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よくある魔王ちゃんと聖女ちゃんのお話。  作者: 筆々
36章 魔王ちゃんと聖女ちゃん、王都でライブデビュー
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魔王ちゃんと眩惑の魔王オーラ

 ランファちゃんがグエングリッター行きを決めたほんの数日、陛下の生誕祭を明日に控え、僕たちは最後の追い込みをかけていた。



「はい、それじゃあもう一本やって休憩しようか」



 僕と女神さまたちは全身をジャージで覆い、ステップステップと生誕祭で披露する踊りを詰めていた。

 しかし案の定というか、思った以上というか、ここまでなのかというか、困ったことが1つあり、僕は頭を悩ませていた。



「……」



「テルネ……」



「お前、いくらなんでもひど過ぎだぞ」



「ここまで体動かせない子だったかなぁ」



「あ~、最近は僕の前でも平気でダラダラしていたからねぇ。お菓子食べながら仕事しないって何度注意したことか」



 ルナちゃんとアヤメちゃん、ラムダ様と数日前に合流したクオンさんに呆れたような視線を向けられているテルネちゃんなのだけれど、僕の絶界の空――虚空を呆けた瞳で見つめ、ポカンと口を開きっぱなしにして肩で息をしていた。



「リョカお姉さまリョカお姉さま! 体動かすの楽しいです!」



「そっかそっか、フィムちゃんはアイドル適性満点だねぇ。グエングリッターでもスピカやウルミラに披露してあげると良いよ」



 ルナちゃんたちが流れた汗をタオルで拭っている間も、フィムちゃんは動き回っていた。星神様は本当に元気で可愛らしい。



 すぐ飽きると思っていたアヤメちゃんも、体を動かし始めたらノリノリで誰よりも早く踊りをマスターした。

 ラムダ様もクオンさんも覚えは早く、まったく躓くことなく振り付けもコーラスのパートも完ぺき。

 ルナちゃんとフィムちゃんはさすがで、もう僕が教えられることは何もない。



 けれどテルネちゃんが本当にダメダメだった。

 振り付けをやろうにも体がついて来ておらず、コーラスも声が小さい。やる気がないとかではなく、本当に苦手なようだった。



「だから……言ったん、ですよっ」



「いやお前それにしたって動けなさ過ぎよ。普段どんな生活してんだ」



「……本を読む。食事。ソフィアとお茶会。本を読む。本を読む。食事。入浴。本を読む。就寝」



「それ全てにお菓子食べながらでしょう? いくら病気にならないからってちゃんとした生活は心がけようって、僕テルネがここに降りてくる時口酸っぱく言ったよね?」



 クオンさんがテルネちゃんの額を指でつつき、手を腰に沿えて頬を膨らませて言い放った。まるで幼な妻だぁかわええ。いや、もしくは年の離れた年下幼馴染――。



 するとテルネちゃんと生活を共にしているソフィアが申し訳なさそうに頭を下げていた。

 ソフィアとランファちゃんが丁度差し入れとついでに様子を見に来てくれた時で、そのタイミングでそんな会話をしたものだから、そりゃあこんな空気になる。



「ソフィア、あなた女神様を堕落させるとはやりますわね」



「そんなつもりはなかったのですけれど、結果としてそうなってしまったことは深く反省しています」



「いやいやソフィアちゃんのせいじゃないよ。テルネがそういう話を一切しなかったんでしょう? 女神の体も完ぺきじゃない、人と同じでため込めばため込むだけ肥える」



「肥え――」



 テルネちゃんが顔を引きつらせてクオンさんを恨めしそうに見ていた。

 しかしソフィアが首を振り、僕とルナちゃんとアヤメちゃんに目をくれた。



「いえ、リョカさんはしっかりとルナ様たちの健康管理もしていますし、私だけ出来ないというのは理由になり得ません」



「ほらテルネ、君の不手際を信者に責任取らせるつもり?」



「ん゛ぅ!」



「あ、あの――」



「あのねソフィアちゃん、ここで問題なのはソフィアちゃんが保護者じゃなくて、女神であるテルネが君を監督すべきという話なの。君がテルネのことをとっても想ってくれているのはわかり切っているからさ、ここは僕に厳しくさせて」



「は、はい! 差し出がましくて申し訳ありません」



「ううん、テルネも毎日楽しそうで君には本当に感謝しているんだよ。でもだからこそ、そんな素敵な信者にまで迷惑をかけるような女神ではいけない。わかってるよねテルネ」



「はい……」



 テルネちゃんが珍しく押されている光景に、僕は多少のときめきを覚えながらも、ふといつもこういう時にまっさきに煽りそうなルナちゃんが静かなことが気になり、彼女に目をやる。



