魔王ちゃん、着替える
「さって! 今日から可愛いの押し売りをしていくよ!」
「一体何を始めるのよ。というかあんたその恰好は?」
遺跡探索から1週間、僕たちは学園への報告も終え、今日は目ぼしい依頼もなかったために自由時間と言うか、休暇となっていた。
「これ? 普段とは違うリョカちゃんをみんなに見せようと思って」
「肌を出し過ぎよ、ちょっとこっちに来なさい」
「え、ちょっと――」
可憐な妖精三点セットなる服を購入したけれどミーシャには不評で、彼女に引きずられるまま、ゼプテンでの拠点となっている家屋へと連れて来られた。
ちなみにこの家屋、僕がお父様から買った家で、ギルドにも市場にも近いからとても都合がいい。
そうして家に帰ってきたのだけれど、ミーシャが自室へと入っていき、何事かごちゃごちゃとしているような音をさせたと思うと、すぐに戻ってきた。
その手には服が握られており、あれやこれやと着替えさせられてしまう。
「いやミーシャ、これって」
着替えた服は膝上まである白のワンピースに、黒のローブを胸元で十字架の留め具で留め、脚には僕が開発させたレギンスと革製のブーツ、頭には修道女が被るようなベールをかぶせられ……何故これをチョイスしたのか。と、僕はミーシャを見る。
「ルナから貰ったけれど、あたしには似合わないからあんたにあげるわ」
「神具じゃないか! 僕魔王だけれど!」
「うっさいわね、あたしよりあんたの方が似合うんだから良いでしょう。そっちならお腹冷やさないわ」
「別に最初のだってそんなにお腹冷やさないと思うけれど。まあうん、どうせ返品不可だろうから有り難くもらっておくよ。それじゃあ今度お礼にミーシャに似合う服を見繕っておくよ」
「ん、期待しておくわ」
僕たちは改めて外に出ると、まずは冒険者ギルドに行こうと足を進める。
「そういえばミーシャ、今日は別に僕に付き合わなくてもいいんだよ。せっかくソフィアとカナデ、セルネくんがパーティーを組んで依頼に出たんだから、付き合ってあげればよかったのに」
「生温い依頼を受けてもしょうがないわ。それにあの子たちにあたしたちが付いて行ったら頼りきっちゃうでしょ」
「まあそうかもだけれど、今日は面白いこともないよ」
「だから良いって言ってるでしょ。あたしがいると都合でも悪いの?」
「そんなことはないけど」
ふとミーシャの顔を窺うと、拗ねる一歩手前であり、僕はため息を一度つくと幼馴染の手を取る。
「はいはいわかったわかった。今日はもうとにかくゆっくりしようか、最近忙しかったし、ろくに休んでなかったもんね」
「最初からそう言っているでしょ。で、今からどこに行くのよ」
「とりあえずギルドでちやほやされに行く」
「はいはい、おっさんたちにまた悪戯されるわよ」
「……それを目撃した君が顔面ぶん殴った所為で、そんなこと一切されなくなったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
ミーシャには黙っておくけれど、ギルド内で僕の幼馴染は魔王の守護者って呼ばれているけれど、どうして世界の癒し手が魔王の守り手になるのか。これがわからない。
「その後は買い物とか行く? ミーシャ実はこの街を見て歩いたことないでしょ? 結構楽しいよ」
「ん、じゃあそうするわ。で、可愛いを押し売りに行くんじゃないの?」
「そんなの勝手に買ってくれるからいいの。それにどんな状況でも僕は準備バッチリだしね」
今日はミーシャが大分素直だ。
そういえばこうして2人きりでお出かけするのは久々だったか。もしかしてミーシャは僕に構ってほしかったのかもしれない。
そういうのをもっとわかりやすく出してほしいけれど、それを指摘するときっと怒るだろう。
僕はその事を口に出さず、隣で歩く幼馴染にそっと目を向ける。
「なによ」
「ん~んぅ、別に~。せっかくの休みだし、今日は美味しいものとか、楽しいことをしようよ。ミーシャは行きたいところとかある?」
「ない。から案内してちょうだい。行先は任せるわ」
繋いだ手を離さないところを見るに、相当構ってほしかったようだ。
最近は他の冒険者やカナデやセルネくんに掛かりっきりだったから、たまにはいいだろう。
そうして2人で歩いているとギルドが見えてきて、ミーシャが手を離したために、僕たちはギルドの扉を開く。
すると、見知った顔がマナさんに詰め寄っており、僕は早足でその渦中に飛び込む。
「ですから。我らリョカ様から承ったっ!」
「オタク3連星っ!」
「リョカ様に仇なす敵を討つ!」
「わ、わかりましたわかりましたから! リョカちゃん今日はギルドにも顔を出してないから、居場所はちょっと――って、リョカちゃん」
「コラコラ、君たちはなにマナさんに迷惑をかけているのさ。マナさん僕の学友がごめんね」
「い、いえ、でもこれは学友なの? 家臣とかじゃなくて?」
