魔王ちゃんと賑やかな晩餐
「いやぁライブ前にゴタゴタが解決して良かったよ」
「ん。まあ別に親父はライブを邪魔するとかはしないだろうけれどね」
「だね、ミーシャもお疲れ様。今日と明日はゆっくりしな」
頷いたミーシャが夕食に手を付け始めた。
レッヘンバッハのおじさんとルーファ様断罪イベントは終わり、僕たちはジブリッドの屋敷で夕食をとっている。のだけれど――。
「ただの里帰りでこんなに色々な目に遭うとは思いませんでしたわ。もう情緒ぐちゃぐちゃですわ」
「ランファさん頑張りましたものね。私でも力になることがあったら言ってくださいね」
「ジンギジンギ、あっしにもあの変身見せてくださいですぜいっ、あっしと2人で変身パーティー組むですぜい」
「どう考えてもお前はやられる側だろうが。まあ後でな」
「ジンギの変身かぁ。俺もそう言う必殺技があった方がいいかな?」
「旦那さま旦那さま! ヒナのギフトに間違いはなしです! ちゃんと必殺技チックなスキルもあるですよ」
「俺も第2ギフトほしいなぁ。勇者であることは誇っているけれど、こうもみんな新しいギフトを貰っているのを見るとなぁ」
「セルネくんは特殊な聖剣を使いますからね。中々決めかねているのではないでしょうか」
「あら、それならルーデルの坊やもオルタとマナのように扱いてあげましょうか?」
「……これ以上うちの生徒をボロボロにしないでください。今日も2人は帰って来られなかったではないですか」
「セルネくんはあれだよね、正直手を出しにくい感はあるよね。そこんところどうなのさテルネ」
「ええ、まあ。セルネの信仰が女神に向いていないので、正直誰もやりたがらないというか、後回しで良いかなという風に、あちこちに回されていますからね」
「リョカちゃんとミーシャちゃんのおかげで優秀は優秀なんだけれどね。前例が全くないから僕たちも決めかねているんだよね」
「う~んぅ? ヴィヴィラ様ぁ、信仰ってどんなお味なんですか?」
『ん? ああ無味。正直君たちの食事が羨ましい』
多いなぁ。
僕は苦笑いでみんなを眺めていると、両隣りに座っているルナちゃんとフィムちゃんが顔を覗き込んできた。
「騒がしくしてすみません」
「いいえ~、みんな楽しそうで癒されますよ」
「リョカお姉さま、こういう賑やかな空気好きですよね?」
「ん~……まあね。あんまり経験がなかったから、物珍しさから率先して賑やかな空気にしていたけれど、いつの間にかこの空気がひどく心に馴染むんだよ」
「そりゃあお前、あんな世界で1人で生きてるつもりになってりゃあわかりやすい空気が馴染むに決まっているでしょう」
「……まるで僕と同じ空気を吸っていたかのような言い方だね? 何か食べたいものありますか?」
「ちゃんこ鍋食べたい」
「ド直球にぶっこんできましたね。まあいいですよ、今度作ります。でもあれ力士が作る料理全般のことで、僕が作ってもちゃんこにはならないんですよ」
同じテーブルの正面で歯を見せて笑っているアヤメちゃんを撫で、僕はミーシャに再度目を向ける。
「そういえばミーシャ、おじさんは?」
「おじさんと飲むって」
「お父様と?」
「レッヘンバッハにはルーファを貸しましたので、会話しながらお酒を飲んでいるみたいですよ」
「なるほど。お父様とおじさんって、何だかんだ仲良いんだよね。結局お父様が陛下にお咎めないように通したし、おじさんもおじさんで、次は負けんがな。って捨て台詞吐くしで」
「なんだお前知らなかったのか? ジークランス――お父様とレッヘンバッハ、エルファン……陛下の3人は若い頃に一緒に旅していたんだぞ。その旅の途中でレッヘンバッハは教会と貴族の戦争を止める足掛かりを得て、お父様はお母様に一目ぼれして、陛下は国の行く末を思い描いた」
「え、初耳なんですけれど」
「あたしも初めて聞いたわ」
苦楽を共にしたからこその仲か。
どおりでお父様はおじさんに何だかんだ甘いわけだ。そして陛下が僕たちに気安くしてくれるのもそう言う理由だったか。
「この3名の旅はわたくしたちの間でも未だに語られることなのですよ」
「私も聞いたことあります。珍道中の人情物って感じです」
「そりゃあ中々に愉快だったろうね」
僕はミーシャとルナちゃんアヤメちゃんに目をやる。
「ん?」
「僕らも負けてないけどね」
「そうね。次はどこに行く気かしら?」
「当然、寂しがり屋のお友だちを迎えにだよ」
「……無事かしらね」
「無事だよ。あの子は強い子だ、迎えに行ってあの可愛い顔で抱き着いてきてもらわないと」
「ごめんなさいリョカさんミーシャさん、シラヌイに関して、わたくしたちは力になれるかわかりません」
「何言ってるのさ、一緒にいるだけで僕の力になることは確実だよ」
「そうね、シラヌイ相手だからってまさか来ない気?」
「行くに決まっているでしょ。そもそもカナデはあたしの国の子よ。それにチビ――プリマだってその、色々回し……いやその、結構大事!」
「アヤメ? そんなに慌ててどうしたんですか?」
「いや~なんでも」
「ルナ気を付けなさい。アヤメのあの尻尾の振り具合、相当重要なことを隠している時の合図よ。しかも女神関連の力」
「俺そんな尻尾の振り方してるの!」
「……まあいいでしょう。追々わかってくると思いますし、今は聞かずにいてあげます」
肩を竦めるルナちゃんを撫でていると、フィムちゃんが頬を膨らませていた。
「ルナお姉さまとアヤメお姉さま良いなぁ」
「スピカとウルミラに頼んでみたら?」
「でもあの子たち、今は忙しいから」
「まったく、忙しさを理由に女神様をないがしろにするとは」
「本当ね、スピカには次会った時聖女としての心得を叩きこまなければならないようね」
「あぅ」
「きっと今も聞いているんだろうね。そうだ、せっかくランファちゃんが行くんだから、フィムちゃんは彼女にグエングリッターを案内してあげなよ。一緒に道を歩いて、一緒にご飯食べて、一緒のベッドで寝て――」
「わっわっ」
「リョカさん、それくらいに」
「スピカがテッド経由で私たちも行くわよだとさ」
「それは何より」
「えへへ、リョカお姉さま、ミーシャお姉さま、ありがとうございます」
僕とミーシャに撫でられて、フィムちゃんが喉を鳴らして可愛い笑顔を向けてくれた。
「さて、明日は本番だ。今日はしっかり寝ようね」
「リョカさん一緒に寝ても良いですか?」
「あっ、私も良いですか?」
「もちろん」
「じゃあアヤメはこっちね」
「俺はいつもお前の布団で丸まっているわよ」
こうして僕たちは夕食を終えたのだった。