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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。
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聖女ちゃんと拳の行く末

 頭が痛い。

 アヤメの時は別に何ともなかった。ルナの時も当然ない。クオンの時は頭が戦いというより、敵を殺すことだけに支配された。

 でもこいつ、ルーファの神核は、あたし(・・・)知らないあたし(・・・・・・・)が頭をぶつけあっているような感覚がする。



「……」



「ミーシャさん大丈夫ですか? 本当に女神が申し訳ありません」



「別にあんたが謝るようなことじゃ――ああ駄目ね、まだ抜けきっていない。放出する方法考えないと」



 ご飯を食べ終えたあたしは、とりあえず気分を晴らすために外に出てきた。

 リョカとアヤメ、ソフィアとテルネは寮にいるというので、ルナとセルネ、ガイルが付いてきた。



「しっかし、今日は珍しくルナが一緒なんだな」



「アヤメはこういうこと向いていないので。それと単純に惰眠をむさぼりたいとのことです」



「俺が言うことじゃないかもだけどよ、あいつ女神として大丈夫か?」



「……だめかもしれませんが、あれはあれで色々と担っていますので、こちらとしては任せるしかないのですよね」



「今あたしが何も出来ないからってダラダラを選択した訳ね。あとで首に縄を巻いて連れ出すか、セルネも来なさい」



「ひぃっ、せっかくばれないように黙ってたのに!」



 途端に涙目になるセルネの頭を、ペシペシと叩いているとルナがあたしの顔を覗き込んできた。



「なに?」



「いえ、さっきリョカさんに言われたルーファの神核の使用方法に納得できていなさそうだったので」



「……そうね」



 ルナが褒めて褒めてと言わんばかりのしたり顔で胸を張っていたから、その頭に手を伸ばしてやる。こればかりはルーファの神核の影響ではないだろう。

 獣も月も、随分とおねだりが上手くなった。



 そんな風に撫でていると、ガイルが何か言いたげな顔をしていた。



「あによ?」



「いや、いいじゃねえか不可視の拳。戦略も増えるし、何より使いようによっては戦いを有利に進められる」



「そりゃああんたはこの拳に勝利を込めているでしょうけれど、あたしはこの拳で、顔面を、敵を、殴りたいのよ。そしてこの拳で殴って殴って殴って、殴り続けて、踏みつけた平和の上で平和を願うのよ」



「ひゃっはぁ! これでこそミーシャ=グリムガントだぜぇ! やっと元に戻ってくれたよぅ!」



「……おい勇者、この危険思想に同意するんじゃねぇ。テッカがいない時にドン引き発言するんじゃねえよ、俺にまでツッコませるな」



「まだルーファの神核が残っているはずなのに、思想が強すぎますね」



 呆れるルナとガイルをよそに、あたしは少し思案する。

 本当に余計な力をつけてしまった。相手の信仰を使って攻撃する。こんなの、リョカが好みそうな手段だ。

 けれどあたしはそうじゃない。

 そりゃあ黒獣とかで戦闘圧を武器にはしている。けれどこれはそうじゃない。



 あたしの見立てでこれは、他人の信仰を利用した……ううん違う。

 あたしに歯向かうな、天に吐いた唾は自身に降りかかるものと知れ。というひどく身勝手で、信仰の量だけで勝敗を決めるつまらない争い(・・)をさせるための物だ。



 するとルナがあたしの袖を掴んできた。



「あ~……つまりこれは、ミーシャさんの信仰と相手の信仰を秤にかけ、その差分を拳として相手に攻撃するという力ですか」



「いや待て、ミーシャの信仰なんてほとんど天井ないだろ」



「神域に足を踏み込んでいるのでありませんね」



「そんな面白みもない力、使ったところで何が得られるというのよ。平和すらも得られないただの理不尽じゃない。あたしは聖女よ、理不尽を与えるのは魔王の領分」



「え、どの口が言うの?」



「……セルネ、さっきから随分と突っかかってくるじゃない。ちょっとあたしの実験に付き合ってくれない?」



「超遠慮させてください!」



 まあ実際のところ、だからと言ってどうするのかという話になるのだけれどね。

 あたしはリョカみたいに力の形を変えるなんてこと、簡単には出来ない。



「でも――」



 やるべきなのでしょうね。

 こんな力、聖女(あたし)には似合わないもの。



 あたしはただ、この拳で殴り合えればそれで良い。

 そうすれば大抵のことがわかる。だからこそ、あたしの拳だって届かせれば誰かにわかってもらえる。

 口にするよりもずっと確かな意思。

 そう、そうだ、だからこそやはり殴らなければならない。



 でも最近は――いや、イシュルミとの戦いは本当に胸が高鳴った。

 あいつとの殴り合い、あたしとあいつは確かにつながっていた。だからこそ、それを当たり前にしたい。

 あたしは聖女だ、他人の声が聞こえずにそれを名乗ることは出来ない。



 拳を届かせ合って、その声を聞かなければならない。




「いや、出来るじゃない」



「……なあ月神様よ、我らの聖女様がぶつぶつと覚悟ガンぎまった顔で呟いているんだがよ、あれはろくでもねえことを考えている顔だぜ」



「……ノーコメントでお願いします」



 あたしは手を叩き、セルネの腕をとって引っ張る。



「あれれ~、ガイルさん、ルナさん、俺すっごい嫌な予感がするんですけれど」



「ヘリオスにセルネは明日も休むって言っておいてやるよ」



「ごめんなさいセルネさん、わたくしでは、もう……」



 ルナとガイルが顔を逸らす中、あたしはセルネを引っ張っていく。

 とりあえずルーファの信仰を消費しなければならないし、少なくともセルネならある程度もつだろう。

 ついでに学園に寄ってタクトとクレイン、ジンギも連れてこようかしら。あの3人なら然う然う潰れないはずだ。

 あたしは拳を強く握り、普段とは趣の違う力の使い方に胸を躍らせるのだった。

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