表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
37章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、暫し後の一服。
456/549

月の女神ちゃんと微笑みの聖女

「……」



 2日前からどうにも頭がポンヤリしている。

 リョカさんに提案されたライブ、人々が女神に――いや、わたくしに目をやり、誰もが可愛いと称賛してくれた。

 わたくしたち女神というのは本来であれば人の前に姿を現すことはほとんどない。仮に姿を現したとしても、リョカさんのように紙に書いて残すと言うことをしてこなかったために、口伝として残っていたとしてもいたるところがあやふやだ。わたくしなんてある区域では巨乳のお姉さんと言われています。



 そんなわたくしたちが人々の前に出て、直接信仰を集めるなんて言うことは未だかつて行なわれたことはなかった。

 いや、これは信仰ではないのだろう。わたくしたちの力にはなる。でもそれは女神という存在に力を与える物ではなく――。



「これがアイドルですか」



 わたくしはついぼそりと呟いてしまう。

 すると一緒に買い出しに付き合ってくれているミーシャさんがわたくしに目をやっている。



「この間からぼーっとしているけれど、もう大丈夫?」



「あっいえ、その、はい、体調はすこぶるいいです。心配をおかけしてすみません」



「何もないならいいのよ」



 ミーシャさんにまで心配をかけてしまった。

 リョカさんも口では言わなかったけれど、ずっとわたくしを気にかけてくれていて、昨日はずっと甘えてばかりいた気がする。

 事前にこういう時の心得をアヤメに聞いておくべきでした。

 あの子は慣れていると話していたけれど、一体あの子、向こう(・・・)ではどんな生活をしていたのやら。



 そろそろ頭の中を切り替えなければ。きっとすぐにカナデさんを迎えにベルギルマへと向かうでしょう。

 しかしそこにはわたくしたちの力を通さないシラヌイがいる。

 普段も守られてばかりだったけれど、いつも以上に気を引き締めなければきっとわたくしたちがリョカさんたちの足かせになってしまう。

 それはとても避けたい事態であり、なによりもわたくし個人としてそんな状況には陥りたくはない。

 せっかくリョカさんもミーシャさんもわたくしたちを女神としてではなく、個人としても頼ってくれているのに、ここで女神として足手まといにはなりたくはない。せめてかけるのならルナ=ジブリッドとして迷惑をかけたい。



「……近くなったからこそ色々気を回しちゃうのはリョカにそっくりね」



「え?」



「あなたたちが泣かずに、折れずに、一緒に歩いてくれているのならあたしたちから何も言わないわ。リョカもそうだけれど、迷うくらいなら聞きなさい。心がうずくのなら脚を動かしなさい。あなたたちが間違っているなんて、今まで思ったことはないんだから、歩んだ道のことならあたしたちがどうにでもしてあげられるわよ」



「ミーシャさん……」



 とても優しい言葉と信仰、信頼、そのすべてがわたくしの心に染み渡るように沈んでいく。

 ミーシャさんから与えられた心地よい心根に、わたくしは笑みを返した。



「……」



 返した……あれ?



 わたくしはそっとミーシャさんの横顔を見つめる。

 何かがおかしい気がする。

 普段通りにこの聖女は優しい。言葉もいつも真っ直ぐで、女神であろうとも力の湧いてくる喝を入れてくれる。



 でも、何かが変なのだ。



「ルナ?」



「あっいえ、その、え~っとですね――」



「そろそろ市場よ、はぐれないようにしなさい」



 差し出してくれたミーシャさんの手にわたくしは手を重ね、彼女がわたくしの歩幅に合わせて進んでいく。



 やっぱり変だ。

 中身は一緒なのに別の人類から優しさを貰っているかのような違和感。

 そこでわたくしは思い出す。



「ミーシャさん?」



「なに」



「ルーファの神核どこにやりましたか?」



「神核? ああそういえば。どこだったかしら、でも変な感じはしないわ」



「……本当ですか? それなら聞きますけれど、今ミーシャさんは何をしたいですか?」



「なにって、当然あなたをまも……まも。まも――まも? ま、まお」



「も、もういいです無理しないでください」



「……無理、なんて、あなたをまも――」



「……」



「――ふんっ!」



 頭を抱えたミーシャさんが体を震わせ、突然脚を大地に踏み抜いた。

 普段より大人しめな戦闘圧によって大地は少し砕け、我らの聖女様は顔をひきつらせた。



「ちょ、ちょっと休憩しましょう」



「ええ、そうしてちょうだい」



 ため息をつくミーシャさんの手を引き、わたくしは近くのベンチに彼女を誘導するのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