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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。

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魔王ちゃんと2つの女神様

「はい、お茶とお菓子。フェルミナ様も飲みますか?」



「……」



「……フェルミナもいただきなさい」



 アリシアちゃんの言葉に、部屋に入ってから現れた大聖女フェルミナ=イグリースが僕の淹れた茶を口に運んだ。

 そんな大聖女様の横顔を見ながら、僕は無王の話を思い出していた。



「そういえばこの間無王に会いましたよ。お孫さんなんですってね」



「――」



 死の聖女となっている彼女の方がほんの少しだけ跳ねた。

 確かアヤメちゃん曰く、フェルミナ様は操られているとのことだったけれど、はて――アンデルセンの言うように、悪女であることが正しいのか。そんなことを考えていると、アリシアちゃんが僕をジッと見ていた。



「失礼、今は衣装の話でしたね」



「あの男の話は止めてあげて、この子もそれなりに苦労しているからね」



「なるほど、確かに随分と勝手な魔王でしたからね。むしろ良く家庭を持てたなと感心するくらいです。さて、デザインに希望はありますか?」



「今の衣装と似たようなものでも――」



「う~ん」



 それでもいいのだけれど、贈り物で同じような服を送ってもって気持ちはある。それなら別にまったく違うデザインでも良いのではないだろうか。



「アリシアちゃんが似合うって思うデザインじゃなくていいんですか?」



「うん? だから似たようなものでって言っているんだけれど?」



「ああうん、そう言えば姉妹でしたね。ねえアリシアちゃん、せっかく贈るのだからあなたのこだわり……う~んと、アリシアちゃんが贈ったってことがわかる方がいいと思うのですけれど?」



「……ウチから貰っても別に嬉しくないでしょ。だから姉さまから貰ったままの方がいい」



「良いわけないですが? アリシアちゃんからもらって嬉しくないはずないでしょ。デザインの案を幾つか描き出しておくので、真剣に選んでくださいね」



 むっとした顔を浮かべる夜神様だけれど、別に嫌なわけではなく、納得がしづらいという風だった。

 この子たちについても何かしらのちょっかいをかけたいのだけれど、如何せん僕は彼女たちの間で何が起こったのか知らない。

 だからこそ踏み込むためのきっかけがない。



 僕がそうしてデザインを練っていると、彼女の向かいに座っているジンギくんがフェルミナ様を見ていた。



「あの大聖女様と同じ名前なんて、ご両親も思い切ったことするもんだな」



『ああ、うん……ジンギ、ちょっと黙ってようか』



「いいよヴィヴィラ。それよりもジンギくん、あなたもこの美人に興味あるんだ? やっぱり男の子だねぇ」



「――?」



 ジンギくんが首を傾げてフェルミナ様を見た後、僕にも視線を向けてきて、体ごと首を傾げた。



「おいおいロリロリ大好きお兄ちゃん、その失礼な視線はなんだ」



「ろり? よくわからんが、そのフェルミナさんもお前も大差ないだろ」



「絶世の美女2人やぞ!」



「自分で言うな自分で。まあ美人だな」



「興味を持て興味を! なんだぁその思春期通り越して達観した態度は。セルネくんを見習いなさいよ」



「な~に怒ってんだこいつは」



『……ジンギ、あたしも女の子だから一応忠告しておく。別に誰これ構わず見せびらかしたくて着飾っているわけじゃないけれど、少なくともそんな路傍の石に向けるような視線を望んでいるわけでもないんだよ』



「ウチが思うに、ジンギくんは髪切ってもショートかロングの差くらいしか認識しなさそう。ランファちゃんは一体女の子の何を教えたのやら」



「別に知らない誰かのために可愛くするわけじゃないけれど、可愛くするってことは可愛いって大なり小なり思ってもらいたいってことだかんな!」



「……何で俺責められてんだ?」



 僕とアリシアちゃん、そしてヴィヴィラ様と、心なしかフェルミナ様も呆れたような雰囲気を纏っており、僕はため息をつく。



 そんな話をしている間に、ある程度のデザインが完成し、僕はそれをテーブルに並べた。



「ほい、色合いと形だけのざっくりした物だけれど、これで十分でしょ」



「――」



 アリシアちゃんが息を飲んでデザイン画を手に取った。

 そしてそれを見比べながら、時々フェルミナ様の体に並べるようにして真剣に選んでいる。



「なにか要望とかあったら遠慮せずに言ってくださいね」



「――ん」



 アリシアちゃんが目を輝かせており、僕はそんな彼女を見て微笑む。



『なんだ、ちゃんと末っ子らしい顔が出来るんじゃあないか』



「可愛いですよね~」



 そうやって和んでいるけれど、ふと僕は女神様――アリシアちゃんとヴィヴィラ様に意識をやる。

 そういえばアリシアちゃんは力を暴くのが得意だと聞いた。ヴィヴィラ様も僕の知らない力を持っているらしい。もしかしたら対シラヌイへの取っ掛かりが得られるかもしれないと、運命神様に口を開く。



