ落としている」



「……」



 何となくそうじゃないかって気はしていたけれど、あの子たちは人の領域に暴力で入り込んだわけか。らしくはないと思うけれど、あたしの生まれる前の話だ。ラムダの話に耳を傾けよう。



「アリシアは自分の国を約200年ほど前に、ヴィヴィラは……」



 ラムダが顔を伏せ、口を閉ざしてしまった。

 アリシアよりもヴィヴィラの方が彼女にとっては話しにくいことだったのだろうか。



「……40年程前に、レベリア公国を、崩壊させた」



「レベリアって」



「あたしの国だね」



 力なく笑うラムダの隣で、ロイも顔を伏せてしまっていた。

 40年程前って言うとロイが魔王になった後の話だ。つまり、ラムダが引きこもっていた期間のことなのだろう。



 あたしがロイに目を向けると、彼は肩を竦ませて口を開いた。



「レベリアの国王……パッフルフィード=レヴゼイが、当時国の騎士ですら寄り付かない国の暗部――やせ細った子供や人の骨をしゃぶる大人などがそこいらにいる区域出身の青年に殺された日ですね」



「それって」



「王と貴族の圧政に喘いでいた民たちは、昔の伝承に沿ってその青年に黄色の衣を与えました。もっとも、その衣もすぐに民を脅かす悪意の色に変わりましたがね」



「断片的にしか見ていなかったから、当時を知るロイくんの方が詳しいかもしれないけれど、ハインゼン=マエルドという青年はその日を境に世界に害をなす存在となった。英雄だった時なんてほんの一瞬だったよ、そこから先はやりたい放題さ」



 黄衣の魔王、どこにいても話を聞くやつね。

 でも、それがヴィヴィラと一体何の関係があるのだろうか。



「ハインゼンは運が良かったんだ。あの時ヴィヴィラが突然レベリアに加護を使用した」



「突然?」



「うん、そんな予兆は一切なかった。あの子の加護がレベリアを包み、王と貴族、平民とスラムの人々の形勢が一転した」



「一転って、あの子の加護ってそんな感じだったかしら?」



「いや、あの子は試練を与える女神だよ。だけどその時は、未来を与えた」



「未来?」



「人々に王に縛られるレベリアの未来を見せた。その結果、人々は国の在り方に、王に、貴族に、悪意を向けた。本来なら女神がそうやって人々の心を操ることは禁止されている。それがましてや神核に直結する加護であるなら尚更ね」



「それがヴィヴィラの罪?」



「うん、あの子のその行動で、人々がたくさん死んだ。直接的ではないにしろヴィヴィラは人々に害をなしたんだよ」



「そしてそのあおりを最も受けたのが――」



「黄衣の魔王」



「そう、つまりヴィヴィラは加護を使って魔王を生み出してしまったんだ。その時点で女神一同はヴィヴィラを討伐対象に指定、そして今の今までずっと姿をくらましていたんだよ」



 そんな運命を司る女神が今何故か1人の学生にくっ付いている。か。そもそもどうしてそんなに長い間隠れていたのかしら。というか、そんなに隠れられる物なのかしら。



 あたしは思案するのだけれど、やはり得意ではない。それよりももう1つ気になったことがあり、そちらに思考を傾ける。



「自分の国の話のわりに、随分と落ち着いているわね」



「……それはそうだよ。あたしに、あたしが何もしなかった期間のことで文句を言う権利があると思う?」



 ラムダが今にも壊れそうな笑みを浮かべた。

 あたしが小さく顔を歪めると、隣のロイが顔を伏せて握り拳を作ったのが見えた。



「ごめんなさい、失言だったわ」



「ううん、実際あたし自身ヴィヴィラに対して怒りとか悲しみとかの感情は浮かばないんだよ。ただ、もっとあの子に寄り添えていたらなってくらいしか、ね」



 あたしは頭を掻くと、ため息をついて向かいのラムダに手を伸ばして抱き寄せ、彼女を胸に抱える。



「あんたは悲しかっただけでしょ」



「え?」



「ロイのことに悲しんだだけ。悔しかったり、悲しかったり、あんたが抱いた感情に間違いなんてないし、それに文句なんて言われる筋合いもない。何も出来なかった過去に後悔するのは勝手だけれど、その時の心を、あたしは咎めることはしないわ」



「でも――」



「引きこもっていた時ならいざ知れず、あたしは手を差し伸べることなくさっさと歩いて行っちゃうけれど、あんたは今必死に追いつこうとしているでしょう――何とかしてあげるわよ。ヴィヴィラのことも、黄衣の魔王も。だからロイの時に抱いた感情を、心を後悔の理由にするのは止めなさい」



「――」



「女神だろうが何だろうが、あんたの、ラムダの心はラムダだけのものでしょう。心を理由に過去から目を逸らすくらいなら、最初から知らぬ存ぜぬで通しておきなさい」



「……」



 あたしはラムダを胸に抱き、そっと彼女の頭を撫でる。

 すると豊神は体を震わせ、あたしの胸に顔を埋めて腕を腰に回してきた。



「ったく、人だってたくさんの人がいてやっと国を回していけるくらいなのに、女神1人程度で国全部を何年も見渡せるわけないでしょうが。誰よ女神1人につき国1つなんて言い出したのは」



「――ルナぁ」



「あとで引っ叩いておくわ」



 そうして引っ付いているラムダをあやしつつ、少しの間休憩を挟むのだった。

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