魔王ちゃんと初めてのライブ前
「さて、それじゃあ本番だ。みんな用意も覚悟も可愛さを振り撒く準備もOK?」
翌日、陛下のパレード――まあ僕が提案したことなのだけれど、ただ王宮から手を振るだけではなくて、国民に顔が見えるように荷台の天井をぶち抜いて家族で王都を進んでみてはどうかという提案を取り入れてくれ、さらにはその終着点を僕たちのライブ会場にしてくれた。
街の人々は最初はなんだなんだと訝しんでいたけれど、この会場にいる人たち、そして空中に大きく映す巨大スクリーン、王都にいればどこからでも僕たちが見える状況で、陛下が大々的に宣伝してくれた。
大きなプレッシャーと期待だけれど、僕にとってはそよ風のようで――なのだけれど。
「……」
「テルネちゃん大丈夫?」
「……死ぬ」
「死なない死なない。でも本当に苦手なんだね」
「女神がこの程度で根を上げてどうしますか。もっと多くの人々からわたくしたちは存在を認知されているのですよ」
「お前だから少しは外に出ろって言ってただろうが」
「まあまあ、本に熱中することがテルネの信仰でもあるんだから、そこを責めたら女神としての在り方が変わっちゃうよ」
「そうだね。でもテルネ、今日はソフィアちゃんも見に来てくれているんだから、日ごろの感謝として目いっぱいやらないと」
「うっ、はい。でも……ルナ、私おかしくないですか?」
そう言ってテルネちゃんが控えめに両腕を広げ、今日のために用意した衣装を晒す。
「……わたくしより可愛いことしないでください」
「素直に褒めろ」
「テルネ姉さまちゃんと可愛いよっ」
不安そうな顔のテルネちゃんに小さくなった手を伸ばし、その頭を撫でる。
今回のみんなの衣装は初めてのグループライブと言うことで、みんなには同じ衣装を着てもらっている。
もちろん小物には最大限気を遣い、全員が個性を持って可愛くなるように仕上げたつもりだ。
衣装は少しこちらの世界での趣とは変わっているけれど、私だった時に所謂ポチポチっとプロデューサー業をしていた際にそのキャラクターたちがデフォルトで持っているライブ衣装のような、短いスカートと白いジャケットといったよく見るライブ衣装。
けれど初めてのライブだし、そんな奇抜にする必要もなく、そもそもメインは陛下の誕生日だ。
僕がそうやってうんうん頷いていると、ミーシャが呆れたような顔を向けてきており、僕は視線を返すのだけれど、いつもは少し見下ろす形で彼女を見ているから、逆に見上げるのは新鮮だ。
「……あんたはまた妙なことを」
「可愛いでしょ?」
「そうね、でも気を付けなさい。おばさんの目がマジよ」
「――」
「ひっ」
裏側が見たいと言ったお母様に、ついでに陛下の護衛をしてもらっており、ここまで陛下と一緒にやってきたのだけれど、僕を見る目と手つきがヤバいことになっていた。
「……こんな大掛かりな設備だけでも驚きなのにそれは一体何だ、ドッペルゲンガーか?」
「いいえ。世界ごとに在る僕の姿です」
「どういうこっちゃ。まあでもみんなと並んでいても遜色ない可愛さだな。元のままだとリョカちゃんの大きさが際立ってしまうからね」
「そうなんですよね。というかお母様、だんだん近づいてくるの止めてください」
「……仕方ないでしょう、母さんを思い出してしまったのよ」
「なんでこの姿でおばあちゃんを思い出すん?」
というかお母様、実はお母さんっ子? 僕にとってのおばあちゃんが好きなのだろう。
今の僕は銀髪ツリ眼のロリロリリョカちゃん。女神さまたちには悪いけれど、この姿の僕がきっと一番可愛いはずだ。
普段は出来ないツインテールだぞ。
「さて、それじゃあそろそろ準備しようか。みんなおいで」
女神さまたちが傍に集まってきたから僕は拳をつき出す。
みんなが首を傾げるけれど、まあゲン担ぎと気合入れのようなものだ。僕は笑みを浮かべる。
「それじゃあ精一杯楽しく、可愛く、この王都に僕たちの可愛さを刻み込んでやろう」
女神さまたちの元気いっぱいの返事を聞き、僕たちはステージへと駆けだしたのだった。