聖女ちゃんとかみ合ったグリムガント
「……」
「……」
あたしは隣に座る親父をちらと覗く。
「え~それでは、ルーファへの罰は、加護付き防具一万点ということで――」
「馬鹿やろおー! ルナあんたあたしに怨みでもあるのか」
「恨みはないですけれどけじめですので、それにこう最近ですね、イヤだイヤだと言われると喜んで差し上げたくなるのですよ。フリってやつですよね?」
「違うけど! おいアヤメ! ルナが変な影響受けてんぞ」
「あ~うん、いいんじゃないの? 俺はもう慣れたし、避け方も心得ているわ」
「嫌がらせ度合いが上がっただけで大分有情でしょ。そもそもルーファ、君の代わりに僕が働かなくちゃならいないことに関して何かないの?」
「いえあの、その、あたしはただですね、その――」
「隠し持っていた酒は全て僕の喉に消えたからね」
「あぁぁぁぁっ」
愉快に丸まる女神を横目にしていると、親父の口が開いた。
「……あ~ミーシャ、随分と明るいところにいるんだね」
「あたし聖女だもの。どこにいても明るいわよ」
「それは何より」
「……」
別にあたしたちは仲が悪いわけではない。
それなりの敬意は持っているし、実際理由と思想はどうであれ、この親父は偉大なことをしたのだ。
でもこう、アホみたいなやらかしを目の前にしてしまうと、呆れるというかため息を1つ吐きたくなる。
「……お父さん、嘘は言っていないんだよ。方便は垂れるけれどね、嘘は吐かない。平和の世界に生きたいというのは本心さ。平和な世界ならさ、お前もお母さんも傷つかなくて済む」
「……」
「この世界が悪いとは思っていないさ。でもね、人なんてものがいる以上、善もあれば悪もある。少なくてもお父さんは、善より悪に多く出会っているんだよ」
「そう」
「母さんはボーっとしているだろう? お前も少し前までは走ることも出来ないほど体が弱かった」
「そうね、でももう10年ほど前よ」
「10年……そんなに経っていたか。どうりで大きくなっているわけだ」
親父の手があたしの頭に伸びてきたから、反抗せずに受け入れる。
撫でられたのなんていつぶりだろうか。
「あたしも、改めてグリムガント――親父の娘なんだって思えたわ」
「ん~?」
「敵がいなければ顔面殴れないもの」
「はっ、元気になってパパ嬉しいよ」
「ええ」
あたしは立ち上がり、わいわい騒いでいる女神たち、友人そして妹と幼馴染の下に足を進ませる。
「ミーシャ」
「うん?」
「グリムガントは世界に愛されている。好きなようにやりなさい」
「うん」
あたしは楽しそうに笑うアヤメとルナの頭に一度手を置くと、幼馴染に目をやるのだった。