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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
36章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でライブデビュー

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輪廻の魔王さんと外の魔王ちゃん

「この辺りで休憩にしましょうか。オルタくん、マナ嬢、お疲れ様でした」



「……」



「……」



 瞳から光が失せている2人がその場に座り込み、倒れるように横になった。



 今私たちはリョカさんに作ってもらった絶界の中で、大量にいる魔物をオルタくんとマナ嬢に討伐してもらっていた。

 発案はリーンフォース――リーン殿で、魔物はラムダ様に提供してもらった。



 するとヘリオス先生が2人に飲み物の入ったカップを手渡しており、彼特製の回復薬だと話した。



「いやはや、教員としてお2人の教え方は勉強になります」



「少しでも役に立ったのなら幸いです」



「ロイ、あなたのおかげで少し温くなったわ。もう少し追い込むべきでしょう」



「リーン殿、オルタくんはまだ学生で、マナ嬢に至っては元々非戦闘員ですよ。厳しいだけの鍛錬に耐えるだけの心持ちも体も出来上がっていないのです。幼い頃に崖から突き落としては、その子は困惑と絶望しか覚えないでしょう」



「リョカはバカヤロウって文句言いながら普通に帰ってきたわよ」



 すでに試したことに文句を言うべきか、リョカさんは特別なのだと説くべきかを悩み私は頭を抱えた。すでに成功例がある以上、この話は分が悪いだろう。



「そもそもオルタは太り過ぎよ。その体絞り切るまで返すつもりはありません」



「無理矢理体形を変えると後に支障が出ますよ。そう言うことはゆっくりと時間をかけてですね――」



「却下、あたしなら7日で絞り切れます」



「相変わらず苛烈な人ですね。私的には子どもが苦しむ姿は見たくないのですが」



「散々苦しめてきた前科持ちが何を言っているのよ――」



「止めてくださいね」



 本当にやりたい放題の人だ。ミーシャさんがここまで勝手にならないように私が導かなければならないと改めて決意する。



「さすがの夜王ですね。ミーシャ=グリムガントがまともに思える日が来るとは」



「ヘイルオーズ、あなたは今教育者でしょう? 教育にはある程度の厳しさは必要だとロイに説いてあげなさい」



「ヘリオスですリーンフォース。確かに厳しさは必要ですが、やり過ぎればただの暴力と変わらない。極端な教育ばかりでは現場は回らないのですよ」



「リョカにはもっと強くしていましたけれど」



「……前提として、リョカ=ジブリッドを対比に出すのは止めてください。あの子は前世があったのではないかと疑えるほどに賢くて強い。普通では考えられないような在り方だ」



 ヘリオス先生の発言に、私も覚えがあり頷く。

 リョカさんというのはとても変わった在り方の人だ。だからこそ人一人分の生涯が詰まっていてもおかしくはないというのはわかる気がする。

 ふと視線をオルタくんたちに向けると、2人は本当に辛いのか、ずるずるとリーン殿から距離を取り、離れたところで先生の回復薬を口に運んでいた。



「あるわよ、前世の記憶。あの子はルナが別世界から連れてきた子だし」



「――は?」



「……今なんと?」



「だから、前世の記憶です。別の世界で死んだあの子の魂を、ルナが――正確にはアヤメ、神獣が世界を渡って連れてきたのよ」



 さも当然のように言い放ったリーン殿に、私もヘリオス先生も顔を見合わせる。そんなことがあり得るのだろうか。



「あたしの母さんは少し反対していたけれど、性質上あたしは子を成し辛かったから、どこかの世界の住人であったとしても受け入れたのよ」



「別の世界……」



「あたしはよく知らないけれど、ひどく文明の発達した世界だったみたいね。ちょろとルナに聞いてみたけれど、神が形骸化されて久しい世界だとか、人の力だけで世界が形成された世界だとか、まああたしには合わなさそうな世界だって言うのはよくわかるわ。それに聞いた限りリョカにも難しかったのでしょうね」



「よく記憶を継いだ魂の子を受け入れようと考えましたね」



「どんな魂を持っていようともあたしのお腹から産まれた子です、それならあたしの子でしょう? それにあたしが子を成すにはあたしと同程度の神格(・・・・・・)が必要になってきますし、エルファン……は駄目ね、神格が低い。せめて100から200年ほど前の教会最上位くらいの神格が必要になりますから、どうあってもジークとの子は成せなかったのですよ」



 なぜ子を成すのに神格が必要になるのかと問いただしたかったが、それよりもリョカさんの出生が衝撃過ぎて言葉に詰まっていた。



「あら、それともかの血冠魔王と無王を退けた大英雄ですら、魂を引き継いだ子は化け物に見えるのかしら?」



「……いえ、彼女は恩人です。今さら態度を変えるなんてことはしませんよ」



「どうあれ彼女はリョカ=ジブリッドだ。私はそれしか知りませんからね」



「そう。ならこれからも良くしてあげて」



 オルタくんとマナ嬢には……聞かれていないようですね。

 事の大きさに関わらず、この情報はあまりにも衝撃的すぎる。わざわざ彼女の周囲の人間に知らせることもないだろう。



「しかし、リョカさんのことではもう驚かないと決めていましたが、まだまだ驚かされるとは。やはり目が離せませんね」



「まったくです。教員としてはこのまま世界に害をなすことなく成長してほしいものです」



「……ふむ」



「リーン殿?」



 すると突然リーン殿が私と先生を値踏みするような視線を向けてきて、先生と揃って首を傾げる。



「片方は子持ちの寡夫、もう片方は元大英雄の教員でそれなりの収入」



「……リーン、言っておきますけれど、私は生徒と教員の恋愛はご法度だと考えていますからね」



「私は一途ですので、再婚は今後も考えていませんよ」



「つまらない人たちですね。アンジェは確かに可愛かったけれど、うちのリョカも中々だと思いますよ」



「あなたとリョカさんのように可愛さだけで物事は計りませんよ」



 リーン殿……リーンが頬を膨らませているけれど、母親は割と娘の結婚には積極的になるのはなぜだろうか。私なんてエレノーラが嫁ぐ夢を見て泣きそうになったというのに。



「さて、それではそろそろ再開しましょうか――オルタ、マナ、あたしから逃げたいのなら今の実力を百回りほど大きくしてからになさい!」



「ひっ!」



「あ~ん、私ただの受付なのにぃ!」



 オルタくんとマナ嬢の声がこだますると同時に、世界の温度がいくらか下がり、目の前からリーンの姿が消えた。

 魔物を倒しながらリーンから逃げるという鍛錬が再開されたのだった。

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