「クラスメートですよ。で、オタクたちは一体どうしてここに?」
そう尋ねる僕に、オルタくんが勢いよく手を上げ、鞄から手紙を取り出した。
「はい! 実はカナデ嬢が大層この間の依頼のことを自慢してきたでござるから、拙者たち我慢できなくなり、ヘリオス師に無理を言って我々もこうしてはせ参じたでござる。あ、ギルドの関係者の方、こちらが師からのお願いでござる」
マナさんにヘリオス先生からの手紙が渡されたけれど、いくらなんでも学園からこれだけ冒険者ギルドに生徒を出すのはマズいのではないだろうか。
というか先生、もしかしたら僕たちをダシにギルドとの関係を良くしようとしているのではないだろうか。
「う~ん、つまり今後このギルドに来る学園の人は、みんなリョカちゃんたちと関わりのある子たちってことでいいのかな?」
「やっぱりか」
「はい、ヘリオス師からそう聞いています。師曰く、ギルドもリョカ様の身内であるのなら責任を彼女にとらせることも出来るだろうって。あ、でもでも俺たちはリョカ様とミーシャ様、それにギルドの皆様にご迷惑をかけるつもりでここに来たわけではないです」
「ああ、確かにリョカ様と依頼を受けることができるのは喜びではあるが、元々様々な知識や経験が得られる冒険者に興味があったのも事実だ。そんな素晴らしい場所で不義理は働かない」
クレインくんとタクトくんがマナさんに頭を下げ、3人揃って呆然と見ていた冒険者たちにも頭を下げた。
そして3人が揃って「よろしくお願いします!」と、声を上げた。
すると冒険者の彼ら彼女らが笑ってオタクたちを受け入れてくれ、考え込んでいたマナさんが僕に視線を向けてきた。
「うん、この3人ならそれなりに依頼をこなせると思いますよ。丁寧だし、真面目だし、何より引き際を弁えてる子たちでもあるから」
「リョカちゃんのお墨付きがあるなら良いかな。それじゃあ冒険者試験を受けるってことで良いかな? え~っと――」
「我らリョカ様から承ったっ!」
「オタク3連星っ!」
「リョカ様に仇なす敵を討つ!」
「わかったわかったって。えっと、オタク3連星さんでいいのね?」
「右から、オルタリヴァ=ヴァイスくん、タクト=ヤッファくん、クレイン=デルマくん、3人の頭文字でオタク、です」
「なるほど。えっとじゃあ、この子たちは今日もう試験をしちゃってもいいの?」
「いいんじゃないですか」
「じゃあリョカちゃん――」
マナさんは試験の監督を僕に任せようとしたのだろう。
しかしそれはギルド内全てを覆うように、まるで暴力の権化ともいうべき気配が僕のすぐ隣で発せられた。
「ひぇ……」
「ミーシャさん、生命力押さえて。タダでさえ少ないんだから無駄に消費しないの」
舌打ちをしたミーシャが不貞腐れたようにそっぽを向き、生命力を展開した暴力空間を押さえた。
「あ~その、今日は」
と、僕が断りを入れようとすると、慌てたようにクレインくんが手を叩き、ポーチから幾つかの瓶を取り出した。
「あ、あ~そうだ! 今日は俺たち、用事があるんでした! セルネ殿たちの様子を見てくるように師に頼まれていたんでした」
「え、あ、う、うんそうだったんだ。じゃあ試験は後日でも良い?」
「はい! ああそれとミーシャ様、ちょっといいですか?」
「……あによ」
「師からミーシャ様へと預かり物をしています。受け取ってください」
「ヘリオス先生から?」
クレインくんが10本ほどの小瓶が入ったホルダーをミーシャに手渡した。
「俺たちは良く知らないのですが、ミーシャ様が師に頼んだものだと聞いています」
「あら、もう出来たのね」
「なにそれ?」
「生命力を回復させる薬を作れないか聞いたのよ。そしたら色々聞かれて作ってみるって」
どんどんと攻撃手段を増やす幼馴染に戦きながらも、クレインくんが手紙を出した。
「ああそれと、この紙に注意事項を書いておいたそうなので、絶対に読むようにとのことです」
「わかったわ、ありがとうクレイン」
「いえいえ、では我らはセルネ殿に会いに行くので、お2人は休日を楽しんでください。我々は近場で宿をとっていますので、雑用やら何やらが必要であったらぜひぜひ声を掛けてください」
そう言ってオタクたちがギルドを出ようとすると、やり取りを見ていた冒険者の1人がセルネくんたちがいるだろう場所への案内を買って出てくれた。
僕は彼に礼を言うと、改めてマナさんに向き直る。
「クレインくん、中々優秀だね。受付にほしいわ」
「変な言動をしますけれど、根っこはいい子なので。それよりミーシャ、ああいうのは良くないと思うよ」
「何もしてないわ。さて、とりあえずここでちやほやされるんでしょ。さっさとやってきなさいよ」
「あ、うん」
さっきまで暴力が空気になったような雰囲気が展開していたここで愛嬌が振り撒けるだろうか。少し不安になりながらも、僕たちはテーブルに腰を掛け、冒険者たちと会話を始めるのだった。