「ねえヴィヴィラ様、少し相談があるんですけれど、良いですか?」



『シラヌイのことでしょう? まああれに関してはあたしたち揃って悩みの種だし、協力できるのならしてあげなくもない』



「助かります。僕たち友だちを迎えにシラヌイと事を構える気なんですけれど、ルナちゃんもアヤメちゃんもきっと一緒に来てくれるから、何かしらの対策が欲しいんですよ」



『思いつく限りで言うと、絶対防御や信仰を途切れさせないとかがあるけれど』



「そういうのって大抵信仰を使うんですよ。ルナちゃんとアヤメちゃんの世界の軸をずらす。なんてことも考えましたけれど、そんなことしたら僕が一切動けなくなります」



『ふむ……いっそのこと別人になるとか? 確かリョカちゃん出来たよね?』



「それも考えたんですけれど、あれは世界毎の姿を作るだけで、中身は一緒なんです。だからルナちゃんたちは姿だけ変わっても結局はそう言う存在になっちゃいます」



『なるほど、あたしたちはどこに行ってもそういう種族(・・)になるわけだ。これは厄介だね。連れていかなきゃいいんじゃない?』



「……その選択をするべきなんでしょうけれど、やっぱり一緒にいたいじゃないですか」



 ヴィヴィラ様が肩を竦ませたような気配がした。呆れられてしまっただろうか。

 でもこればかりはルナちゃんとアヤメちゃんの意思を尊重したい。それになにより、こうして僕たちの傍にいる間は女神様然としているより、妹でいてほしいと思うのは我が儘だろうか。



「リョカ、ヴィは羨ましがっているだけだぞ。自分もそれだけ大事にされたいなぁって――」



『思っていない! まったく、妙なことを言うんじゃあないよ。まあ、それなら他に手は……』



 ヴィヴィラ様が思案してくれているのだろうけれど、後ろでフェルミナ様の衣装を決めたらしいアリシアちゃんが声を上げた。



「んっ、これなら似合うでしょ。リョカちゃんありがとう」



「おっと、決まりましたか? それならパパッと仕立てちゃいますね」



 そう言って僕は現闇やらなにやら、それに加護も付けたサイズの違う衣装を幾つか作る。そしてそれを星神様の加護に溶かすようにして、いくつかのペンダントへと変えた。



「これなら嵩張らないですし、旅の邪魔にもならないですよね」



「……なんか多くない?」



「一着なんて寂しいでしょう。それとアリシアちゃんの着替えもね」



 アリシアちゃんが深いため息を溢すと、僕に近づいて来て額を指でついてきた。



「誰を相手にしているのか、もしかして忘れちゃった?」



「いいえ、可愛い子には可愛い衣装を着てもらいたいだけですよ」



「――ったく、本当にやりにくい。ああそうだリョカちゃん、お礼ついでに、シラヌイ対策だけれどリョカちゃんはそれが出来るよ。さっきヴィヴィラが話していたけれど、別の体があればそれで良い」



「え、でも」



「別のめが――ウチたちのような種族が存在するなら、そっちに移せばいい(・・・・・)



「移す……ああそうか! 体には互換性があるから信仰を別ルートで運べばいいのか。月を押さえられてももう1つの月で信仰を得れば」



「ん」



「うん、うん、それなら出来る。でもそうなると世界を作ってそれを通ってもらって体を発現させて、体だけを引っ張ってきて……よし! アリシアちゃんちょっといい?」



「え――」



 僕はアリシアちゃんの体に触れ、眩惑の魔王オーラを流す。

 けれどそれは世界を渡ったと言うことをでっちあげるだけで、彼女そのものの姿は変えずに、変わるはず(・・・・・)だった体を(・・・・・)引き寄せる(・・・・・)



「よっと」



「……ちょっと~、人で実験しないでくれる?」



「アリシアちゃんにもシラヌイが迫ったら危ないですから」



 そうして僕はアリシアちゃんがどこかの世界でとるだろう姿を崩して、小さなクマのぬいぐるみへと変えた。

 そしてそれをアクセサリーのように彼女のスカートの腰部分に取り付けてやる。



「どうかな?」



「……うん、信仰が、というより――終りの安らぎ(・・・・・・)じゃない? これは夜、ううん、世界を見る者(・・・・・・)か。そっちが別口で流れてきている。しかもこのクマ……余計なお世話って感じなんだけれど?」



「まあまあ、そうやって分けたうえで、僕自身の信仰(・・・・・・)で作られているから、シラヌイに触れられても信仰は途切れないよ」



「そっちじゃなくて――ああもういいや。でもいいの? 女神特権は使えないけれど、こっちはわざわざ許可とる必要(・・・・・・)もないんだけれど」



「もちろん、体に気を付けてくださいね」



 アリシアちゃんがまたまた盛大なため息をついたかと思うと、頬を膨らませて僕に目をやってきた。本当に可愛い子だなこの子。

 正直お持ち帰りしたいし、お父様とお母様にもう1人養子に迎えてもらえるように頼んでみようかな。



「足りない」



「ん~?」



「借りを作ったままってイヤなの。返してあげるからもう少し何か頼んで。撫でるとか抱き締めるとかはなし、そんなことお礼じゃなくてもしても良いし――」



 僕はすぐにアリシアちゃんを抱きしめた。

 は~駄目だ、吸いたい。



「む~……と、とにかくっ、何でもいいから言ってみなさい」



「は~幸せ――ハッ、え~っとそれじゃあ、ちょっといいですか?」



 僕はそう言って自分に眩惑の魔王オーラをかける。

 そして姿を変えたまま、ニヤと可愛らしく笑って見せるのだった。

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