 しかしルナちゃんは額から冷や汗を流しながら顔を逸らしていた。



「ルナも説教受ける?」



「い、いえ、わたくしは大丈夫なのでテルネに集中してください」



「まあルナのことはアヤメに任せているから強く言わないけどさぁ」



「はっ! 俺がルナに言えるほどまともな生活していると思っているの? む~りぃ!」



「……腹立つなあの獣。本当リョカちゃんがしっかりしていてくれて助かるよ。こういう時ラムダも強く言わないし、本当ありがとうね」



「一応あたしだって気にしているよ。ただやっぱりルナたちは小さい時から知っているから甘やかしたくなっちゃうじゃない」



「わかるけどね。でもこの世代、ルナもテルネも、ルーファもだけれど、仕事しか出来ない子たちになっちゃったじゃん」



「アヤメみたいに仕事も出来ない子よりはずっとマシでしょ」



「お前ら俺をクッションにしないと他人も貶せないの?」



 と、長女世代が言い合いを始めてしまい、僕は苦笑いを浮かべてソフィアとランファちゃんが持ってきてくれた水筒に入ったお茶を幾つかのカップに注ぐ。



「中々大変ですわね」



「まあ楽しいよ。みんな可愛いし」



 するとフィムちゃんが動くことに満足したのか、走り回っていたのをやめて敷物に座る僕の膝に乗ってきた。

 先ほどまで動いていたからか星神様の体はホカホカしており、何となくいいにおいがする。



 僕はフィムちゃんにお茶の入ったカップを手渡すと、彼女は満面の笑みでお礼を言った。



「テッドも来ればよかったのになぁ」



「スピカが許さないでしょう。まあもし機会があればアリシアちゃんとテッドちゃんの3人でトリオを組めばいいんじゃないですか? 振り付けも歌も考えておきますよ」



 フィムちゃんが咲いたような満面の笑顔で頷き、僕はナデナデと頭を撫でる。



「そう言えばリョカさん、思ったのですけれど女神様の中に入って一緒に歌うのですか?」



「うん? ああ、身長差が気になる?」



「ええ、女神さまたちは小柄なので、リョカさんがそこに入ると何とも見栄えが悪い気がして」



「もちろん対策済みだよ。僕もさすがにこのちびっ子軍団の中で巨人よろしく目立つつもりはないよ」



「対策とは何ですの?」



「ちょっと待ってね――」



 僕は膝の上のフィムちゃんを横にどけ、体に魔王オーラを流す。



 世界を作っては渡るということを繰り返していく内に、そういえば僕――私の魂は今ここにあるけれど、体は本物かという疑問を覚えた。

 リョカ=ジブリッドなのか、向こうでのおっさんなのか。本当(・・)を考えると頭が痛くなる。

 ならばと、僕は1つの結論にたどり着く。



 この世界での僕の姿は本物なのだ。

 ならば世界を渡った時、僕は本物になり得るのか――つまるところのイデア理論。

 その世界に合った僕の姿がある。



 それを決めるのは神か仏か、はたまた魔王か――つまり、世界を通るという結果を魔王オーラに再現させ(・・・・)、僕の姿は何かという疑問提唱を促し、ドッペルゲンガーのように姿を変えるのではなく、()()()()()()姿()()()()()()()()()()



「『()()()()()()()()』」



 小さく呟いた声に、ソフィアもランファちゃんも首を傾げ、辺りを見渡した。



「あ、あら? リョカさん?」



「どちらへ――」



 僕は彼女たちの隣で(・・)お茶を口に運んだ。

 すると言い合っていたアヤメちゃんが顔を引きつらせてこちらを見ており、僕はその小さな手(・・・・)を振った。



「……よく見なさい、隣にいるわよ」



「え?」



「え!」



 ソフィアとランファちゃんが視線を下ろして僕を見た。



「やっ、小さい(・・・)僕も可愛いでしょう」



「なにが可愛いよ。無理くり世界を渡りやがったな?」



「さすがアヤメちゃん、()()()()()()()()()()()()()()()()



「メリットは?」



「ドッペルゲンガーとは違ってこの体が本物。スキルによるものじゃないから突発的に解けるなんてことはないね」



「……他には?」



「な~いしょっ」



 僕の体は小さくなっている。というより完全に小学生――女児であり、相変わらずな銀色の髪をなびかせ、僕は髪を掴んでポニーテールにする。



「これなら違和感ないでしょ」



「え、ええ、どうなっているんですの?」



「これは――」



 驚くランファちゃんと、思案顔を浮かべているソフィアと彼女に近づいて何か話し合っているテルネちゃん。

 フィムちゃんは嬉しそうに僕の手を取って笑っており、ラムダ様とクオンさんは苦笑い。



「それ、もしかしてわたくしたちにも使えますか?」



「そりゃあもう――」



 するとルナちゃんが瞳を輝かせて胸に手を置いたから先手を打つ。



「あっ、一部分を大きくするみたいな細かいことは出来ませんのであしからず」



「――」



「しょうもないこと考えてくれるなよ最高神」



 アヤメちゃんにも釘を刺され、顔を伏せた月神様を横目に僕は手を叩いた。



「それじゃあこの姿で一回合わせてみましょうか」



 女神さまドン引き空気の中僕はそう提案すると、元気に返事をしてくれ、練習を再開するのだった。

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